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あなたを待ち、嫁ぐ日を夢見る
あなたを待ち、嫁ぐ日を夢見る
Author: 白団子

第1話

Author: 白団子
部屋は暗く、男の低くてセクシーな声が空気に溶け出していた。

「凪......おとなしくしろ......」

彼はスーツをきちんと着こなし、全身から禁欲的な雰囲気を漂わせていた。

だが、ズボンのファスナーだけが開かれていて、そこから巨大なものが耐えきれずに飛び出していた。

その先には、さっき碓氷凪(うすい なぎ)が捨てたばかりのブレスレットが絡んでいた。

碓氷侑里(うすい ゆうり)は音を立てずに拳を握りしめた。

彼はまだ果てていない。

彼女は意地悪くドアを押し開けた。

男の狼狽える姿をこの目で見てやろうと思って。

だが、男の表情は終始淡々としていた。

真夜中のように深い瞳には、まったく波紋がなかった。

「人の部屋に入るなら、ノックくらいしたらどうです?」

新城白夜(しんじょう びゃくや)は冷ややかに言った。

ただの執事であるはずなのに、その口調には支配者のような威圧感があった。

侑里は眉をひそめ、皮肉を込めて言い返す。

「そんなやましいことをしてるなら、鍵くらいかけておけば?」

「それに、ここは私の家よ。ノックなんて必要ないでしょう?」

白夜は何も言わず、ゆっくりとその怒張した物をしまい込み、やはりその瞳には一切の感情が浮かばなかった。

「お嬢様、何かご用ですか?」

侑里は苦笑した。結果は分かっていたけれど、それでも諦めきれずに言った。

「白夜、私を連れて逃げて」

「ここを出て、誰にも見つからないように、一緒に遠くへ......」

部屋の電気はついていなかった。

だから、白夜は気づかなかった。

侑里の目に浮かぶ絶望と崩れかけた感情に。

いや、もしかしたら気づいていて、それでも彼は気にしなかったのかもしれない。

「お嬢様、冗談はやめてください」

白夜の声は冷たかった。

「私はあなたの執事です。日々の生活の世話と、安全を守るのが務めです」

やっぱり、拒まれた。

分かっていたことだったのに、侑里の心は血を流していた。

彼女は寂しく笑った。

「もし凪が同じように頼んだら、あなたはきっと連れて行ってくれたのでしょう?」

なぜみんな、凪のことばかり好きになるの?

本物の碓氷家の娘は自分なのに、凪は偽物で、乗っ取っただけの存在なのに。

なのにどうして、碓氷家の人間は皆、彼女の方を好む?

血の繋がりがあるのは、自分の方なのに!

そして今、唯一心を動かしたこの男までもが、凪を......

白夜の喉が動いた。

何かを言おうとした。

だが、侑里はそれを遮った。

「もういい。聞きたくない」

そう言って、背を向けて立ち去った。

「決めたわ。私、あの偽物の代わりに、サディスティックの坂下家に嫁ぐよ」

侑里は父の元を訪れ、笑って言った。

「偽物?凪はお前の実の妹だろうが!」

父の顔が一気に険しくなる。

「それに、坂下さんは帝都でも有名な人物だ。あんな相手に嫁げるのは、むしろお前には出来過ぎた話だ。一体何が不満だ」

それを聞いた侑里は、唇に嘲りの笑みを浮かべた。

「出来過ぎた話」か。

確かにそうかもしれない。

碓氷家のこの程度の資産じゃ、坂下家の靴を磨くことすら許されないかもしれない。

でも、坂下理人(さかした りひと)がどんな男か、業界の誰もが知っている。

外見こそ美しいが、血を見るのが好きで、若くて綺麗な女を虐げることに快感を覚える狂人だ。

侑里の前に、すでに6人の婚約者が命を落としている。

「そんなに素晴らしい婚約だというのなら、譲るわ」

「凪を嫁がせればいいじゃない」

父の表情が再び曇る。

「碓氷家と坂下家はもともと婚約を結んでいた。お前が生まれる前からな」

「だから、自分が凪の代わりに嫁ぐなんて思うな。これは元々お前の婚約なんだ」

たしかに、碓氷家と坂下家には婚約があった。

だがそれは、本家ではなく坂下家の分家とのものだった。

理人の悪名が広まり、本家の坂下家であっても、誰も娘を嫁がせたがらない。

坂下家の主である坂下爺は焦った。

理人は坂下家の一人息子であり、家を継ぐ血筋が絶たれてしまう。

そこで坂下爺は一方的に、分家と結んでいた婚約を理人に押しつけた。

碓氷父も碓氷母も、凪を嫁がせることに耐えられず、矛先を侑里へ向けたのだ。

「その婚約がもともと私のものだって言うなら、坂下爺さんが指示する前に、なんで私に話さなかったの?」

碓氷父の顔は青白く変わった。

何か言い返そうとしたが、侑里はもう聞く気もなかった。

「私は凪の代わりに坂下家に嫁いでもいいわ。ただし、条件がある」

「どんな?」

父の顔はますます陰った。

侑里は唇を少し吊り上げて言った。

「あんたの全財産を私に譲って。不動産でも、現金でも、すべて私の名義に」

「それから、碓氷家のすべての事業も全部私の名義に変更して。私が、碓氷グループの新しい社長になるのよ」

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