All Chapters of 嫌われ者の私が死んだ後、皆は共に滅んだ: Chapter 21 - Chapter 30

兄が離れると、橋本は興奮したように床に落ちた手袋を拾おうとした。私は初めて反抗して力いっぱい彼女を押しのけた。橋本は「あらっ」と声を上げて尻もちをつき、私を罵った。私は気にもせず手袋を拾い上げ、よろめきながら家を飛び出した。この広い世界で、こんなにも人がいるのに、私には帰る場所がどこにもなかった。兄を見つければ家を見つけられると思っていたのに、兄の家に私が必要とされなくなったら、私はどうすればいいのかを、誰も教えてくれなかった。歩き続けた末に、私は孤児院の門前の道に立っていた。八歳のとき、兄にここに置き去りにされて、もう十年もの月日が流れていた。物も人も入れ替わり、当時私を可愛がってくれた兄は、もう見つからなかった。健之が私を見つけたとき、私はびしょ濡れになっていた。傘を差してくれて、雨を防いでくれる中で、私は顔を上げて呟いた。「お兄さんがどこにいるか、知ってる？」健之は私をぎゅっと抱きしめてくれた。「春乃、僕が君の兄になる」私は眉をひそめて彼を押しのけた。「世界で一番素敵なお兄さんがいるの。だからあなたなんか必要ない」肩が濡れてしまった。それは雨か、それとも涙かわからなかった。次に目を覚ますと、私は病院のベッドに横たわっていた。直感的に、この場所が嫌いだった。ここでは、かつてとてもつらいことがあった気がした。外から健之の声が焦りを帯びて響いた。「なんで救えないんだ？ケモも手遅れだって？医者ってのは地獄から人を連れ戻す職業じゃないのか？全員を会議に呼べ！必ず何か方法があるはずだ……」「早川課長、最初の検査結果ならケモでまだ延命できた可能性がありますが、今は末期まで悪化しており、治療しても苦しむだけです。どうか、これ以上患者を痛めつけるのはおやめください……そもそも、最初の結果が出たとき、なぜ治療しなかったんですか？」外は一瞬の沈黙に包まれ、やがて健之の抑えきれない嗚咽が響いた。そうだ。なぜ最初に治療しなかったのか？彼は報告書を隠し、兄に真実を伝えなかったのだ。彼は奈々を思いやり、私にもっと早く離れさせようとしたからだ。病室のドアが開き、私は健之と目を合わせた。彼は震える声で言った。「ごめん……」私は彼を責めなかった。もう長くは生きられないから、むしろ周囲を煩わせるだけだった。

あの早川健之ってやつは、一体何者なんだ？目が眩んで奈々を愛しているのはまだ許せるが、どうして春乃を拒絶し、彼女を陥れようとするんだ？それに藤村直樹も、子どもの頃から嫌いだった。春乃の注意を引こうとあざとい小細工をし、大人になると心変わりするとは、まさに生まれつきのろくでなしだ。だから当時、春乃に内緒で彼を陥れようとした自分もやむを得なかったのだろう。無意識のうちに、僕は早川健之と藤村直樹を排除し、問題を根本から解決する方法を考え始めていた。しかし思考がまとまらないうちに、奈々が突然「一緒にお姉ちゃんを迎えに行こう」と提案してきた。僕は眉をひそめ、冷たい顔で即座に拒絶しようとした。春乃を迎えに行く資格なんて、彼女は絶対なかった。しかし次の瞬間、脳裏に機械的な声が冷たく響いた。【宿主の抵抗が強すぎるため、これよりシステムが身体を制御する】めまいがして視界が真っ暗になった。僕はただ自分が奈々に向かって口元に嫌らしい笑みを浮かべ、その誘いを承諾してしまったのを見つめた。暗闇の中で僕は叫び、罵り、呻き、そして最後には祈り始めた。「やめて……やめてくれ……僕の春乃に悲しませないでくれ……」道中、奈々が急に「お腹が痛い」と言い出し、病院へ行こうとした。僕は恐怖に駆られた。ダメ、ダメだ！春乃を迎えに行くはずなのに、時間を無駄にできなかった。僕は跪いて、かつて捕らえられて足を折られたときよりも卑屈だった。泣きながら、あるのかないのかわからない神様にすがりつき、懇願した。どうか……どうか助けて……僕たちはもう十分に惨めなんだ。十年ぶりにようやく再会できるのに、なぜ僕たちをこんなにも苦しめるんだ？しかし無駄だった。絶望の中、時間が刻一刻と過ぎ去り、約束の迎え時間を逃してしまった。その瞬間、僕は「この嫌な連中ごと、一緒に死んでしまおうか」とすら思った。だが次の瞬間、僕は春乃のことを思い出した。もし僕が死んだら、春乃はどうなる？あの子はこんなにも弱く、哀れなのに、僕の守りがなければ生き延びられなかった。僕は目を閉じ、胸の暴虐な衝動を必死に抑え込んだ。そして春乃と再会したとき、ほんの一瞬だけシステムの支配から解放され、僕は駆け出して十年ぶりの妹を抱きしめた。深い魂の痛みが全身を震わせたが、春乃を驚かせないように必死

