だが、心配しないのは嘘だった。榊が去ったすぐ後、私は瀬川のところに行った。彼は会議中だったが、緊急事態だと判断し、断りもなく部屋に押し入った。瀬川の耳元で低い声で知らせる。「榊に会社の財務上の問題を発見しされた。君越に調査報告を送るつもりだ。事前に対策が必要だ」その時、スクリーンに映し出されたパワポが目に入った。そこにはっきりと君越のロゴが表示されている。真剣にプレゼンしているのは、かつて私と瀬川が笑顔で接していた君越のビップクライアントだった。信じられない思いで瀬川を見た。突然、すべてが理解できた。なぜ会社の立ち上げがこんなに順調だったのか?なぜ君越のような大企業が、無名のスタートアップと提携したのか?瀬川は私の最も身近な存在だったのに、私は一日たりとも彼の本当の姿を見ていなかった。「恵、説明できるよ」私は振り向きざまにその場を去った。自分の人生がまるで冗談のように思えてきた。瀬川は何を考えていたのだろう?子供のごっこ遊びに付き合っていたのか?自分がもっと大きなグループを所有しているのに、私の小さな起業に付き合っていたなんて。きっと私をとても天真爛漫で愚かだと思っていたに違いない。私は顔を上げ、涙をこらえた。「瀬川、もう別れよう」瀬川の体が硬直するのを感じ、私はその隙に立ち去った。会社の入り口に着くと、桜井に阻まれた。もはや彼女にお嬢様らしい面影はなく、涙でメイクは崩れ、頬には涙の跡がくっきりと残っていた。「安藤、あなたが榊をそそのかして離婚させたんでしょ?あなたに会った直後、弁護士から離婚協議書が届いたのよ。あの浮気者が、本人すら来ていないなんて……」桜井は悲しみのあまり、涙を乱暴に拭った。警備員が彼女の異常な様子に気づき、近づいてきた。しかし桜井は素早くバッグから拳銃を取り出した。海外では銃規制が緩く、まさか彼女が私を人質に取るとは誰も予想していなかった。私は必死で説得を試みた。「私には恋人がいるよ。榊なんか最低だと思ってる。あなたと同じ立場よ。正直、桜井、なぜあなたが私をこんなに憎むのか分からないよ。私何もしていないのに」桜井の涙が私の頬に落ちた。温かく、塩辛く、渋い涙が。「私はあなたが憎いの。死ぬほど憎いの!」桜井の視点から、私は
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