All Chapters of 18歳の夫に離婚を迫られました: Chapter 1 - Chapter 10

翌朝、私は陸人のキスで目を覚ました。彼はまるで急に甘えん坊になったみたいで、歯を磨いてるときですら、後ろからギュッと抱きしめてきた。今日は友達と一緒にオークションに行く予定だったらしいけど、どうしても私を連れて行きたいって言ってきた。私は周りを見渡したけど、「お義姉さん」って呼ばれてたあの人の姿はどこにもなかった。陸人の仲間たちはみんな、興味津々な顔でこちらを見ていた。「陸人さん、今日は葉月さん連れてきてないの？いつもくっついて離れないんだから、もう半身同然だと思ってた」「彼女とは別れたよ。子どもも下ろさせた」陸人は淡々と目線を落としながら、私の手を自分の胸に当てて、そっと撫でた。「俺、昔誓ったんだ。一生、雪ちゃんだけを愛するって。彼女が傷つくのが怖かった」その隣で、十八歳の陸人が一言一言、私のために訳してくれた。それで私は初めて知った。あの少年陸人が、自分の世界に戻ったあと、何度も何度も誓いを立てていたことを。「一生、雪ちゃんだけを愛する。彼女を悲しませない。絶対に裏切らない」その言葉は日記に、タイムカプセルに、願いの木に、カフェのメモ壁にまで、何度も何度も書かれていた。全部、自分自身に言い聞かせるためだった。その誓いがバタフライエフェクトを起こして、未来の陸人の心が、急に落ち着いたらしい。まだ幼さの残るその少年陸人の目元には、ほんの少しだけ誇らしげな光が宿っていた。彼は私に、熱くてまっすぐな気持ちを捧げてくれた。まるで、幼い頃の年越しの夜。高い塀を乗り越えて、大好きな飴を私に届けに来てくれた、あのときのように。私は何も言わなかった。なぜなら、そのときちょうどオークションが始まったから。すると、陸人が急に手に力を込めてきて、私が痛みを感じるほど、ギュッと強く握りしめてきた。彼の目は、ステージの上にいる女に釘付けになっていた。その女はセクシーな格好で、お腹がほんの少しふくらんでいるように見えた。そして彼女は、挑発的で艶っぽい笑みを浮かべて、こっちに返してきた。葉月と、彼女がつけていたダイヤのネックレス。それが最初の出品物だった。どうやら陸人は、自分が思っていた以上に、葉月のことを気にかけていたみたい。太った大富豪が1億六千万で入札し、葉月がその男の膝に腰を下ろした瞬間

残念ながら、少年陸人の拳は空を切った。私以外、この世界の誰にも触れることはできないのだ。その時、葉月が突然駆け寄ってきて、私の足元に跪き、手を握りながら必死に訴えてきた。「安里さん、奪うつもりなんてなかったの。ただ子供にお父さんをあげたかっただけなの。全部私が悪いの。怒るなら私を殴って。陸人さんを責めないで」葉月は泣いているように見えたけど、私は彼女の口元に浮かんだかすかな笑みを見逃さなかった。そして突然、彼女は私を強く突き飛ばした。私も思わず悲鳴を上げながら後ろへ倒れ込んだ。階段の縁で、私たちは同時に体勢を崩した。時間がその瞬間だけゆっくりと流れているように感じた。陸人が慌てて駆け寄ってくるのが見えた。世界がぐるぐる回り、全身に痛みが走る。階段を転げ落ちた拍子に、下腹部に激しい痛みが走った。見上げると、階段の上で陸人が葉月を抱きしめ、申し訳なさそうな顔で私を見下ろしていた。その時ようやく気づいた。あの瞬間、陸人は葉月を選んだんだ。下半身から血が流れているのがわかり、私は震える手で陸人に手を伸ばした。「病院に......連れてって......陸人、私も妊娠してたの......」そう言った途端、込み上げてくる悔しさが止められなかった。涙が次々とこぼれ落ちる。陸人の目には確かに苦しみが浮かんでいた。けれど、その時葉月が突然お腹を押さえ、痛みを訴え始めた。「陸人さん、あの人嘘ついてるのよ！私があなたの子供を妊娠してるのが羨ましくて、わざと私を傷つけたの！お腹が......痛い......！早く赤ちゃん助けて！」陸人はしばらく黙っていたが、やがて苦しげな声で言った。「雪ちゃん、美玖は悪くないんだ。お腹にはまだ生まれてない子がいるんだよ。そんなひどいこと、やめてくれ......君の罪を償うためにも、今から彼女を病院に連れて行く」そう言って、葉月を抱えたまま、私を一度も振り返ることなくその場を去って行った。仲間たちも救急車を呼び、エレベーターのボタンを押し、それぞれその場を離れていった。陸人の背中が視界から消えていくのを見ながら、私は絶望の底へと沈んでいった。出血はかなりひどくて、スカート全体が濡れ、体が止まらず震えていた。少年陸人は必死で泣き叫びながら助けを求めたけど、その声は誰にも届かなかった。ホテ

