玲司は震える声で言った。「詩織、お前か?やっぱり生きていたのか!」しかし、彼女まであと3歩というところで、彼は足を止めた。詩織の足は......彼女が立てるはずがない。玲司は胸に広がる苦しさを押し隠しながら、名残惜しそうに彼女を見つめた。どうやら、また幻覚を見てしまったようだ。ここ数年、彼は幻覚や幻聴に悩まされていた。眠りにつくと、詩織が隣で寝ているような気がして、夜中に起きて何もないところに毛布をかけたり、朝起きると聞こえるはずの無い詩織が朝食のメニューを告げる声が聞こえたりする。キッチンで料理を作り、食卓に並べてやっと、そこには誰もいないことに気がづく。このようなことが何度も続き、さらにこの行動は両親の目にも止まった。彼らは息子が悪霊にでも取り憑かれたのではないかと心配し、祈祷師を呼んで祈祷させたこともあった。しかし、最終的に分かったのは、玲司の精神状態がおかしいということだった。「最近、うちの親に薬を飲まされているから、お前に会えなくなった」玲司は彼女を貪るように見つめた。「幻覚でもいい、もう少しだけ、そばにいてくれ」詩織は振り返らず、嫌悪感を込めて鼻で笑った。あの時、私を殺そうとしたのは、あなたじゃない?今更何を猫かぶっているの?それとも、悪いことばかりしてきたから、気が狂ってしまった?でも、私は戻ってきた。これから、あなたが私にしたことを、一つずつ返していくわ。彼女は車に乗り込み、その場を去った。玲司はただ彼女を見送った。追いかけなかった。追いかければ、幻覚はすぐに消えてしまうからだ。彼女の車が完全に視界から消えるまで、玲司は詩織を愛おしそうに見つめていた。そして、表情を冷たく変えると、面会室へと足を踏み入れた.今日、彼が面会するのは、詩織を辱めた田中社長と、詩織の指を砕いた二人の手下だ。刑務所でやつれ果てた彼らの姿を見るために。3年前、詩織が失踪した直後、玲司はでっち上げた罪で田中社長を訴え、刑務所に送った。かつて150キロ以上あった巨漢は、今では骨と皮ばかりになっていた。玲司を見るなり、田中は怒鳴り散らした。「この野郎!俺にあの女をくれてやったのは、お前だろ!何で俺は刑務所に入れられなきゃならないんだ!償い?お前こそが償うべきだろ!一番悪いのはお前だ!」玲司は青白い顔で笑った。
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