誕生日を迎えた数日後、私は手術を受けた。手術前、担当医がぽつりと訊いた。「ご家族は来られないんですか?」その一言で、胸がぎゅっと締めつけられた。私はうつむいたまま、小さく答える。「一人でも大丈夫ですから」「まったく最近の若い子は……自分の身体を大事にしないとダメじゃないか。身体が資本って言葉、知らないのかね?」私は苦笑し、何も言わなかった。小言を受け入れる方がまだマシだった。――自分の夫・葛城柊弥(かつらぎ とうや)に、付き添ってくれるかと前日に聞いたのに、今も返事はない。誕生日の食事会さえ、彼は綺麗さっぱり忘れていた。彼に気を遣われたくないし、私ももう彼に頼りたくなかった。結婚三年目。柊弥との関係は、もう終わりが見えていた。手術は三時間。その後目が覚めた頃には、外はすっかり暗くなっていた。疲れた身体を引きずって病院を出ると、肌を刺すような冷たい風が吹き抜けた。雪の気配もする。鼻先にひやりとした感触。顔を上げると、白い雪が風に乗って舞い落ちていた。帰ろうと道路沿いに立ってタクシーを待っていると、ふと視線の端に見慣れた青いマイバッハが止まっているのが目に入った。その瞬間、胃がぎゅっと痛み、手が無意識に震え始めた。私は車に近づき、指でコンコンと窓を叩いた。揺れている車体が止まり、半分ほど窓が開いた。そこから覗いたのは、若くて綺麗な女性の顔。頬を赤らめ、服は乱れ、耳元で柊弥に何か囁いていた。その様子はあまりに親密で……私に気づいた彼女は「きゃっ」と声を上げ、慌てて柊弥の胸元に顔をうずめた。濡れた瞳が、小鹿のように怯えて揺れていた。一目でわかった。彼の新しい秘書、鈴木愛蘭(すずき あいら)。あの子は笑うと、昔の私によく似ている。無垢で、どこか儚げで。今は目元が赤くて、まるで泣いたばかりのようだった。そんな姿が、男心をくすぐる。柊弥はシートにもたれかかり、私に目をやった。けれどその視線は、まるで他人を見るように冷たい。それどころか、腕の中の彼女をさらに抱きしめた。「大丈夫、俺がいるよ」見惚れるほど整った顔立ちで、そう呟いた。甘く優しい声。あの頃と同じ声で。彼は、かつて私にもこうして囁いた。私は静かに笑った。「柊弥、今……何してるの?」酒の匂いが彼の身体から漂い、目には酔
Read more