【陸人さん、今日は妊婦検診に付き合ってくれたの。あなたたちもう結婚して何年にもなるのに、まだ子供できないんでしょ？だったら、さっさとその席譲ってくれない？】【嘘よ、接待なんかしてない。彼、今うちに泊まってるの。あなたの体じゃ全然感じないんだって、私のほうがいいって言ってたわ】添付されていたのは、まさに情事の最中を捉えた写真だった。【結婚してるって？関係ないわ、陸人さんの子供をお腹に宿してるのは私。家族になるのは私たちなの。早く消えてくれない？この泥棒猫！】メッセージを一つひとつ読み進めるたびに、陸人の表情がどんどん険しくなっていった。目の前の葉月は、見るからに動揺していた。わざとお腹を突き出して、すねたような声を出した。「だって、私こんなに辛い思いして、あなたの子供を宿してるのよ？なのに、立場も愛情ももらえないなんて、ちょっと言い返したくらい許してよ。どうするつもり？今お腹にいるのは、あなたのたった一人の子供なのよ。私のことはどうでもいいけど、赤ちゃんのことは考えてよ。それとも、ベッドでお仕置きしてくれる？」くすくす笑いながら、葉月は陸人の膝に座ろうとし、スカートに手をかけ脱ぎかけた。だが、その瞬間、強く突き飛ばされた。陸人の雰囲気は、今までに見たことのないほど冷たく、冷徹だった。とくに「たった一人の子供」という言葉を聞いた瞬間、怒りが一気に爆発した。彼は葉月の首を掴み、真っ赤な目で睨みつけた。「てめえ、自分を何様だと思ってやがる。雪ちゃんと比べるなんて、百万年早えんだよ。雪ちゃんの髪の毛一本にも及ばねえ！お前の腹の子が俺の『たった一人の子供』だと？ふざけんな。俺と雪ちゃんには――子供がいたんだよ。俺たちには......いたんだ......」言いかけたところで、陸人は急に声を詰まらせた。その瞳には、憎しみと後悔がぐちゃぐちゃに渦巻いていた。雪代と子供を、一度に失ってしまった。葉月のせいでもある。けれど、一番悪いのは自分自身だった。陸人は葉月の首から手を離し、そのまま彼女が力なく床に崩れるのを放っておいた。そのとき、スマホが鳴った。仲間からの電話だった。「あのさ、陸人さん......奥さん、見つかったよ。でも......」その後の言葉を聞く前に、陸人はがばっと立ち上がった。「どこだ

