大学を卒業したら結婚しようと約束していた幼馴染は、私の卒業式の日、偽物のお嬢様・江原志乃(えはら しの)にプロポーズした。一方、世間から「東都の仏子」と呼ばれる九条蓮斗(くじょう れんと)は、幼馴染のプロポーズが成功したその日に、堂々と私に愛を告げてきた。結婚してからの五年間、彼は私に限りない優しさを注ぎ、甘やかしてくれた。けれど、ある日偶然、彼と友人の会話を耳にしてしまった。「蓮斗、志乃はもう有名になったんだし、これ以上江原佳織(えはら かおり)との芝居を続ける必要ある?」「どうせ志乃とは結婚できないんだ。どうでもいいさ。それに、俺がいれば佳織は志乃の幸せを邪魔できないだろ?」彼が大切にしていた経文の一つ一つには、すべて志乃の名前が記されていた。【志乃の執念が解けますように。心安らかに過ごせますように】【志乃の願いが叶いますように。愛するものが穏やかでありますように】……【志乃、俺たちは今世では縁がなかった。どうか来世では、君の手を取って寄り添いたい】五年間の夢から、私は突然目を覚ました。偽の身分を手配し、溺死を装う計画を立てた。これで、私たちは生まれ変わっても、二度と会うことはない。偽の死に向けた最後の準備を確認し終えると、私は電話を切った。あと二日で、彼らの望み通り、この世から永遠に消えることができる。その時、ふわりとした淡い白檀の香りが、部屋の外から漂ってきた。私は無意識に顔を上げる。そこにいたのは蓮斗だった。彼は私を抱きしめ、優しい声で問いかけてくる。「今、誰と電話してたの?」「ううん、画廊のことよ」私は微笑みながら、できるだけ自然に聞こえるよう努めた。蓮斗は私の頭にそっとキスを落とし、柔らかく囁く。「最近、色々忙しそうだね。今夜は何かあっさりしたものを作ってあげるよ。胃を休めないと」蓮斗と結婚して五年、彼はずっと私に優しかった。過剰なほどに甘やかしてくれた。誰もがこう言う――仏子が一度恋をすれば、それは一生一世のものだと。私も、これが自分の幸せだと信じていた。けれど今ようやく気づいた。この結婚は私の幸せなんかじゃない。蓮斗の中にある志乃への守護心が形を変えただけなのだと。蓮斗は私の肩を優しく撫でながら、ふいに口を開いた。「そうだ、明日江原家で祝
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