その男は、愛した男と同じ顔をしていた──Beautiful Bandit──

その男は、愛した男と同じ顔をしていた──Beautiful Bandit──

last updateLast Updated : 2025-07-20
By:  すずきOngoing
Language: Japanese
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Synopsis

一人称

歪んだ愛

三角関係

身代わり

一途

 ☆★完結済★☆ 子爵家の娘イースは、幼馴染のロイに想いを寄せていた。 十年以上積み重ねた想いを告白するが、振られてしまい、故郷を離れて田舎で一人で暮らすことを決める。 そんな彼女は、ある日森で血まみれの男を見つけた。 瀕死のその男が、驚くほどロイに似ていることに気づいて、命を対価に要求を差し出した。 「助けてあげる、だから私の言うことを聞いてね」 助けた男を好きな男と同じ金髪に染めさせて、彼の影を重ねて男と日常を過ごす。 一方、金髪に染められた男、エルは、山賊としての過去を持ちながらも、彼女の優しさや献身に心を揺さぶられ、彼女に対する感情が日に日に強まっていくが──?  ☆★完結済★☆

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Chapter 1

男の話

1

“Michael? Michael? Michael? Still sleeping this late in the morning?” I heard my dad shout from the living room. I grumbled as I covered my head with my pillow. Cant I even sleep past seven o’clock even on a weekend? And he still calls it late.

“Michael?” came his loud shout again. I resisted the urge to tear the pillow apart but I then threw away my covers in annoyance.

“coming” I lazily shouted as I literally dragged my legs out of my bedroom then to the grand sitting room. My shoulders hunched visibly 

“not again” I sighed. Dante Marcus was standing beside the door fumbling with his red tie, he just never knew how to tie them. 

“don’t just stand there, come help me” he frowned giving up. 

Why don’t you call your wife to come do it? I said inwardly as I tied it for him.

I got adopted when I was still a six-month old baby, as I was told any time I asked about my parents. Dante Marcus was the only father I knew. His wife who was also my step mom owned a large pharmaceutical company and would most of the time stay at work. Dante Marcus was the owner of an executive watch company; they were so filthy rich but they still worked as if there would be no tomorrow. 

“you have heard about the blood tests that have been recently going round” he said as a matter of fact

“what about them?’ I asked 

Recently there has been talks about blood tests going round in the country. Kids at the age of sixteen were required to undergo the blood test and it was mandatory. That thing was all over the news, advertisements, blogs just to encourage people to get the test. I always wondered why not the old geezers or the new born babies, why sixteen? It could be any teenager but they only test the ones in their sixteenth age.

“The doctors would come by to collect your blood sample and test it…I spoke with one of them earlier this morning” he said adjusting the tie I had made for him on his neck. He picked his briefcase from the floor then prepared to leave

“Dad?” I stopped him

“I already sent your weekly allowance to your card” he quickly replied after stopping to look at me.

“not that” I sighed “don’t you think the tests are a bit doubtful? …I mean the government is giving hazy details about it … shouldn’t I postpone this until I’m sure?”

“you don’t fear syringes, do you?” he frowned

“no” I shook my head

“and you don’t believe in rumors” he asked again

“no, and what rumors?”

“Good, then you shouldn’t have any problems in the afternoon. I’ll be back to talk you through it if you perhaps fear being poked with needles” he left with that not waiting for me to speak. I don’t fear syringes, I scoffed and what rumors was he talking about. 

I remained standing there until I had the sound of his car leave the parking lots and our automatic gates get shut. 

Are the tests some kind of blood control method the government is using to limit the population of citizens? Because there was clearly more than just the blood test involved, something the government was hiding from us. I never ever loved to be in the dark about something and I was surprised that most of the people in the country were very cool with it. They didn’t even raise questions.