僕は早川健之と春乃の出会いを必死に止めようとした。春乃が彼を好きにならないと信じているが、同時に恐ろしくもあった。早川健之はやはり恥知らずだ。奈々を愛しているくせに、春乃を誘惑しようとするなんて、本当に彼を殺してやりたかった。春乃は痩せ細り、心身ともに疲れ切っていた。僕はこのままで春乃を失ってしまうのではないかという恐怖に駆られた。【シナリオだ、シナリオだ……もう少し我慢して、俺が離れられ、お前も自由になれる。渡辺春乃がこうなるのは、すべてお前が最初に抵抗したせいだ】春乃に関われば、ほんのわずかなことでも危険を冒せなかった。春乃が電話で早川健之に迎えを頼んだとき、僕は本当に彼を再び殺してやりたかった。だができなかった。春乃が「行きたい」と言ったから。ちらりと思い直した。少し離れれば、システムの圧に苦しむこともなくなるかもしれなかった。だから僕は手下に早川健之の動向を監視させ、少しでも異変があれば即座に報告させた。西村奈々が春乃を中傷する芝居を打ったとき、僕は彼女を引き裂いてやりたかった。【あと一度だけ、最後の一度だけ、我慢しろ、お願い……】システムに支配されたまま、僕は西村奈々を抱きかかえてその場を去った。システムに内緒で仕掛けたことを思い浮かべると、胸の奥がほんのり興奮した。もうすぐ、もうすぐ、春乃を傷つけた連中は皆、死に追いやれた。だが、僕は春乃が病院のベッドに横たわり、生死不明だったとは思わなかった。先日の健康診断では何の異常もなかったのに。僕は心理カウンセラーまで手配し、春乃の身近な誰かを演じさせて彼女を支えようとした。頭の中でシステムは嘲るように笑った。【渡辺春翔、お前は本当に自分がすごいと思ってんの？俺はちょっと動かせば、渡辺春乃のこの十年間の苦しみも、彼女のがんの検査結果も、お前はひとつも見抜けない。ただのシナリオの登場人物に過ぎないのに、俺はちょっと言いくるめただけで、お前は自分が全知全能だと思ってんの？アホ、任務が完了した以上、俺は離れるよ……どうして……何をしたんだお前は！！？】僕は笑みを浮かべた。離れる？そんなこと、許せなかったよ。西村奈々も、早川健之も、藤村直樹も、メイドも、運転手も、孤児院の院長も……春乃を傷つけた人は誰も逃げられなかった。火の海の中で、悲鳴

