小松紗江(こまつ さえ)は看守に一通の手紙を手渡した。そこには三文字、自白書と書かれていた。薄手の囚人用ジャケットを羽織った彼女の瞳には、半分は無感情、もう半分は絶望が浮かんでいた。「この手紙を篠田家に届けてください。彼が私を出してくれるなら、どんな罪でも認めます」看守は嫌な顔をしながらそれを受け取り、去り際にツバを吐き捨てた。「今さら後悔しても遅いだろ?篠田さんが情けをかけたから、この程度で済んでるんだぞ」紗江は口元を引きつらせながら、泣くよりもひどい笑みを浮かべた。吉岡雛乃(よしおか ひなの)の前で、篠田晃(しのだ ひかる)が自分に情けをかけたことなんて、一度でもない。「お嬢様、ご安心を。出所したら、すぐに家に帰りましょう」山口(やまぐち)の声には抑えきれない興奮がにじんでいた。その言葉を聞いた瞬間、紗江の目に涙が浮かんだ。白く整った顔には青アザがいくつもでき、無残なほどやつれていた。かつては活き活きしていた美しい瞳も、今は虚ろで疲れ切っている。あれほど大切に育てられたお嬢様が、今やこんな姿に。あの日、彼女はその男の手によって刑務所に送られた。相手が許さぬ限り、一生出ることはできなかった。山口に見つけられるまで、紗江は、ここで一生を終える覚悟だった。「山口さん、両親に伝えて。私は手塚家に嫁ぐ覚悟ができた。家にも戻る。数日後、迎えに来て」山口は連絡手段を残し、涙をぬぐいながら立ち去った。翌日、重い鉄の扉が開き、紗江は風雪の中を歩き出した。路肩には一台のマイバッハが停まっていた。車の傍には、黒い傘を差した男が立っている。入所して三年、紗江の肌はすでに荒れ、かつての誇り高い性格も完全に打ち砕かれていた。だが、晃は何ひとつ変わっていなかった。相変わらず美しく、誰もが見上げる存在のようだった。冷たい風が彼のコートの裾を舞わせる。その気高く冷ややかな顔立ちは、より一層鋭さを増していた。二人は遠くから目を合わせたが、しばらく言葉が出なかった。晃は再会の場面を想像していた。彼女のわがままで泣き虫な性格からすれば、会った瞬間に大泣きして自分の辛さを訴えると思っていた。この三年間、彼は彼女が早く非を認めるよう、刑務所側に性格を叩き直すよう命じていたのだ。その効果はあったらしい。再会した紗江は、た
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