SF怪異譚

SF怪異譚

last updateHuling Na-update : 2025-06-10
By:  憮然野郎Ongoing
Language: Japanese
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SFと怪異とが紡ぎ合う不思議な物語 。SFと怪異譚を合わせたすこし不思議なお話しです。 太一は幼い頃から、他の人には見えない不思議なものが見える能力を持っていました。 それは怪異と呼ばれる、人や生物の感情や思念が具現化した存在でした。 太一には妹もいましたが、彼女は太一とは違って怪異を見ることができませんでした。 太一は妹に怪異のことを話しても、信じてもらえませんでした。

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24 Kabanata
第壱話 ワームホール
太一は幼い頃から、他の人には見えない不思議なものが見える能力を持っていました。それは怪異と呼ばれる、人や生物の感情や思念が具現化した存在でした。太一には妹もいましたが、彼女は太一とは違って怪異を見ることができませんでした。太一は妹に怪異のことを話しても、信じてもらえませんでした。両親も太一の話を重度の虚言癖と誤解し、彼を病院に連れて行こうとしました。太一は自分の能力を隠そうとしましたが、それでも両親から疎まれることになりました。結局、彼は実家の祖父母の家に一人預けられてしまいました。太一は学校でも孤立していました。太一は自分の能力を隠そうとしても、いつも怪異に邪魔されたり、周りの人から変な目で見られたりしました。太一は自分の生まれ持った特異体質や自身の心の弱さを嫌っていました。彼は誰かに理解されたいと願っていましたが、その願いは叶わないと諦めていました。しかし、そんな太一にも唯一親友と呼べる友達がいました。剣道部のキャプテン健太でした。健太は剣道の腕前だけでなく、人柄も良くて、クラスメートから慕われていました。健太は太一を仲間として認めてくれて、いつも優しく励ましてくれました。健太は太一に剣道を習ってみないかと誘ってくれたので、太一は剣道部に入りました。剣道部では他の部員からも受け入れられて、太一は少しずつ自信を取り戻していきました。「おい、太一。今日も練習頑張ろうぜ」「うん。ありがとう、健太」二人は笑顔で握手をしました。そんなある日、太一は帰り道に近所の空き地に寄りました。そこには不法投棄されたゴミの山がありました。そのゴミの山は怪異発生の温床になっていて、太一にはその中から悲鳴や呻き声が聞こえていました。太一は怖かったですが、誰かが助けを求めていると思って、勇気を出してゴミの山に近づきました。すると、空き缶の淵で怪我をして、もがき苦しみ動けないでいた青虫を見つけました。青虫は太一に助けを求める目で見つめているような気がしました。「大丈夫か?」太一は青虫に声をかけました。すると、青虫が小さく頷いているように見えました。「じゃあ、待っててね」太一は青虫を傷つけないように手袋をして、そっと持ち上げました。そして、空き缶から出血している部分をティッシュで拭きました。「痛かっただろうね。ごめ
last updateHuling Na-update : 2025-05-28
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第弐話 社の幻
太一は、自分には他の人には見えない怪異が見えるという特異体質を持っていました。 そのせいで、周りから変わり者扱いされることも多く、友達が数少なかったのです。 しかし、そんな太一が唯一仲が良かったのが健太でした。 健太は太一と同じ高校に通う部活仲間で、太一の体質を知っていても気にしないで付き合ってくれる数少ない人でした。 ある日、部活の休憩中に健太から不思議な話を聞きました。 健太の父親は病院で働いていて、その病院の敷地に忍びこんだ野生の大型犬の目撃証言を聞いたというのです。 「どうやら保健所から逃げ出したらしいんだけど、その犬がなんと馬車を引きながら病院に入ってきたんだって」 健太は目を輝かせて言いました。 