憧れている女性がいた。 必死に頑張って、就職氷河期と呼ばれている中、自分が入りたい会社へとどうにか滑り込み入社できた。 俺は現在24歳会社員。花形と言われる営業職どころか、日陰の庶務管理課という部署で毎日雑務に追われる生活をしている。名前はあまり会社の人にも覚えられてはいないけど、三門徹《みかどとおる》という立派なものを持っている。 とはいえ、生まれた家は立派な家柄とかじゃなくて、平凡なサラリーマン両親の元に生まれただけの、本当にどこにでもいる一般人。――こんな会社に入れただけでも、満足しなくちゃいけないんだけどね……。 などと考えてはいるモノの、仕事の方が順調かと問われると、全然ダメ……とは言わないまでも其れなりにはこなせていると思う。 そういうのも、この会社に入って既に2年が経過しようとしているのだけど、一向にやる気が上がらない。 その原因になっているモノは分かっているんだけど、既に自分では対処のしようがないのだ。「徹君聞いてる?」「は、はい!! すみません!!」「まったく!! 昔からそうだったけど、もう2年目なんだからしっかりしなきゃダメよ?」「……本当にすみません……」 我が課の中に入って来て、色々な事を頼んできていた1歳年上の先輩、下条楓《しもじょうかえで》さん。 スーツを着ているからというのもあるけど、体のメリハリがよく分かる上に、少し茶色がかった腰まで伸びた長い髪。小顔と言えるほど小さな顔に整ったパーツを備えている。もちろん会社の男性陣も彼女の事をみんなが狙っている。所謂会社のマドンナ的存在。それが彼女。容姿だけでは無くて仕事の能力も高いと来ている。所属している開発部の中では次期エースとしてその名が上がるほど、会社の中では有名な人なのだ。「ちょっと!! 徹君さっき言ったのにまだやってないの!?」こげ茶色の混じった大きな瞳を俺に向けながら、驚きの声を出す下条さん。「す、すみません!!」「まったくもう……あなたは変わって無いわね。高校の時から……」 そんな事を言いながら大きなため息をついて、くすくすと笑いだした。 俺と下条さんは同じ高校の先輩後輩。なので知っている仲ではあるのだけど、それだけの関係ともいえる。――俺には憧れの先輩で有る事は変わらないけどな。 下条先輩との出会いは俺が高校へ入ってすぐの事。
Huling Na-update : 2025-05-12 Magbasa pa