葛城詩織(かつらぎ しおり)は、恋人である榊玲司(さかき れいじ)に頼まれ、ベッドの上で「ご主人様と子犬ごっこ」に付き合ったこと以外、これまでの人生で、人目を引くようなことは無縁の、ごく平凡な女性だった。カーペットの上で、玲司は詩織の耳たぶを軽く噛みながら、「いい子だ。なんて言うか、分かってるだろ?」と囁いた。詩織は唇を噛みしめた。その言葉はあまりにも屈辱的で、どうしても口に出すことができなかった。「詩織、他の女は色々できるのに、お前は障害者で何もできないんだから、せめて言葉で俺を喜ばせることくらいできないのか?」3年前の事故で詩織は両足を失って以来、玲司が寝たきりの詩織の祖母とともに詩織の面倒を見ていた。罪悪感と劣等感がこみ上げてくるのを堪え、詩織は涙をこらえ、無理やり陶酔した表情を作りながら、「わんわん!もう待ちきれないです。ご主人様、お好きにしてください......わんわん!」と言った。玲司は詩織に、あの言葉を言うだけでなく、犬の鳴き声の真似まで強要した。「よし、いい子だ。望みを叶えてやる!」玲司は急に興奮し、鞭を血が出るまで何度も、詩織の背に叩きつけた。彼は詩織の背についた血滴に口づけ、「詩織、お前は自分がどれほど美しいか、気付いていないんだな。愛してるよ」と言った。詩織の緊張が解けた。彼女は玲司のこの趣味が好きではなく、ベッドの上ではいつも恐怖と屈辱を感じていた。しかし、彼を喜ばせ、「愛してる」の言葉を聞くため、2年間も耐えてきたのだ。行為が終わると、玲司はぐったりとした詩織を抱きかかえ、浴室で体を洗い、傷ついた背中に優しく薬を塗ってやった。「今日は疲れただろう。ゆっくり休め。俺は友達と約束があるから、先に行く」ベッドの上では別人のように激しい玲司だが、普段は非の打ち所のない完璧な恋人だった。裕福な家に生まれ、容姿端麗で、優しく大人で一途。まるで物語の中から出てきた王子のようだった。彼が去ってしばらく後、詩織も友人の集まりに出かけた。しかし、建物の下で、玲司の姿が一瞬見えた。彼もここにいるのだろうか?詩織は彼に声をかけようと追いかけた。個室の外に着くと、中から自分の話が聞こえてきた。「玲司さん、3日後には葛城の個展だ。準備は万端か?」詩織は芸術の才能に恵まれていた。事故で足を失い、ダンスが
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