手術が終わった後、夫・藤崎遥斗(ふじさき はると)は、私が七ヶ月もお腹で育ててきた二人目の子を失ったことに、これっぽっちも心を痛めていなかった。ここは藤崎グループの私立病院のはずなのに、わざと誰かに命じて、階段の隅にみすぼらしい簡易ベッドを用意させていた。寒さで全身が凍えるのは私だけじゃなかった。ずっと側で見守ってくれている息子も、震える体を必死に抑えている。それでも、息子は自分のことなんて気にせず、私の手をぎゅっと握りしめ、小さな口から息を吹きかけてくれる。「恋星(れんせい)がママにふーふーしてあげる。ふーってしたら、あったかくなるよ!」私は必死に笑顔を作って答えた。「ママは寒くないよ」でも、腫れて青くなった小さな手を見た瞬間、堪えていた涙が止まらなくなった。すぐ上の階段を上がれば、佐々木美帆(ささき みほ)のための高級個室がある。そこには24時間体制で医者と看護師が張り付き、遥斗が雇った大勢のボディーガードとお手伝いまで揃っている。息子は唇を噛みしめて、何かを決意したようだった。「ママ、僕、美帆おばさんに頼んでみる。パパに来てって、お願いしてくるね?」その澄んだ瞳を見て、胸が締め付けられる。どれだけお利口で優しい子でも、まだ六歳なんだ。彼には分からないのだろう。私を階段から突き落とし、自分もわざと転んで私のせいにした美帆が、私の死をどれほど待ち望んでいるかを。突然、体から温かい液体が流れ出すのを感じた。息子が大声で叫んだ。「血がいっぱい!ママ、いっぱい血が出てるよ!」私が返事をする前に、彼は狂ったように階段を駆け上がった。息子が美帆のところへ行くと分かり、心臓が締め付けられるような痛みに襲われた。止めようと体を起こそうとしたけど、もう一歩も動けなかった。何日も弱り切り、悲しみに押しつぶされ、ついに私はそのまま意識を失ってしまった。しかし、奇跡的に、私の魂だけが体を離れ、息子の後を追うように漂い始めた。美帆の病室の前まで走り、息子がノックしようとした瞬間、ボディーガードが彼を思い切り蹴り飛ばした。「社長の命令だ。佐々木さんを邪魔するな!」息子は床に叩きつけられたが、すぐに這いずりながらドアまで進む。必死に拳を握って、何度もドアを叩いた。「美帆おばさん!美帆お
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