私の家は、江川市でも有数の大富豪。資産なんて、兆単位。もう桁がバグってるレベル。18歳の誕生日には、兄がジュエリー工場まるごと一つプレゼントしてくれた。両親は、私の名前を冠した私設博物館まで建てた。私が今まで経験した「苦労」といえば――「お金の使い方」を勉強することくらいだった。……綾瀬遥真(あやせ はるま)に出会うまでは。彼のために、私はすべてを捨てた。家族とケンカして飛び出して、彼と一緒にゼロから始めた。けれど、妊娠三ヶ月になったある日、彼は私にこう言った。秘書の代わりに酒を飲め、と。彼女は「一般の生活を体験するために来ている、資産家の令嬢」だという理由だった。「演技やめろよ。しずくみたいな甘やかされて育ったお嬢様でもないんだから。いい歳してるんだし、若い子に気を使えよ」そう言って彼は、テーブルに並ぶ客たちに愛想を振りまいた。「うちの嫁、ちょっと神経質なだけで、実はけっこう飲めますから。遠慮しないで、どんどんどうぞ」いやらしい視線と、嘲りの混じる笑い声が交錯する中で、彼は華奢でか弱そうな秘書を連れてさっさと席を立った。残された私は、一人で酒臭い男たちの視線を浴びることになった。……遥真が帰ってきたのは、もう深夜だった。 リビングの灯りは消えていて、いつものように彼の鞄を受け取る人もいなければ、酒と香水の匂いが混ざったスーツの上着を取ってくれる人もいない。 テーブルの上には、いつも用意してあるはずの、ちょうどいい温度の胃に優しい夜食もなかった。 少し考えたあと、彼はそのまま寝室へ向かってきた。 私は元々眠りが浅い上に、今夜は酒を無理に飲まされたせいで胃がしくしく痛んでいた。すぐに目が覚めた。 私が起きているのを見るなり、遥真はいつものように私の前に来て、腰をかがめてきた。 私が彼のネクタイを外し、上着を脱がせるのを待ちながら、口では指示を出していた。 「どうして起きて待ってない?夜食も用意してないなんて。今日は簡単に、あっさりした麺でいいよ。卵も入れて。俺が洗面終わるころに、書斎に持ってきて」 いつからだったか、遥真は私が全部を準備して当たり前のようになっていた。 会社の重要な判断から、飲み会の付き添い。 日常の身の回りのこと、服を着るのも脱ぐのも、全部。
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