清香の胸の奥に不吉な予感が湧いてきた。今日の承平はいつもとどこか違っていた。彼女は帰ることを電話で伝え、ただの連絡のつもりで、一緒に食事でもどうかと軽く口にしただけだった。断られる覚悟でいたのに、承平は承諾し、しかも個室まで予約していた。それは高級レストランでも貸し切りでもなく、ごく普通のレストランの個室で、まるで何かを話すつもりでいるように思えた。胸の内に不安が広がり、清香は俊明に付き添いを頼んだ。どうせ足を怪我して車椅子なのだから、誰かに世話を頼む理由は十分だ。承平は隆浩を連れてきていた。これまでなら隆浩は別に食事を済ませ、車で待っているのが常だったのに、なぜ今日は一緒に席についたのか。清香は疑念と不安に呑まれ、全身がざわついていた。俊明も清香と同じく落ち着かず、隆浩に視線を向けてから慌てて承平に挨拶した。「折原社長、いらっしゃったんですね。料理を運ばせましょうか?」承平は何も答えず、そのまま腰を下ろした。ちょうど清香と正面で向き合う形になった。俊明はきまり悪そうに立ち尽くした。隆浩が笑みを浮かべて場を和ませた。「須藤さん、お座りください。料理の手配なら私がやります」俊明は苦笑して座り直したが、居心地が悪そうだった。隆浩はスタッフに料理を運ぶよう指示を出し、そのまま俊明の向かいに腰を下ろした。広々とした個室は、料理が運ばれる時を除いては水を打ったように静まり返り、息苦しいほどの沈黙が支配していた。清香はテーブルクロスの下で手を固く握りしめていた。承平の普段とは違う態度に心が乱れ、必死に自分を落ち着かせようとしていた。俊明が豪勢に盛られたタラバガニを承平の前へと差し出した。「折原社長、ここの名物です。ぜひお試しを」承平は箸を取り、蟹の身をひと口味わった。俊明はようやく肩の力を抜き、安堵の笑みを浮かべた。「周防さんもどうぞ。清香さんは怪我をされていますから、海鮮は控えて、代わりにここのステーキを。絶品ですよ」空気が少し和らぎ、清香も箸を取った。時間が一分一秒と過ぎる中、俊明が懸命に場を盛り上げ、隆浩も時折相槌を打ったことで、場の空気はどうにか冷え切らずに済んでいた。俊明と清香が、さっきの不安は思い過ごしだったかと感じ始めたその時、承平が不意に箸を置いた。その仕草に、ちょうど取
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