「楓さんはあなたのことが大好きですよ、とても。 今のあなたでは楓さんを幸せにすることはできない。……何がそうさせていると思いますか?」 要の全てを見抜いているような態度に、亜澄は居心地の悪さを感じる。「なんなの? なんであなたにそんなこと言われないといけないわけ? あなたに何がわかるの? 他人の家のことに口を出さないで! 帰って! 帰ってよ!!」 興奮した亜澄は血走った目で楓を睨んだ。 その瞳からは憎悪や嫌悪、不の感情しか伝わってこなかった。 この視線を向けられる度、楓の心は深く傷付き……死んでいく。 自分はいらない存在なのだと、必要ないと知らされているようで。「何! 母さんのこと苦しめて楽しい? そうやって母さんのこと苦しめて、楽しんでるんでしょ?」 「母さん、ちが……」 ガシャーンッ! 亜澄が楓目掛けて投げた瓶が、壁にぶつかり粉々に散った。 瓶が当たる寸前、要が楓を引っ張った。 間一髪、楓は要の腕の中で難を逃れていた。 亜澄は何かブツブツつぶやいている。 目は血走り、息は荒く、興奮状態であることがわかる。 こういう状態の人間は危険だ、何をしでかすかわからない。「……井上、今はいったん引こう」 危険だと判断した要は楓の肩を抱き、亜澄から離れようとする。 楓は亜澄に向き直ると、今できる精一杯の気持ちを込めて叫んだ。「母さん! 明日午後六時、小さい頃よく連れて行ってくれた、あの海で待ってる。……ずっと待ってるから」 亜澄の瞳の奥が揺れた、楓を見つめ返す。「な……んで……」 大きく開いた目で楓を見つめる。その瞳は揺れ、激しい動揺が見て取れる。 戸惑い狼狽する亜澄をその場に残し、二人は静かに出ていった。 「あ……う……うっ」 残された亜澄は、一人その場で崩れ落ちる。 いろんな感情が溢れてきて、心
Terakhir Diperbarui : 2025-06-15 Baca selengkapnya