部屋は暗く、男の低くてセクシーな声が空気に溶け出していた。「凪......おとなしくしろ......」彼はスーツをきちんと着こなし、全身から禁欲的な雰囲気を漂わせていた。だが、ズボンのファスナーだけが開かれていて、そこから巨大なものが耐えきれずに飛び出していた。その先には、さっき碓氷凪(うすい なぎ)が捨てたばかりのブレスレットが絡んでいた。碓氷侑里(うすい ゆうり)は音を立てずに拳を握りしめた。彼はまだ果てていない。彼女は意地悪くドアを押し開けた。男の狼狽える姿をこの目で見てやろうと思って。だが、男の表情は終始淡々としていた。真夜中のように深い瞳には、まったく波紋がなかった。「人の部屋に入るなら、ノックくらいしたらどうです?」新城白夜(しんじょう びゃくや)は冷ややかに言った。ただの執事であるはずなのに、その口調には支配者のような威圧感があった。侑里は眉をひそめ、皮肉を込めて言い返す。「そんなやましいことをしてるなら、鍵くらいかけておけば?」「それに、ここは私の家よ。ノックなんて必要ないでしょう?」白夜は何も言わず、ゆっくりとその怒張した物をしまい込み、やはりその瞳には一切の感情が浮かばなかった。「お嬢様、何かご用ですか?」侑里は苦笑した。結果は分かっていたけれど、それでも諦めきれずに言った。「白夜、私を連れて逃げて」「ここを出て、誰にも見つからないように、一緒に遠くへ......」部屋の電気はついていなかった。だから、白夜は気づかなかった。侑里の目に浮かぶ絶望と崩れかけた感情に。いや、もしかしたら気づいていて、それでも彼は気にしなかったのかもしれない。「お嬢様、冗談はやめてください」白夜の声は冷たかった。「私はあなたの執事です。日々の生活の世話と、安全を守るのが務めです」やっぱり、拒まれた。分かっていたことだったのに、侑里の心は血を流していた。彼女は寂しく笑った。「もし凪が同じように頼んだら、あなたはきっと連れて行ってくれたのでしょう?」なぜみんな、凪のことばかり好きになるの?本物の碓氷家の娘は自分なのに、凪は偽物で、乗っ取っただけの存在なのに。なのにどうして、碓氷家の人間は皆、彼女の方を好む?血の繋がりがあるのは、自分
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