悠人はためらいなく地下室へ駆け込んだ。室内の物はすべて運び出され、床は何度も洗い流された形跡があるものの、あちこちに血の跡がまだうっすらと残っていた。大きな血痕が点々と広がり、その光景は目を背けたくなるほど生々しかった。事実は目の前にあるのに、悠人には現実を受け入れることができなかった。「そんなはずない……玲奈が、あの犬たちは特別にトレーニングされてて、見た目は怖いけど、人を傷つけることはないって……わざわざトレーニング施設で選んだ犬なのに、どうして人を襲うんだ?そんなこと、あるはずがない!どうして?どうしてなんだ……!」執事は俯きながら答える。「それは私にも分かりません。ただ、沙羅さんはずっと助けを求めて叫び続けていました。あまりにも悲惨な声で……私が駆けつけたときには、もう間に合いませんでした」悠人は顔面蒼白になり、震える手で床の血痕にそっと触れた。沙羅がどれほど痛かったか、どれほど怖かったか――思い浮かべるたびに、心が引き裂かれるような苦しみが込み上げる。美佐子が倒れて以来、悠人は沙羅にどう向き合えばいいのか分からなかった。あの憎しみと罪悪感のなかで、もう平穏に沙羅と暮らすことはできないと思っていた。顔を合わせるだけで、過去の苦しみが蘇る。だから、一年に一度、沙羅に子どもを会わせる以外は、できるだけ距離を置いてきた。それでも、どうしても沙羅のことを考えずにはいられなかった。何度も自分に嘘をつき、周りにも平気なふりをして、「もう気にしていない」と自分自身に言い聞かせてきたのに――けれど、この瞬間――もう悠人は、自分自身に嘘をつくことができなくなっていた。悠人は心の奥で願っていた。もし沙羅が素直に謝ってくれたら、もし母が一生真実を思い出さずにいてくれたら――自分たちは何もなかったことにして、またやり直せるんじゃないかと。本当は、沙羅を脅かすつもりで、死なせる気なんて全くなかった。「――ああ、ああ――!」悠人はついに崩れ落ち、嗚咽を上げて泣き叫ぶ。その声に引き寄せられ、ちょうど退院したばかりの美佐子と紗希が地下室に駆けつけてきた。二人は、床一面に広がる血の跡を見て凍りついた。「悠人、一体どうしたの?」悠人は、泣きはらした赤い目で顔を上げることもできず、声を震わせて言ちょうだ。「入らないで!紗
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