LOGIN☆★完結済★☆ 子爵家の娘イースは、幼馴染のロイに想いを寄せていた。 十年以上積み重ねた想いを告白するが、振られてしまい、故郷を離れて田舎で一人で暮らすことを決める。 そんな彼女は、ある日森で血まみれの男を見つけた。 瀕死のその男が、驚くほどロイに似ていることに気づいて、命を対価に要求を差し出した。 「助けてあげる、だから私の言うことを聞いてね」 助けた男を好きな男と同じ金髪に染めさせて、彼の影を重ねて男と日常を過ごす。 一方、金髪に染められた男、エルは、山賊としての過去を持ちながらも、彼女の優しさや献身に心を揺さぶられ、彼女に対する感情が日に日に強まっていくが──? ☆★完結済★☆
View More「心配いたしました!」 屋敷の外にでると、数人の男たちが駆け寄ってきた。 ああと頷いて体に付いた煤を払う。 「大丈夫だったか?」 歩み寄ってきたのは父だった。 「ほら、ジャケット」 渡されたのは、自分のものではないジャケット。 「え?」 渡してきたの顔を見ると、お前のだろうと言ってきた。 「ロイ。お前が渡してきたんじゃないか」 そんな心当たりはない。 「我々が外に出たのを見て──彼女はどこだと言ってジャケットを脱いで屋敷の方に飛び出したじゃないか」 一体どうやって、二階の窓から飛び込んだのだろう。──僕と同じ顔をしたあの男は。 「そのあとまたお前が現れて、同じことを聞いてきた時には火事の恐怖で狂ったのかとおもったぞ」 「は」 笑ってしまう。 僕のものではない、薄汚れたジャケットを見て笑ってしまった。僕のふりをして会場に入ろうとしていたのか? もう分からない。 「はははは!」 同じ顔でも、中身はまったく違うと思った。 笑ってしまう。笑いが止まらない。 「どうした? ロイ? ……イースは?」 ずっと笑い続ける僕を見て、悲しみで狂ったのだと誰も彼女のことを聞いてこなかった。 笑い続けると喉が渇いた。 炎の中に消える彼女の姿は、今までで一番美しい姿だった。 fin.
正式な婚約披露パーティーというわけではないが、客人は多く、華やかなパーティーになった。 私の視線の先では楽団が音楽を奏で、広間の中央では煌びやかなドレスを纏った客人たちが踊っている。 ドリンクをテーブルに置いて、隣に立つロイの顔を見上げた。 私の視線に気付いたロイが、口を付けていたグラスを離す。「どうしたんだい?」 灰色の瞳から目を背ける。広間で踊る人たちは花のようだ。「少し、踊りたくなってしまって」「イース」 どうしたんだい、と彼が眉を下げた。「今までだって、僕はこうしていたじゃないか」 そうね。そうよ。 私はどんな場所でも、ロイの横に立っているだけで幸せだったのに。 なのに、その声のせいで、どうしても望みを言いたくなってしまう。 その声は、望みを叶えてくれると思ってるから。「……戻ってきてからの、きみは少し変わったね」「え?」「一体、きみは僕みたいな男と、どんな風に過ごして、何を言わせていたんだい?」 声に不穏があった。嫌な空気になると思って、緊張で肌がピリついた。 顎を引いた私に、ロイは穏やかさを取り戻して笑いかけた。「きみはあんまり、家から離れてた時のとこを話さないから」「……あなたと離れていた時期のことなんて、忘れてしまったから」 嘘よ。忘れてなんかいない。 目の前の顔を見る限り、忘れられるわけがない。 パーティーの喧騒が、どこか遠く聞こえる。 分かったよ、とロイが頷いた。「……たまには、踊るのも悪くないかな?」 そう言ったロイが、私に手を伸ばした。 伸ばされた手に、私が──。 その瞬間、いくつもの混じった悲鳴が、パーティー会場を切り裂いた。「なんだ!?」 悲鳴は広間の奥からだった。他の空間に続くその扉の奥から転がるように現れたメイドが会場中に叫んだ。 その服の裾には、煤《すす》がついていた。「お逃げください!」 尋常でないその様子に、音楽が止まり人々が騒然とする。「火が! 火が上がっております──火事です!」 途端に会場中はパニックになった。 緊張が伝播して悲鳴が飛び交い、食器が割れる音がする。 そんな客人たちを前に、ロイが高らかに言った。「落ち着いてください。出口はすぐ、あちらです!」 この場全員の命を慮るその言葉の横で、私はたった一つの命のことしか考えられなかった。「