太一は驚いて聞き返しました。 「馬車?」 「そう、馬車。しかも人間が乗ってるんじゃなくて、犬が自分で引いてるんだってさ」 「それはおかしいな」 太一は首を傾げました。健太は興味津々に言いました。 「だろ?それでさ、その犬が病院の中で何か探してるみたいに色んな部屋に入り込んで行ったんだって。 でも結局見つからなかったらしくて、また馬車に乗って出て行ったんだ」 「何を探してたんだろうね」 太一は不思議そうに言いました。健太は顔を近づけて言いました。 「さあ、わからないけど、その犬が見えるかどうか確かめてみたくない?」 「え?」 太一は驚きました。 「太一は怪異が見えるんだろ?もしかしたらその犬も怪異なのかもしれないよ」 「そうかもしれないけど……」 太一は迷いました。 「じゃあさ、今日の部活の後に一緒に病院に行ってみようよ!面白そうじゃない?」 健太は太一の腕を引っ張りました。 太一は健太の動機に少し戸惑いましたが、健太の誘いに乗ることにしました。 その日の部活が終わると、二人は直ぐに自転車で病院に向かいました。 病院は市街地から少し離れた山の中腹にありました。周りは森林に囲まれており、静かで落ち着いた雰囲気でした。 二人は自転車を置いて敷地内に入ろうとしましたが、すぐ外に野生の大型犬が現れました。 「あれが……!」 健太は驚いて指さしました。大型犬は黒くて毛むくじゃらで、目つきが鋭かったのです。それはまるで狼のようでした。 大型犬は二人に気づ
last updateHuling Na-update : 2025-05-28
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第参話 折り神の塔
高校生の太一は、祖父の遺品を整理していた。その作業の途中で、埃をかぶった古びた本を見つけた。その表紙には「式神の折り方」と書かれていたが、詳しい説明はなく、ただ不思議な雰囲気を漂わせているだけだった。紙の黄ばみや擦り切れた角から、それが長い年月を経たものであることがうかがえた。 「式神って……まさか、本当に何か召喚できるとか?」 半信半疑ながらも、太一の胸には妙な好奇心が湧き上がっていた。祖父が残したものには、何か特別な意味があるように思えてならなかった。そこで、彼は試しにその折り紙を折ってみることにした。 その日、太一は部活を休み、自室へ戻り、本とともに見つけた折り紙を広げた。だが、目の前にあった紙は、彼の想像を超える異常なサイズだった。 「何これ……でかすぎる!畳二畳分くらいあるんじゃないか?」 あまりの大きさに圧倒され、一瞬のけぞる太一。しかし、彼の胸の内には、それ以上に強い興奮が湧き上がっていた。まるで未知の冒険へと足を踏み入れるかのような感覚に、彼は心を奪われていく。 「よし、やってみるか」 深く息を吸い、気持ちを落ち着かせると、彼は慎重に折り始めた。指先だけでなく、腕や脚、時には体全体を使いながら、座る位置を変えつつ丁寧に折っていく。だが、奇妙なことに、紙はどんどん分厚くなっていくのに、面積はまるで変わらない。 「これは……普通の紙じゃないな」 違和感を抱きつつも、太一は手を止めることなく折り続けた。折るたびに何か目に見えない力が働いているような感覚がある。そうしているうちに、折り紙は驚くほどの厚みを増し、ついには部屋の天井を突き破った。木片やほこりが宙に舞い、太一は思わず目を細めた。 「まさか……折り紙が大きかったんじゃなくて、僕の体のほうが折るたびに小さくなっていたのか?」 窓の外を覗くと、地上の景色がどんどん遠ざかっていた。街の建物がジオラマのように見え、東京スカイツリーでさえ掌に収まりそうなサイズだ。 「すごい……こんなところまで来るなんて!」 さらに折り続けると、飛行機が太一の横を通り過ぎていった。窓越しに乗客の驚いた顔が見え、胸が高鳴る。気づけば彼は大気圏を突き抜け、青空は漆黒の宇宙へと変わっていた。 「宇宙……だと?」 それでも、太一の呼吸は安定していた。なぜなのか。疑問は尽きない
last updateHuling Na-update : 2025-05-28
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第肆話 鏡の向こうの少女
