All Chapters of SF怪異譚: Chapter 1 - Chapter 3

3 Chapters

第壱話 ワームホール

太一は幼い頃から、他の人には見えない不思議なものが見える能力を持っていました。それは怪異と呼ばれる、人や生物の感情や思念が具現化した存在でした。太一には妹もいましたが、彼女は太一とは違って怪異を見ることができませんでした。太一は妹に怪異のことを話しても、信じてもらえませんでした。両親も太一の話を重度の虚言癖と誤解し、彼を病院に連れて行こうとしました。太一は自分の能力を隠そうとしましたが、それでも両親から疎まれることになりました。結局、彼は実家の祖父母の家に一人預けられてしまいました。太一は学校でも孤立していました。太一は自分の能力を隠そうとしても、いつも怪異に邪魔されたり、周りの人から変な目で見られたりしました。太一は自分の生まれ持った特異体質や自身の心の弱さを嫌っていました。彼は誰かに理解されたいと願っていましたが、その願いは叶わないと諦めていました。しかし、そんな太一にも唯一親友と呼べる友達がいました。剣道部のキャプテン健太でした。健太は剣道の腕前だけでなく、人柄も良くて、クラスメートから慕われていました。健太は太一を仲間として認めてくれて、いつも優しく励ましてくれました。健太は太一に剣道を習ってみないかと誘ってくれたので、太一は剣道部に入りました。剣道部では他の部員からも受け入れられて、太一は少しずつ自信を取り戻していきました。「おい、太一。今日も練習頑張ろうぜ」「うん。ありがとう、健太」二人は笑顔で握手をしました。そんなある日、太一は帰り道に近所の空き地に寄りました。そこには不法投棄されたゴミの山がありました。そのゴミの山は怪異発生の温床になっていて、太一にはその中から悲鳴や呻き声が聞こえていました。太一は怖かったですが、誰かが助けを求めていると思って、勇気を出してゴミの山に近づきました。すると、空き缶の淵で怪我をして、もがき苦しみ動けないでいた青虫を見つけました。青虫は太一に助けを求める目で見つめているような気がしました。「大丈夫か?」太一は青虫に声をかけました。すると、青虫が小さく頷いているように見えました。「じゃあ、待っててね」太一は青虫を傷つけないように手袋をして、そっと持ち上げました。そして、空き缶から出血している部分をティッシュで拭きました。「痛かっただろうね。ごめ
last updateLast Updated : 2025-05-28
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第弐話 社の幻

太一は、自分には他の人には見えない怪異が見えるという特異体質を持っていました。 そのせいで、周りから変わり者扱いされることも多く、友達が数少なかったのです。 しかし、そんな太一が唯一仲が良かったのが健太でした。 健太は太一と同じ高校に通う部活仲間で、太一の体質を知っていても気にしないで付き合ってくれる数少ない人だった。 ある日、部活の休憩中に健太から不思議な話を聞きました。 健太の父親は病院で働いていて、その病院の敷地に忍びこんだ野生の大型犬の目撃証言を聞いたというのです。 「どうやら保健所から逃げ出したらしいんだけど、その犬がなんと馬車を引きながら病院に入ってきたんだって」 健太は目を輝かせて言いました。 太一は驚いて聞き返しました。 「馬車?」 「そう、馬車。しかも人間が乗ってるんじゃなくて、犬が自分で引いてるんだってさ」 「それはおかしいな」 太一は首を傾げました。健太は興味津々に言いました。 「だろ?それでさ、その犬が病院の中で何か探してるみたいに色んな部屋に入り込んで行ったんだって。 でも結局見つからなかったらしくて、また馬車に乗って出て行ったんだ」 「何を探してたんだろうね」 太一は不思議そうに言いました。健太は顔を近づけて言いました。 「さあ、わからないけど、その犬が見えるかどうか確かめてみたくない?」 「え?」 太一は驚きました。 「太一は怪異が見えるんだろ?もしかしたらその犬も怪異なのかもしれないよ」 「そうかもしれないけど……」 太一は迷いました。 「じゃあさ、今日の部活の後に一緒に病院に行ってみようよ!面白そうじゃない?」 健太は太一の腕を引っ張りました。 太一は健太の動機に少し戸惑いましたが、健太の誘いに乗ることにしました。 その日の部活が終わると、二人は直ぐに自転車で病院に向かいました。 病院は市街地から少し離れた山の中腹にありました。周りは森林に囲まれており、静かで落ち着いた雰囲気でした。 二人は自転車を置いて敷地内に入ろうとしましたが、すぐ外に野生の大型犬が現れました。 「あれが……!」 健太は驚いて指さしました。大型犬は黒くて毛むくじゃらで、目つきが鋭かったのです。それはまるで狼のようでした。 大型犬は二人に気づくと唸り声を上げて走り寄ってきたので、二人は慌てて後ずさりし
last updateLast Updated : 2025-05-28
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第参話 折り神の塔

高校生の太一は、祖父の遺品を整理していた。その作業の途中で、埃をかぶった古びた本を見つけた。その表紙には「式神の折り方」と書かれていたが、詳しい説明はなく、ただ不思議な雰囲気を漂わせているだけだった。紙の黄ばみや擦り切れた角から、それが長い年月を経たものであることがうかがえた。「式神って……まさか、本当に何か召喚できるとか?」半信半疑ながらも、太一の胸には妙な好奇心が湧き上がっていた。祖父が残したものには、何か特別な意味があるように思えてならなかった。そこで、彼は試しにその折り紙を折ってみることにした。その日、太一は部活を休み、自室へ戻り、本とともに見つけた折り紙を広げた。だが、目の前にあった紙は、彼の想像を超える異常なサイズだった。「何これ……でかすぎる!畳二畳分くらいあるんじゃないか?」あまりの大きさに圧倒され、一瞬のけぞる太一。しかし、彼の胸の内には、それ以上に強い興奮が湧き上がっていた。まるで未知の冒険へと足を踏み入れるかのような感覚に、彼は心を奪われていく。「よし、やってみるか」深く息を吸い、気持ちを落ち着かせると、彼は慎重に折り始めた。指先だけでなく、腕や脚、時には体全体を使いながら、座る位置を変えつつ丁寧に折っていく。だが、奇妙なことに、紙はどんどん分厚くなっていくのに、面積はまるで変わらない。「これは……普通の紙じゃないな」違和感を抱きつつも、太一は手を止めることなく折り続けた。折るたびに何か目に見えない力が働いているような感覚がある。そうしているうちに、折り紙は驚くほどの厚みを増し、ついには部屋の天井を突き破った。木片やほこりが宙に舞い、太一は思わず目を細めた。「まさか……折り紙が大きかったんじゃなくて、俺の体が折るたびに小さくなっていたのか?」窓の外を覗くと、地上の景色がどんどん遠ざかっていた。街の建物がジオラマのように見え、東京タワーでさえ掌に収まりそうなサイズだ。「すごい……こんなところまで来るなんて!」さらに折り続けると、飛行機が太一の横を通り過ぎていった。窓越しに乗客の驚いた顔が見え、胸が高鳴る。気づけば彼は大気圏を突き抜け、青空は漆黒の宇宙へと変わっていた。「宇宙……だと?」それでも、太一の呼吸は安定していた。なぜなのか。疑問は尽きないが、太一は手を止めることなく折り続けた。眼下には、青く輝く地球が広がっ
last updateLast Updated : 2025-05-28
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