All Chapters of 雪舞い散る頃、愛は終わりを告げる: Chapter 11 - Chapter 20

意外にも、彰は叱責するどころか怒ることさえなく、そんな質問を投げかけてきた。千幸は少し戸惑い、しばらくしてから首を横に振った。「彼とはもう終わっている。でも、もしあなたが気にするなら――」「俺がなんで気にする必要があるんだ？」彰は眉をひそめ、口元に浮かべた笑みはどこかやんちゃなものだった。「お前みたいに優秀な女性に元カレがいない方がおかしいだろう。それに、お前たちはもう終わっている。今、お前の夫は俺だ。たとえ彼が俺と公平に競争しようとしても、俺には勝てない」彰の軽い口調に引っ張られるように、千幸はぼんやりと尋ねた。「どうして？」彰は顔を彼女に近づけ「だって、俺はお前を奪われるチャンスなんかを彼に与えないからな」といたずらな笑みを浮かべ、低い声でクスクスと笑った。彰に見つめられ、千幸はなぜか顔が熱くなり、思わず顔をそむけた。しかし、彼の態度は千幸を安心させ、緊張していた肩の力が抜けた。「あの……」さっきの電話を思い出し、少し迷った後、千幸は彰に言った。「もしできるなら、私の居場所を隠してほしい。彼に見つけ出されでもして、私たちの生活を邪魔されたくない」「私たち」という言葉が彰を喜ばせたのか、彼の口調はさらに優しくなった。「ああ、お前が邪魔されたくないと言うのならなら、邪魔はさせないよ」そう言って、彼は彼女に白湯を差し出した。「さっき、胃の調子が悪かったんじゃないのか？白湯でも飲んで落ち着け。俺は料理の様子を確認してくる。ご飯を食べれば少しは楽になるだろう」グラスから温かい湯気が立ち上り、視界が湯気で少しぼやける。千幸は、店員と話す彰の後ろ姿を見て、なぜか鼻の奥がツンとした。その時、彰は席に戻ってきて、千幸がずっとうつむいているのを見て、咳払いをした。「結婚式について何か希望はあるか？」千幸は何も言わず、首を横に振った。自分が結婚式に来てほしいと願っていた人はもうこの世から去ってしまった。結婚式がどんな形になろうと、もう関係ない。もうどうでもいい、全部どうでもいい……千幸の落ち込んだ様子に気づいたのか、彰は彼女の方に体を寄せ、少し申し訳なさそうに言った。「時間が少し急だったから、部隊で式を挙げるとなると、どうしても簡素になってしまう。申し訳ない。だけど、呼ぶべき人はちゃんと呼ぶつもりだ。以前、お前は

やってきたのは、他でもない和也だった。千幸の前に立つ彼は、目が真っ赤に充血し、髪はボサボサ、スーツはしわくちゃ、さらにはひどくやつれた様子で、いつものエリートビジネスマンの面影はどこにもなかった。しかし、和也は周囲の好奇の視線を全く気にせず、千幸を見つめる瞳は興奮に満ちていて、一歩前に出出てきて、彼女の手を取ろうとする。「千幸、やっと見つけた。一緒に帰ろう」ところが、千幸は一歩後ずさりして彼の手を避け、冷たく尋ねた。「どうしてここに来たの？」このたった一言で、和也はまるで氷の穴に突き落とされたように、全身が硬直してしまい、身動き一つできなかった。苦労して千幸を何日も探し回った挙句、こんな冷たい返事をされるとは、夢にも思っていなかったのだ。いつものように千幸が気を引こうとしているのだと思い込んだが、彼女の表情を見て……和也はハッとした。それは駆け引きなどではなく、本当に来てほしくないと思っているようなのだ。ますます動揺した和也は、千幸にぎこちない笑みを浮かべ、慎重に声をかけた。「千幸、家に帰ろう。絵里にはもう出て行ってもらったから、もう二度とお前を煩わせることはない！」千幸は眉をひそめて和也を見つめ、彼が何を企んでいるのか理解できなかった。一緒にいた頃は、いつも自分を蔑ろにして、他の女のために自分を傷つけたのに。自分が本当に諦めた途端、戻ってきてほしいと頼み込んでくるのか？馬鹿げていると思わないのだろうか。周りの客たちが好奇の視線を向けていることに気づき、噂話の種になりたくなかった千幸は、向かいの席を指差した。「座って。話しよう」千幸がそう言うと、和也は内心少しほっとして、席へと向かい座った。彼女が怒っている原因がわかったような気がした。結局、絵里の問題なのだ。絵里さえいなくなればすべて解決する。落ち着きを取り戻した和也は、改めて誓った。「千幸、安心してくれ。今後、絵里のことはきちんと処理する。もう二度とお前を怒らせるようなことはしない。彼女が邪魔なら、A国に送り返して、二度とお前の目に触れないようにする」千幸は彼の目を見て、静かにすべてを明らかにした。「和也、彼女とは関係ない。私たちの関係は、もう終わっているの」その言葉を和也はすぐには受け入れられず、声を荒げた。「誰が終わりだと言った？