ある夜、太一は自分の部屋の鏡をじっと見つめていた。 「鏡って、本当に左右を反転させているのかな?」 彼はそっと手を動かしながら鏡の中の自分を観察する。 鏡の中の自分は、まるで手前の空間がそのまま続いているように見える。でも、なんだか違和感がある。 昔、理科の授業で先生が話していたことを思い出した。 「鏡は左右を入れ替えているんじゃなくて、単純に“表裏をひっくり返した姿”を映しているんだよ。 見る角度によっては、前後ろや上下が逆に見えることもあるんだ」 「表裏をひっくり返す……?」 太一は鏡の前で体を傾けてみた。すると、鏡の中の自分が、ほんのわずかに動きが遅れて見えた気がした。 これは光の反射のせいではなく、自分の目がそう見せているだけではないか――そう考えた瞬間、 鏡の表面がゆらぎ、太一はまるで引き込まれるように倒れ込んだ。 目を開けると、太一は自分の部屋にいた――はずだった。 でも、よく見ると細かいところが微妙に違う。 鏡の中の自分の動きが、少しズレて見える気がする。これは目の錯覚なのか、それとも本当に鏡の中が変わっているのか? 時計の針は普通に動いているのに、視点を変えると、逆方向に動いて見えることがある。 これは、見る角度によってそう見えてしまうだけなのかもしれない。 窓の外の景色も普段と同じはずなのに、意識してよく見ると少し色が違って見える気がした。 これは、脳が情報を処理するときにフィルターのような働きをしているのかもしれない。 「……ここ、本当に僕の部屋なのかな?」 太一がゆっくり立ち上がると、鏡の向こうで少女が微笑んでいた。 「……君は誰?」 「あなた、そっち側に来ちゃったんだね。」 「私は……陽菜。」 陽菜は、この鏡の世界の仕組みについて話し始めた。 「そこではね、あなたが『本物』だと思ったものが、現実になるの。」 太一は、先生が話していた「鏡に映る自分の認識」について思い出した。 鏡は、映る姿をひっくり返しているだけ。 でも、人の脳は「鏡の向こうも現実の続きだ」と考えるから、錯覚が起きる。 鏡の世界では、その認識を変えることで、見えるものも変わってしまうらしい。 「もし僕がこの世界を本物
last updateHuling Na-update : 2025-06-07
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第伍話 時の狭間にて
ある夜、コンビニ帰りに偶然神社の前を通りかかった太一は、 ふと夜の神社へと足を運んだ。 静かな境内には、ひんやりとした風が流れ、どこか幻想的な雰囲気が漂っている。 鳥居の前でふと立ち止まり、ゆっくりとくぐる――その瞬間、空気が変わった。 背後の世界が音もなく消え、目の前には見たことのない景色が広がっていた。 紫色に染まった空、動きを止めた風、遅れて響く川のせせらぎ。 まるで時間そのものが存在しない異空間に迷い込んだようだった。 「……ここはどこだ?」 そうつぶやく太一の前に、すっと影が現れた。 「ここは、時間の流れから切り離された場所――時の狭間だ。」 中性的でいて、どこか気怠げな声。 振り向くと、そこには狐の面をかぶった和装の青年が立っていた。 彼の着物は古風な柄をしているが、どこか遊び心のある華やかさを持っていた。 鋭い目が、狐面の奥から太一をじっと見つめている。 「君は時を司る神なの?」 太一の問いに、青年は肩をすくめる。 「残念だけど、そんな偉いものじゃないよ。 本物の時の神々は、この世界の最も深いところにいる。 俺はただの土着信仰の神――八百長の神の下っ端だよ。」 どこか寂しげな響きを持つその言葉に、太一は少し驚く。 「じゃあ……君は時間を操れるのかい?」 すると、青年は微笑む。 「操るってほどじゃないが、時間の秘密なら多少は知ってるさ。 お前も、無意識にそれを知りたかったから、この|異空間《チャンネル》に迷い込んできたんじゃないのか?」 太一は時計をちらりと見る。 しかし、針は動いていなかった。 ここでは時間が止まっている――いや、時間そのものが存在しないのかもしれない。 「さて、お前の住む世界を覗いてみようか。」 青年が袖を翻すと、空間に揺らぎが生じ、光の鏡が浮かび上がった。 そこに映っていたのは、太一が消えた現実世界だった。 母親は必死に警察へ訴え、父親は神社の周りを何度も歩き回る。 親友の健太も、手がかりを探そうと懸命に動いていた。 「太一……どこだ——!!……」 健太の震える声が、異空間の鏡越しに響く。 その姿をじっと見つめる太一。 ここにいる
