チャリティーパーティーの楽屋の化粧室。速水聡也(はやみ そうや)はたくましい腕で女を壁際に強く押さえつけ、激しい動きに合わせて汗が滴り落ちていた。川澄琴音(かわすみ ことね)はドアの隙間から中のあまりにも生々しい光景を目の当たりにし、その眼差しは最初の衝撃から次第に光を失い、虚ろになっていった。唇をきつく噛みしめ、息を殺し、自分の夫が今まさに別の女を前にして情欲に顔を染めているのを、ただ見つめることしかできなかった。琴音こそが聡也の妻であるはずなのに、今の彼女はまるで日陰に追いやられた愛人のように感じられた。自分の知らないところで夫が姉の川澄綾乃(かわすみ あやの)と何度不貞を繰り返していたのか、琴音には想像もできなかった。気のせいかもしれないが、琴音は綾乃がこちらを一瞥し、甘ったるい声で「私と琴音、一体どっちを選ぶの?」と尋ねるのに気づいた。その言葉に琴音の瞳が震えたが、問いの答えに期待などしていなかった。瑞穂市の誰もが知っていた。琴音こそ、聡也が心から愛し、宝物のように大切にしている人間であると。それまで、琴音もそう信じていた。聡也と手を携えて歩んだ十年の絆は揺るぎないものだったからだ。しかし、目の前の光景は、彼女が十年持ち続けた確信を粉々に打ち砕いた。中の返事を聞く前に、琴音はすでに踵を返してその場を離れていた。実のところ、これでよかったのかもしれない。この光景を目の当たりにしなければ、彼女はずっと離れる決心がつかなかっただろうから……琴音が背を向けた次の瞬間、聡也の大きな手が川澄綾乃の顎を鷲掴みにし、冷酷な口調で言った。「とっくに言ったはずだ。俺の妻は琴音だけだ。琴音と比べて、お前が何様のつもりだ?」二人が体を重ね合わせている一方で、聡也の眼差しは敵意に満ちた冷たさを帯びていた。琴音がチャリティーパーティーの会場に戻った時、すでに全身に冷や汗をびっしょりとかき、瞳から光は消え失せ、頭の中では先ほどの光景がスライドショーのように繰り返されていた。長年愛し合い、毎日飽くことなく彼女に愛を囁いていた夫が、他の女の体で汗を流している。数ヶ月前からその兆候には気づいていたものの、まさか綾乃がこれほど大胆不敵にも自分の目の前でこれ見よがしに振る舞うとは思いもよらなかった。「あら、速水夫人、お一人で戻られ
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