千幸からの痛烈な非難に、和也は何も言い返せず、内心ではひどく悔しい思いをしていた。彰の攻撃は陰湿で、すべて急所を狙っていた。顔には傷がないものの、床に倒れた和也は全身に痛みを感じていた。彰の身のこなしなら、今の一撃は避けられたはずだ。なのに、あえて受けていた。あれは明らかに苦肉の策だった。和也の考えを裏付けるように、千幸の後ろに立った彰は、彼に向かって挑発的にニヤリと笑った。和也は怒りに震え、無理やり立ち上がると、「千幸、彼は芝居をして、同情を買おうとしているんだ！」と叫んだ。彼がまた手を出そうとするのを見て、千幸は彰の前に立ちはだかり、「また手を出すなら、警察を呼ぶわよ！」と警告した。彼女が他の男を守るために必死になっているのを見て、和也の胸に鋭いナイフで貫かれたような痛みが走る。彼は物理的にも痛む肋骨を押さえながら、苦笑いをした。「千幸。俺を捨てて、そいつを選ぶのか？お前は名家のお嬢様だ。そいつが何だって言うんだ？身分も何もないただの貧乏人だぞ。お前は何を与えてもらうことができるんだ？」そう言って、和也は千幸の手を掴もうとした。しかし、千幸はためらうことなく、彼の手を振り払った。「あなたは十億単位もののお金を動かす仕事で忙しいんでしょ？私の夫も国を守る仕事で忙しいの。でも、彼は時間を割いて私と一緒にいてくれるし、いつも私を大切にしてくれる。これが、彼が私に与えてくれるもの。あなたとの違いよ」千幸は冷ややかに彼を見つめた。まるで、見知らぬ人を見るかのように。「和也、私たちは終わったのよ。もう二度と会うことはない」そう言うと、千幸は彰の手を取った。「行こう」彰はニヤリと笑うと、彼女の驚きの声をよそに、ひょいと千幸をお姫様抱っこした。「もう、彰、降ろしてよ！」「降ろさない。自分の妻を抱き上げるのは犯罪か？」二人は笑いながら踵を返した。和也は足を引きずりながら追いかけようとした。「千幸、行かないで！」その時、ポケットの中の携帯が震えた。誠からの電話だった。「望月社長、すぐに戻ってきてください！会社で問題が起きました！」和也は足を止め、眉をひそめて尋ねた。「何が起きたんだ？」……一方、千幸は彰に車まで運ばれていた。後部座席に座ると、彼女は彰がトランクから小さな救急箱を取