last updateHuling Na-update : 2025-06-07
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第陸話 海の光と親子の誓い
波の音だけが響く、静寂な夜。 高校生、里奈は海に面した祖父母の家で、ひとり庭に佇んでいた。 広大な庭には、少し傾いた古びた観測小屋がひっそりと佇んでいた。 それは、かつて海洋生物学者だった祖父が、 海を眺めながら研究に没頭した場所だ。 「ねえ、里奈。何か悩みでもあるの?」 背後から、優しい声が聞こえた。祖母である。里奈は肩をすくめ、何も言わずに海を見つめる。 「最近、祖父のことをよく考えるの」 里奈がそう呟くと、祖母は静かに頷いた。 「主人は、いつも海の話を聞かせてくれたわよね。海は生きているって」 祖母の話に聞き入っていると、突如、海面が煌めき始めた。まるで満月が水面に映し出されたかのような、神秘的な光。その光は次第に形を変え、イルカのような姿へと変化していく。 「あれは…」 里奈は息をのんだ。光を放つイルカは、波間に漂いながら、ゆっくりと里奈に近づいてくる。そして、澄んだ声で語り始めた。 「君が里奈だね? 僕はワタツミ。君の祖父に助けを求めに来たんだ」 彼は、里奈の意識の中に、優しい笑顔の中学生くらいの少年の姿で現れた。 彼は、海の奥深くから来た知的な海洋生物で、里奈の祖父とは古い友人だという。 「君の祖父は、僕にとってかけがえのない存在だよ。彼は、海の大切さを誰よりも理解し、僕たちを助けてくれた」 少年は、祖父がかつて海洋探査で出会った際に、深い絆を築いたことを話した。 そして、今の海が危機に瀕していることを告げる。 「里奈、君の祖父に会わせてくれない?」 「ワタツミ、実は祖父は、もうこの世にいないんだ。病気で……」 里奈の言葉に、少年は一瞬、その場に立ち尽くした。まるで、海の波が一瞬静まり返ったかのように。 「え、そんな……」 少年は、優しい笑顔が一瞬ひきつり、 瞳に涙が浮かんだ。 「君の祖父と、もう一度会いたかったのに……」 少年は、そう呟きながら、海を見つめた。 夕焼けが海面を染め、波は静かに打ち寄せていた。 里奈は、少年の肩に手を置き、優しく言った。 「でも、祖父は、きっと今も海を見守っているよ。そして、ワタツミと私達の出会いを喜んでくれていると思う」 少年は、しばらく考え込んだ後、静かに頷いた。 「そうか……君の祖父なら、そ
last updateHuling Na-update : 2025-06-07
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第漆話 終わらない競争
第漆話 終わらない競争 静かな夜の神社。 月明かりに照らされた境内の池のほとりで、太一は再び狐面の青年と向き合っていた。 「今夜は、お前に競争をしてもらう。」 青年は地面に一本の線を引き、その先に小さな亀を置いた。 「お前はこの亀より速く走れる。 だから当然、すぐに追いつけるはずだ。」 太一はふっと笑う。 「何をそんな当たり前のことを――」 「だが、それは本当に当たり前のことと言えるのかな?」 青年が袖を翻すと、周囲の空気が変わった。 静寂の中、亀はゆっくりと歩みを進める。 太一はその背中をじっと見つめ、一歩を踏み出した――。 亀との距離を縮めるために、太一は走り出す。 しかし、奇妙なことに気づいた。 「……遅い?」 彼の足は確かに動いている。 だが、亀との距離は縮まらない。 それどころか、亀の進む速度が太一に合わせて変化している。 「何、これ……?」 太一が速度を上げても、亀はその分だけ前へ進んでしまう。 どんなに速く走っても、どんなに強く地面を蹴っても――その距離は決してゼロにならない。 