「朝倉さん、冗談ですよね?」冷凍研究所の責任者が驚きの声を上げた。「ご自身の冷凍を希望されるのですか?」研人は静かにうなずき、落ち着いた口調で言った。「そうだ。今日から俺はこの研究所の筆頭株主だ。これから朝倉グループの年間収益の10%を冷凍研究所に投入して、解凍技術の開発を支援する」10%というと大したことないように聞こえるが、朝倉グループの毎月の純利益は数千億にも上るのだ。「朝倉さん、ご支援に感謝します。しかし冷凍技術は、ほとんど余命わずかな患者に提供されるものです」責任者は丁寧に説明を続けた。「筋萎縮性側索硬化症、がん、多臓器不全……現在の医療では、これらの病気に対して根治は絶望的です。そういった病気を患った患者の多くはまだ若い。ただ死を待つよりも、家族と別れを告げた後、病魔と時間を凍らせ、医療技術が進歩して、病気を治せるようになってから解凍されたいと望んでいます」責任者は少し言葉を切り、困ったように続けた。「しかし、朝倉さんの体は非常に健康で、病気は何もありません。なぜご自身を冷凍しようとするのか、理解できません」研人は振り返り、みゆきの棺が置かれた部屋を見つめた。その視線には優しさがあふれていた。「もし彼女が目覚めた時、俺がそばにいなければ、きっとすごく孤独を感じるだろう。俺は……もう彼女に寂しい思いをさせたくない」その言葉を聞いた責任者は一瞬言葉を失い、やがて大きくため息をついた。「朝倉さんの深い愛情はよくわかりますが、愛だけが人生のすべてではありません。冷凍されれば、あなたの時間は止まりますが、あなたの家族や友人たちの時間は流れ続けます。何百年、何千年と経ち、あなたが目覚めた時には、家族や友人はもうこの世にはいないかもしれません。末期患者は選択の余地がないから、生きたい一心で冷凍技術に頼るのです。ですが、あなたは違う。健康な体で、慣れ親しんだ世界で、家族や友人たちと健康で幸せな人生を送ることができます。本当に愛のために、家族や友情、そして今持っているすべてを捨てて、氷の棺の中で小林さんと一緒に眠りたいと望んでいますか?」責任者の真剣な問いかけに、研人は迷わずうなずいた。「ああ。俺はもう心を決めている」未来の世界はまったく知らない場所なんだろう。だからこそ、研人は自分を
Magbasa pa