「奪ってほしいと言ってくれ」 言ってくれたらその通りにするつもりだった。 俺に願いを叶えさせてほしかった。 俺の言葉に笑ってくれると思ったのに、彼女は傷ついた顔をした。「言えないわ」 その言葉に耳を疑った。「行けないわ、私……」「イース」「あなたとは、行けない」「イース……!」 断られてしまえば、名前を呼ぶしかできなかった。 俺が呼ぶたびに、泣きそうな顔をするのに──どうして。どうしてお前は。「私はあなたの傍にいる資格がないわ」「そんなの」 そんなの俺が悩まなかったと思うのか。 どんな思いでここに来たと思ってる。 どうしてお前がそんなことを言うんだ。 彼女の金髪は蝋燭の弱い明かりでも光って見えた。「……あなたと彼が違うことを、私はよく分かったの」「…………それは」 それはどういうことだと、聞こうとして飲み込んだ。 拒絶の後では、もう聞きたくはなかった。 拳を握りしめた俺に、彼女はゆっくりと言った。「けれど、願いを叶えてくれるなら、一つだけ」 お願いさせてと俺に言った。 いくらだって叶えるのに。「あ?」 言われれば何個だって、叶えてやるのに。「ふふ……ねえ、やっぱり私、寂しいの」 なら俺に、出会ったときと同じことを言えばいいのに。 彼女は俺の目を見ずにこう言った。「だから、今更だけどグリンを引き取ってもいい?」「勝手だな」「そうね」 俺の嫌味などまったく刺さっていなさそうだった。彼女に撫でられて、グリンが喉を鳴らしている。「けどいつも、付き合ってくれたわね」「言われたからな。言ったのはお前だろ」 傍にいてと。俺に望んだのはお前だろ。 俺の言葉に、悲しい顔で笑った。「ごめんなさい」 悲しいなら泣いてくれたらいいのに、涙の一滴も流しやしなかった。「謝られたら、俺が許さないわけがないだろ」 彼女は、許しも、俺のことも求めなかった。「どうか私みたいな女は忘れて、自由に生きて。縛り付けて、ごめんなさい」 俺を見上げて彼女が言った。「エル。あなたは私の光よ」 眩しさで目をくらませて、そのまま奪って窓の外に飛び出してしまいたかった。「あなたが作ってくれた影の中で、私は生きていくわ」
私とロイの婚約を祝って開催されるパーティーはもう明日に迫っている。 隅々まで管理の行き届いたロイの家の庭は、あの屋敷の咲きっぱなしの花たちとは全然違う。「父がお気に入りのワインを取り寄せてたよ」「まあ、そうなの」 隣を歩くロイのエスコートは紳士的だ。「ねえ……ロイ」「ん?」 聞き返す時だって、ガラの悪い言葉はない。「どうしたんだい?」 眼差しは柔らかで、口調には貴族らしい品がある。「パーティーに備えて、ダンスの練習とかしなくていいかしら?」 そう聞くと、ああと相槌をして視線を逸らされる。「僕たちは主役なんだし、むしろ座って見ている方がいいだろう」「踊らないの?」「それより挨拶回りとかの方が大事だ」 とても彼らしい返事だった。「そうね……」「そうとも」 ロイが頷く。「事業に集中して家名を大きくしたいんだ」 わかってくれるね? とロイは言った。「わかってくれるだろう? 僕をずっと、見てきてくれたきみなら」 ええそうよ。 私はずっとあなたを見てきた。 だから間違えてしまったの。もう間違えない。 次に手を取る相手を、私はきっと間違えない。 月がない夜。明日はパーティーだというのにまったく眠れなかった。 招待しているという客人のリストを父から渡されていた。