狐面の青年はニヤニヤしながら面白そうに眺めていた。 「さて、お前はアキレスだ。こいつは亀だ。 本来ならば、お前が追いつくはずだった……だがな。」 青年が指を鳴らすと、空間が揺れた。 「俺は時を司る神の力を持っている。 だから、この競争には手を加えてやったのさ。」 太一は歯を食いしばりながら走る。 「……どんなに速くても、追いつけないの?」 亀は先へ進む。 太一はその距離を縮める――だが、その瞬間に時間がわずかに引き伸ばされる。 その結果、太一が追いかける限り、亀は決して追い越されることはない。 青年は笑って言う。 「お前が亀を追う限り、時間は無限に細分化される。 どれだけ短い距離でも、その分だけ時間が引き延ばされ、未来へたどり着けなくなる。」 太一は息を切らせながら、立ち止まる。 「これは……アキレスと亀のパラドックス……?」 青年は頷く。 「そう。亀が一歩進む間に、お前が距離を縮める。 しかし、お前がその距離を詰める間も、亀はほんのわずか前へ進む。
last updateHuling Na-update : 2025-06-07
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第捌話 無幻の洋館①
夜の森は静寂に包まれていた。 風が葉を揺らす音すら聞こえず、 ただ、夜の闇が広がっているだけだった。 月の光さえ木々に遮られ、頼りない道がどこへ続くのかも分からない。 健太が財布を忘れたと気づいたのは、夕方合宿所へ戻った直後のことだった。 「悪い、太一。一緒に財布を取りに戻ってくれないか?」 「しょうがないね……急ごう」 二人は、道を戻りながら剣道場へ向かい、その帰り道。 森の奥へと足を進めるごとに、静寂の重みが増していくような気がした。 無事に財布を見つけると、急いで合宿所へ戻る――はずだった。 だが、歩くうちに、道が変わっていた。 「……こんな道、通ったか?」 「いや……おかしいな。」 背筋を冷たい指がなぞるような、不吉な感覚が走る。 木の間を吹き抜ける風が囁くように耳元でざわめいた。 やがて、木々の間からぼんやりと寂れた洋館が姿を現した。 「……なんだ、ここ?」 太一と健太は顔を見合わせる。 屋敷の窓はひっそりと暗く、まるでこの世のものではないようだった。 恐る恐る扉を開くと、中には奇妙な光景が広がっていた。 ロビーの奥の受付には、カタツムリの従業員がペンを持ち、のんびりと宿泊名簿を記入している。 その隣では、ナメクジの支配人が太い体を揺らしながら、宿泊客へ案内をしていた。 そして、ロビーにはさまざまな宿泊客―― 妖怪、八百万の神様、異界の住人たちが談笑している。 「……なあ健太、僕たち、本当に帰れるのかな?」 「帰れる……よな?」 二人は息を呑みながら、その場に立ち尽くす。 そんなとき、ふと誰かが袖を引っ張った。 「ねえ……あなたたちも迷い込んだの?」 振り向くと、そこには小さな少女が立っていた。 幼い少女は「百(もも)」と名乗った。 「……本当は違う名前だったんだけどね。 魔女に名前を奪われちゃったの。」 彼女の目には、どこか哀しげな色が宿っていた。 百は、家族と旅行中に近くのホテルへ泊まる予定だった。 だが、吊り橋を渡ったところで両親とはぐれ、 気づいたらこの森へ迷い込んでしまったという。 「ここはね、旅行中の怪異や神様達が者が宿泊する『無幻の洋館』なの。
last updateHuling Na-update : 2025-06-07
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第玖話 無幻の洋館②