車内の空気が一瞬にして、甘く色づいた。千幸は顔を真っ赤にして、彰を睨みつけたまま、何も言わなかった。彰も動かず、気だるそうに口角を上げて、まるで盗み食いに成功した猫のように笑った。静寂の中、彰の電話の着信音が沈黙を破った。彼は電話に出るため、車外へ出た。千幸は彰を見つめていたが、彼がしばらく電話で話した後、表情が真剣になったことに気づいた。「ああ、分かった」彰は電話を切ると、千幸の元に戻り、彼女を抱えて助手席に乗せた。運転席に座ると、彰は申し訳なさそうに彼女を見て言った。「悪い、結婚式は延期になりそうだ。まずは家まで送る」千幸は彼を見つめ、不安そうに尋ねた。「任務なの？」彰は車を始動させた。「ああ、K市で少し騒ぎがあってな。秘密裏に調査する必要がある。H市で俺が戻るのを待っていてくれ」彼の言葉が終わるか終わらないうちに、千幸は彼の手をぎゅっと握りしめた。彰が驚いた視線を向ける中、彼女は静かに、ゆっくりと告げた。「今回は、私も連れて行って。私があなたの救急箱になる」……一方、和也はというと、頭を抱えていた。X市に戻った時には、既に夕方の6時だった。一日で二度も飛行機に乗り、往復の移動で疲れ果てていたが、休む暇もなく、直接会社へ向かい状況を確認した。誠は電話で簡単に起きたことを説明していたが、和也が状況を改めて整理してみると、想像以上に事態は深刻だった。会社が力を入れていたプロジェクトが頓挫し、それを聞きつけた取引先が契約解除を求めて押し寄せ、これまで好意的だった銀行までも態度を変え、融資の撤回を言い渡してきたのだ。彼らをなだめきる間もなく、今度は会社の株主たちにまで情報が漏れた。配当金への影響を懸念した彼らは、和也に説明を求めた。和也は夜通し取締役会を開き、株主たちに時間をくれ、今回の危機は必ず何とかする、と頼み込んだ。……二日間の奔走の末、会社の問題はひとまず落ち着いた。ようやく時間ができた和也は、もう一度千幸に会いに行こうとした矢先、絵里から電話がかかってきた。千幸がいなくなったことで、和也は絵里に少し腹を立てていた。しかし、命の恩人だと思うと、冷たく突き放すこともできなかった。少し迷った後、和也は通話ボタンを押した。電話口で、絵里は嬉しそうに言った。「

あの言葉はどれだけ酷かったか。和也は思い出すだけでもゾッとした。千幸は知らないはずだ……知らないよな？どんどん不安が募り、視線を横のスマホへと走らせると、彼はそれを掴み、絵里に命じた。「ロックを解除しろ！」絵里は顔が涙で濡れ、入念なメイクもぐちゃぐちゃに崩れていた。この期に及んでもまだ幻想を抱き、泣きながら言い訳をする。「和也、私のスマホには何も入ってないわ。本当に神崎先生に何も言ってないの！」和也は彼女と無駄話をする気は全くなく、スマホの電源を入れ、彼女の顎を掴んで、顔認証で強制的にロックを解除させた。急いでラインを開いたが、千幸のアカウントは見つからなかった。和也はホッと息をつこうとした瞬間、ふと絵里のインスタが気になり、開いてしまった。下にスクロールしていくと、見たことのない投稿があった。そこには、あの日自分が病床に座っていた時の写真が載っていたのだ。そのライブフォトを開くと、何とも耳障りな声が飛び込んできた。「彼女は孤児だ。どこにも行けるわけがない。せいぜい地方で手術でもしているんだろう、そんな手はもう見飽きた」この投稿は親しい人にしか公開されていなかったため、和也はこれまで見たことがなかった。そして今、その親しい人が誰なのかは、言うまでもなかった。千幸はこれらの言葉を聞いて、どれだけ傷ついたことか？後悔と怒りで震える和也は、そのままスマホを絵里の顔に投げつけた。「このクソ女！」絵里は額に大きな傷を負い、痛みに目がくらんだ。しかし、痛みを感じる間もなく、彼女は和也のズボンにしがみつき、懇願した。「和也、こんなことしないで。私はあなたの命の恩人なのよ！」「命の恩人？」和也は冷笑し、再び彼女を蹴飛ばした。「このくだらない恩のせいで、お前は俺の人生に入り込んできて、千幸を傷つけやがった！」全身が痛みで震える絵里は、和也が立ち去ろうとするのを見て、叫んだ。「和也、私は本当にあなたを愛しているの！なぜ千幸じゃないといけないの？私でもいいじゃない！」和也は足を止め、嫌悪感に満ちた視線を彼女の顔に向けた。「お前ごときが、俺の千幸と比べられると思うのか？俺を愛しているだと？お前が愛しているのは、俺の金だけだ！二度と俺の前に姿を現すな！殺すぞ！」そう言うと、和也は大股で病室を出て行った