蝋燭の明かりでそれを眺める。 殆どが姉の繋がりと、ロイの事業に興味がある客人ばかりのようだ。 私は誰の名を呼ぶでもなく、壁の花であればいいのだろう。 それを望んでいたはずだ。 ロイと結ばれることだけを、願っていたはずだ。 蝋燭の明かりに手元の紙を眺めていると、窓の方からカタンと物音がして顔を上げた。 閉めていたはずなカーテンが夜の風に静かに揺れている。 変だな、と立ち上がったその時。それが聞こえた。「不用心だな」 昼間に聞いた声と同じ。 なのに──闇と共に窓から現れたその声は、まったく違う。 エル。 今日同じ顔を見た。いや、全然違う。ロイはそんな表情《カオ》をしない。「なん、エ」「静かにしろ」 現れたその窓から室内に押し入ると、私の肩を掴んだ。 その手が熱くて強くて、痛い。「俺は山賊だ」 エルが私の顎を持ち上げた。 山の中で蝋燭の明かりに照らされて、その髪色は赤く見えた。「奪いにきたんだ」 エルが続けた。「俺は俺らしく──お
女は──彼女は俺に対して献身的だった。 柔らかなパンとスープを作り、フルーツを切り、俺の包帯を変えた。 部屋の掃除も彼女自身が行う様子に、さすがに浮かんだ疑問を口にした。「なんで一人なんだ」「時々雇ってる人に掃除とか洗濯とかは来てもらってるわ。この部屋には入らないでもらってるけど……」 聞きたいのはそれだがそれじゃない。 なんで貴族らしい女が一人で住んでいるかということなのに、伝わらなかったのかそれは答える気がないのか。「あんまり人がいたら、不都合でしょ」 それはどちらの不都合のことなのかわからない。「訳ありか?」「訳がない人なんている?」 俺の言葉に気分を害した様子
癖のある赤毛を、呼び寄せた理容師に染めさせた。眠る男を染めることに理容師は驚いたが、傷だらけの男の様子に何かを察したのか深くは聞いてこなかった。 癖のある赤毛が、見慣れた金色に染まる。 真っ直ぐな金色になったその髪に、天使の輪のような艶ができた。 品のある高い鼻。その顔は目を閉じていても、十分好きな男の姿を想起させた。 それから数日。やっと目を開けてくれた──灰色の目を。 鏡に映る自分を確認する男に、私は声をかける。「よく似合ってるわ」 本当に、想像以上に。 彼にそっくりだ。「俺を匿うためか?」 考えもしなかったその言葉に、思わず目を見開いた。「山賊で……しかも殺され
嗅ぎ慣れない甘い匂いに意識を揺さぶられて目が覚めた。 目を開くと、今までの人生で縁のなかった華やかな照明。 感じたことがない寝心地に、すぐにベッドだと気付かなかった。藁ではない柔らかさ。清潔そうな白いシーツ。 掛けられていた布団を捲ろうとして、走った痛みに舌を噛んだ。 腹の傷は手当されていた。何か貼られていると、頬に手を当てる。治療用のガーゼだった。 自分の身を確認していると、声がかけられた。「起きたのね」 長い金髪に緑の瞳。お貴族様にしてはシンプルなドレス。天使のような見た目。「まだ傷が塞がってないから、寝てた方がいいわよ」 部屋の奥から現れたその女は、あまりに普通に俺
ずっと一緒だったから応えられないと、彼は言った。「妹のようにしか思えないんだ」 ごめん、と言って私の頭を優しく撫でる。 その手が好きだから、口を塞がれたわけでもないのにもう何も言えなかった。 私の十余年積み募らせた愛の告白は、今まさに彼の手で手折られた。 彼の名前はロイヴ・グレンストール。 甘い垂れ目に、上品にまっすぐ伸びた高い鼻。少し長い金髪に灰色の目。世界で一番美しい顔。 父同士の仲が良く、交流することが多かった二つ年上の幼馴染。 父はより高い地位の相手との結婚を望んでいたから、ロイの家と仲が良くとも婚約などは結ばれなかった。メリットがない。 姉が侯爵家との婚約が決ま
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