前回のあらすじ: 【合宿所へ戻った健太は、財布を忘れたことに気づき、太一とともに剣道場へ取りに戻る。しかし、帰り道で森の様子が変わり、二人は知らぬ間に迷い込んでしまう。やがて、朽ちた洋館が姿を現し、そこは異界の住人や妖怪たちが集う宿「無幻の洋館」だった。 二人は、魔女によって名前を奪われ、帰れなくなった少女・百(もも)と出会う。彼女を救い、元の世界へ戻るためには、魔女に奪われた名前を取り戻さねばならない。決意を固めた太一と健太、そして百の三人は、洋館の謎を解き、魔女との対決へと歩みを進める――。】 無幻の洋館の廊下を歩く太一と健太、そして百。 長く薄暗い廊下は終わりが見えず、まるで迷宮のように続いている。 壁には不気味な模様が刻まれ、天井にはゆらゆらと揺れる青白いランプが吊り下げられている。 足を踏み出すたびに床がわずかに軋み、静寂の中で響いた。 突然、ぬめりとした音が響き、壁の影からナメクジの支配人が姿を現した。 ねっとりとした光沢を帯びた灰色の体がくねりながら動き、ぎょろりとした目が三人をじっと見つめる。 その口元がねじれ、ゆっくりと笑みが浮かぶ。 「ようこそ、お客様。ここは無限のお客様を受け入れ続ける不思議な洋館でございます。」 低く湿った声に、健太は思わずのけぞった。 「無限のお客様?」 驚きを隠せず、声がかすれる。 そのとき、奥のカウンターにいるカタツムリの受付係が静かに頷き、ゆっくりと宿泊名簿を確認しながら言った。 「ええ、どんなに満室でも、新しいお客様を迎え入れることができます。」 太一は腕を組み、目を細めた。 「ねえ、それって……どうやるの?」 「それでは試しに、お客様に部屋をお譲りいただきましょう。」 ナメクジの支配人が、ねっとりとした触手で古びたマイクを持ち上げ、館内放送を流した。 『全員、部屋番号をひとつずつ増やしてください!』 その瞬間、洋館の中で不思議な動きが起こった。 まるで潮の満ち引きのように、宿泊客たちが次々と部屋を移動していく。 1番の客は2番へ、2番の客は3番へ……とズレていき、流れるような動きが起こる。 そして、新たに訪れた無限のお客様が1番の部屋に入った。 百は目を見開き、小さく息をのんだ。 「こんなことができるの?」 彼
last updateHuling Na-update : 2025-06-07
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第拾話 無幻の洋館③
前回のあらすじ: 【太一、健太、百の三人は、不思議な無幻の洋館に迷い込んだ。その館では、どんなに満室でも新しい宿泊客を迎え入れられるという謎めいた仕組みが存在していた。ナメクジの支配人とカタツムリの受付係がその驚異のシステムを説明し、百は「無限の中に無限を入れる」という理論に気づく。 その仕組みを解き明かすことで、百が失った本当の名前を取り戻せるかもしれないと知った三人は、さらなる謎を追い求める。次なる目的地は、魔女が潜む「時の間」――そこには「無限の名前」に関する鍵が隠されているのかもしれない。百の真名を取り戻すため、三人は新たな冒険へと踏み出す。】 魔女のもとへたどり着いた太一、健太、そして百。 彼女の部屋は無数の本棚が並ぶ図書館のようだった。 だが、それらの本には奇妙な共通点があった――すべての本のタイトルが「名前」になっている。 「……これが魔女の無限の名前?」 百が戸惑いながら本の背表紙を指でなぞる。 「魔女は、人の名前をこの本に書き記すことで、無限の名前を操っているんだ。 だから百子という私の名前も、この中のどこかにあるはず……!」 太一は本を手に取る。 だが、本は何冊もある。 それどころか、棚はどこまでも続いている。 「ちょっと待て……この書庫、まさか無限に広がってるのか?」 健太が一歩後ずさる。 「こんなの全部調べるなんてムリだろ?」 百は歯を食いしばる。 「でも……ここは無幻の洋館のルールの中にある場所。 つまり、無限の名前の中から無限の方法で探せば、私の名前を見つけられるかもしれない……!」 太一も気付いた。 「……そうか!洋館の客室をずらせば新しい客が入れるように、 本棚の並び方を変えれば、百子の名前を探せるんじゃないってことだよね?」 百が考え込む。 「そうなんだけど、ただ……。 たとえば、全部の本を一つずつ横にずらす。 ……でも、それだと新しい名前が入ってくるだけで、私の名前がどこにあるか分からないかも……」 健太がポケットからメモ帳を取り出し、数式を描きながら言う。 「無限の集合を操作するなら、特定の順番で並べ替えたら探しやすくなるんじゃないか?」 それを聞いて百がひらめいた。 「
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