最初、友人たちは、陸人が雪代を想うあまり幻覚を見ているのだと思った。止めようとしたそのとき、彼はテレビ画面にかじりつくように見入り、驚きの声を上げた。「雪ちゃんだ！見えないのか！？」だが画面に映っていたのは、祭りで賑わう人混みの中の笑顔ばかりで、とても誰かを特定できるような映像ではなかった。それでも陸人は、期待に満ちた目で友人たちを見つめ、もう一度画面を指差した。人波の隙間から、ほんの一瞬だけ映った女性の横顔。確かに、どこか雪代に似ている気もした。「陸人さん、たしかに奥さんに似てるけど、こんな遠くからよくわかるなあ」だが陸人は耳を貸さず、興奮した様子でスマホを取り出すと、秘書にプライベートジェットの手配を命じた。「30分後に、あの島へ向かう」友人たちはまだ止めようとしたが、ようやく生気を取り戻した陸人の姿を見て、言葉を飲み込んだ。出発の準備を整える陸人を、これまで黙って見ていた少年陸人がついに堪えきれず声を上げた。「お前に、雪ちゃんを探しに行く資格なんてあるのか？あんなに傷つけて、まだ足りないのかよ！」その声が陸人には届くわけもなく、少年陸人は怒りにまかせて、家の中のものをめちゃくちゃにし始めた。花瓶や置物が次々と、まるで見えない力に突き落とされるように床へと崩れ落ちていく。それはまるでポルターガイストのようだった。一同は凍りつき、陸人もその場で足を止めた。だが、ほんの一瞬ためらっただけで、雪代を探したいという思いに背中を押されるように、再び歩き出そうとした。少年陸人は、体を張ってその前に立ちはだかった。触れられないと知りながら、必死に手を振り上げ、殴りかかった。バン！怒りに震える少年陸人の拳が、信じられないことに、陸人の頬にしっかりと当たった。そっくりな顔をしたふたりの男が、目と目を合わせた。陸人は目を見開いて固まり、少年陸人は激しく息を吐いていた。その瞬間、日記の筆跡、雪代の異変、失くなった思い出の品......すべてが繋がった。無言のまま、互いの視線に、無数の言葉が行き交う。そして最終的に、年長である陸人が、少年陸人の制止を振り払った。「もし雪ちゃんを傷つけたのが俺だとしたら、その償いをさせてくれ」少年陸人は長い間沈黙したまま佇んでいたが、やがてその場を譲った。

その夜、島は突然騒がしくなった。「海に飛び込んだ人がいる！」 そんな慌てた声が聞こえてきた。駆けつけてみると、それは陸人だった。全身びしょ濡れの彼は、雨に打たれた捨て犬のように、哀れな目で私を見つめていた。「雪ちゃん......迷惑かけてごめん。飛び込んだんじゃないんだ。ただ、自分を罰したかった。お前を裏切った自分に仕返ししたかったんだ......お前がどれだけ辛かったか、ちゃんとわかってなかった。だから、海でその絶望を自分も味わいたくて......雪ちゃん、俺、どうやったら償える？なんでもする。教えてくれ！」私は陸人をじっと見つめ、ふいに、なんとも言えない悲しさが込み上げてきた。私たち、たしかに、愛し合っていた。あの頃の陸人は、心の底から私を大切に思ってくれていた。私以外の女の子の声なんて、耳に入らないくらいに。結婚式の日の陸人は、自信に満ちあふれていて、まるで私を手に入れたことで世界を手中に収めたような顔をしていた。結婚してからも、「雪のためなら何だってするよ」って約束してくれた。 「星が見たい」って言ったら、十いくつもの星の命名権を買ってきてくれて。「これはお前だけの星だよ」 そう言いながら照れくさそうに笑って、「でもさ、空の星全部合わせても俺にはかなわないよ。だって俺、全力でお前を愛してるから」なんてことまで言ってくれた。思い出が雪のように静かに積もっていく。私はそっと視線を落とし、今目の前にいる男を見つめた。そして、ため息をひとつ、吐き出した。「私が去る時、十八歳のあなたが言ったの。『振り返るな、許すな』って......陸人、もうこれ以上、私の前に現れないで」背を向けて歩き出す。背後には、彼の絶望に満ちた泣き声が響いていた。あの日以降も、陸人は諦めなかった。必死の思いで贈り物を送り続け、その数は島中を埋め尽くすほどだった。でもある日、必死に許しを請う彼の体に突然激しい痛みが走った。袖をまくると、腕にも胸にも、体中に傷跡が刻まれていた。 それは、何度も同じ言葉を形づくっていた。【お前にはよりを戻す資格がない、彼女を解放してやれ】十八歳の陸人が、過去の自分に向けてナイフで刻んだ、自戒の痕跡だった。翌朝、目を覚ますと、私の記憶はまた少し変わっていた。十八歳の時