一人でのんびりと月を眺める余裕もなかった。「……おい」 ずっと聞こえるその声に、さすがに抱き寄せることを決める。「鳴くなよ」 見送りもさせてもらえなかったなんて。 みゃあみゃあと、ずっと聞こえるその声はグリンだった。いつも彼女が座ってた椅子の上に座って鳴いている。 昼間は彼女の部屋にいて、馬車の走り去る音を聞いてからもうずっと、彼女を求めるように鳴いていた。 抱き寄せると俺の顔を見上げた子猫の目は緑色。彼女と同じ目の色。 昨日の出来事を思い出す。突然の来訪。彼女の父親と、共に現れた俺と同じ顔をした男。 俺は、純粋な金髪のあの男の代わりだった。 似ていたから、俺を傍にいさせただけ。彼女が俺に言った願いは一つだった。 ──私の傍にいてほしいの。 あの願いは、本当はあの男に言いたかった言葉なのだ。 俺ではないあの男に、叶えられたかった願いなのだ。 その願いが叶えられた今、俺の役目は終わった。 愛されていたと思うほど、おめでたいわけじゃない。自分が今までしてきたことを忘れているわけじゃない。 彼女と俺がしていたのは、愛の真似事。 なるほど。「詩をつくるようなヤツの気持ちがわかった気がするな」 けれどなにも、歌えない。 燻った想いの名前を知らないから、俺は何も歌えない。「お前ももう一人前なんだろ、泣くなよ」 俺はそう言ってグリンを撫でて、そのままソファで眠った。 商店の賑わう広場に出ると、いつもフルーツを買っている店のやつから声をかけられた。「今日は一人? 買って行かないの?」 どちらも返事は同じだ。「……ああ」 うるせえ。 どいつもこいつも。彼女と過ごしたこの町が、俺を一人だと思い知らせる。 揺れる木々の葉一枚でさえ、俺に彼女を思い出させる。緑の目は若葉の色をしていた。 何も買わずに屋敷に戻る。 庭は花が咲いていて、その匂いに彼女の髪を思い出したから、もうどうしようもない。 屋敷に入ってソファに座る。 今更一人で、どうやって過ごせばいいのか分からない。 足元でグリンが鳴いて俺を呼んだ。「あ?」 見ると、そこには捕まえたであろうネズミの体があった。「ははは」 元気出せってことか? これを俺に? いや。「あいつにか? もう、ここには居ないんだ」 だから分かれよ。諦めろよ。「山賊が与えられてど
Terakhir Diperbarui : 2025-07-20 Baca selengkapnya