僕は春翔のことすら、恨むようになっていた。どうして彼はもっと徹底的に調べなかったの？どうして彼はあんなにも鈍くて、無力だったの？もし彼が、僕が検査結果を改ざんしたことを早く突き止めて、僕の愚かな行為を止めてくれたら、春乃はもっと早く治療を受けられていたかもしれなかった。僕も、こんな醜い本性を彼女に晒さずに済んだかもしれないのに。僕は彼女を病院に連れて行きたかった。だが、彼女は断った。命の最後の時間で、彼女は自分の痛みを軽減するのではなく、兄にプレゼントを送ることを選んだ。僕は彼女のあとをつけ、あのガキどもを追い払った。僕は金を渡そうとしたが、彼女は受け取らなかった。彼女の顔には傷があったが、目がキラキラ輝いていた。千二百円を握りしめて、跳ねるほど嬉しそうにしていた。そんな姿を見て、僕の胸は締めつけられるようだった。たった千二百円だけで、あんなに喜んだのか。奈々が使っていたどんな物でも、軽く数万円を超えたというのに。僕は彼女に病院へ行くよう説得した。だが彼女は「もう少しだけいさせて、私、縁起でもないものにはならないから」と懇願してきた。胸が苦しくて、気が詰まるようだった。彼女の言葉をこれ以上聞く勇気もなくて、僕は逃げるようにその場を離れた。でも、彼女は約束してくれた。プレゼントを渡したら、ちゃんと治療を受けるって。まさか、春翔がそこまでひどいとは思わなかった。春乃のプレゼントを捨てようとするなんて。僕はその手袋をこっそり拾い上げた。でも、夜になって発狂した春翔が僕を半殺しにし、手袋を返せと迫ってきた。血を吐きながらも、僕は渡したくなかった。だが、春乃の期待の眼差しと手袋を編んでいた彼女の姿を思い出すと、僕はついに折れてしまった。大事に包んでいた手袋を、春翔に手渡した。春乃の病気は、もう治せなかった。最初の1％の可能性ですら、卑劣な僕が潰してしまった。僕は茫然としていて、春乃とまともに向き合うことすらできなかった。彼女が「海を見たい」と言った時、僕は断れなかった。そしてそのまま、春乃は帰ってこなかった。春翔はが駆けつけると、狂ったように誰も近づけさせなかった。僕は、どうやって家に戻ったのかも覚えていなかった。彼女の部屋に行って、枕の下を探ってみたら、もう一組の手袋が出てきて、その下には一枚の紙切

俺は信じなかった。彼らの言葉など到底信じられなかった。しかし、渡辺春翔が現れた瞬間、僕は体が固まった。彼はビリジアンのブレスレットを地面に投げつけた。ブレスレットが石に当たって砕け散った。俺は呆然と立ち尽くし、その光景を目にしたまま動けなくなった。「春乃はもう慈悲ごっこに飽きたって言ってた。ガラクタは元の持ち主に返すべきだろう？」その瞬間、俺はお嬢様を連れて一緒に死のうと思った。その後、彼らは引っ越してしまった。どこへ行ったのかわからなかった。再び渡辺春翔と出会ったとき、俺は昔のいじめに任せた犬のような存在ではなかった。俺は渡辺春乃に会って復讐したくてたまらなかった。だが、彼女は渡辺春翔のそばにいなかった。どうして？いつも彼に大切にされてきたはずの妹が、どうしてそばにいないのか。西村奈々から事情を聞いて、俺は安堵した。ふふ、無事ならよかった。もちろん、俺は西村奈々の手口に気づいていた。だが構わない、彼女に協力してやるつもりだった。結局、渡辺春乃は身から出た錆だ、あんな仕打ちを受けたのは全て彼女のせいだった。宴会で、数年ぶりにお嬢様と再会したとき、俺は体が震えて止まらなかった。憎悪なのか、あるいは興奮なのか、自分でもわからないほどだった。だが、お嬢様は俺に気づきもしなかった。どうして？あのとき俺があんなに弄ばれ、仇に燃えて何年も生きてきたのに、彼女は簡単に忘れてしまった。それはあまりにも不公平だった。だから俺は卑劣に、西村奈々の憤りを晴らすという口実で、渡辺春乃に噴水へ飛び込むよう仕向けた。怖がらせるだけのつもりで、本気で突き落とすなんて思っていなかった。だから彼女が本当に池に落ちたとき、俺は慌てふためいた。自分の優柔不断さが憎らしくて、彼女に少しでも狼狽させることすら思いきれなかった。俺は数歩ほど踏み出して、自分を呪いながら「もういい、俺は負けを認めるさ」と思った。池へ飛び込もうとしたそのとき、久しぶりにあの呼び声が聞こえた。「直樹、お兄さん……」ほんの一瞬のことだったが、その直後、誰かが俺より先に駆け出して彼女を救った。その夜、俺は半殺しにされた。その黒幕は、間違いなく渡辺春翔だった。俺は怒って必死に反抗した。あの兄妹のせいなのに、なぜ俺が責め立てられたのか？殴