Our country, Crest country was a diplomatic one ruled by the government under one president. We lived in the state’s capital, in the richest estate in the city. I studied in Van private academy , the most expensive private academy in the city and I was currently on my tenth grade. Due to our high status, there was absolutely no way I would simply miss the blood test. This was just jumping into a crocodile’s mouth and testing if it would bite you 

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15話と短めのお話でしたが読み応えありました。 イースの後悔やエルの情熱をもっと味わいたかった気もします。 成就した二人の先のお話も外伝の様に少し覗かせてもらいたいと思ってしまいました。
2025-08-23 06:33:24
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15 Chapters
男の話
 空が青い。 我ながら呑気だ。こんな状態で。 痛い。 地面に捨て置かれた体は、散々な暴力を浴びてもう動く気力はない。 組織の中で異議を唱えたら、仲間だった人間が一瞬で敵に変わった。同じ晩飯を食っていたとは思えない豹変っぷりで蹴られ殴られ蹂躙された。 処刑だと向けられた剣は胸元に大きな傷を創り、今も脈打つたびに血が流れている。 ここまでやってきた罪の報いはここで受けると、一身に暴力と殺意をこの身に浴びた。 それから気を失って、目が覚めたらもう誰もいなかった。背中に濡れた感触がするから血溜まりの中なのだろう。死んだと思って捨て置かれたのか。 内臓が軽くなっていくような不快感と浮遊感に死を覚悟した。 今まで汚いことばかりやって来た。ろくな死に方はしないと思っていたのに、青い空の下で死ねるとは。 眠りに落ちたら、きっともう二度と目覚めない。 なのに瞼を閉じても目の奥の光は消えない。太陽の光がなかなか俺を眠りには落としてくれない。「……生きてる?」 地面に寝っ転がって目を閉じて、死を待つだけの俺の上に、影が落ちたのが分かった。女の声だった。 目は開けない。落とされた影のおかげで、閉じた瞼が心地よくなったから。 口は開かない。……喋りかけてくるな。死体かどうかなんて、とりあえず剣を突き立ててから確認すりゃいい。そうすればもれなく返事は来ないはずだ。「生きたい?」「あ?」 二度目の声掛けに、さすがに不満が声に出た。 なんで話しかける。こんな道に転がる分かりやすい災厄みたいな俺に。 ──そんなの。「いきた、く」「わかったわ」 喉は乾いた血の味がして、うまく喋ることができなかった。なのに女は俺の言葉をどう取ったのだろうか。 その影がしゃがんで近づいた気配に、さすがの俺も目を開けた。「あ、目が開いた」 俺に降りかかっていた日光を代わりに浴びて、その金髪が輝いていた。緑がかった瞳は若葉と同じ色だった。「やっぱり」 なにがやっぱりなのかは分からないが、さながら天使で今際の際に見る顔としては悪くない。「ねえ貴方、助けてあげる」 目を開けた俺に、女は薄く笑ってそう言った。「その代わり、助かったら……私の言うことを聞いてね」 瀕死の俺が言い返せないことも蹴り倒せないのもいいことに、女はそう言うと俺の体に手を伸ばした。悪魔か。 そ
last updateLast Updated : 2025-07-20
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女の話
 ずっと一緒だったから応えられないと、彼は言った。「妹のようにしか思えないんだ」 ごめん、と言って私の頭を優しく撫でる。 その手が好きだから、口を塞がれたわけでもないのにもう何も言えなかった。 私の十余年積み募らせた愛の告白は、今まさに彼の手で手折られた。 彼の名前はロイヴ・グレンストール。 甘い垂れ目に、上品にまっすぐ伸びた高い鼻。少し長い金髪に灰色の目。世界で一番美しい顔。 父同士の仲が良く、交流することが多かった二つ年上の幼馴染。 父はより高い地位の相手との結婚を望んでいたから、ロイの家と仲が良くとも婚約などは結ばれなかった。メリットがない。 姉が侯爵家との婚約が決まると、お前は自由にするといいと父は言った。姉の縁談のおかげで、妹の私はメリットではなく愛で相手を選んでいいと言ったのだ。──共に生きる相手を。 だから私は迷わずロイに伝えた。 幼い頃より、ずっと好きだったと。 イース・グローア。グローア子爵家の第二息女。 いつも彼が褒めてくれる長い金髪を、今日はいっそう綺麗に整えてきた。若葉の色と彼が褒めてくれた目で、まっすぐに見つめた。 十八歳。ほとんどの人生を、彼だけを見て過ごしてきた。太陽に焦がれる花のように。 そうして伝えた告白は、花を手折るより容易く断られた。 出会ってからずっと、同じ場所に咲いていた。 この街にいる限り、彼の面影を見てしまう。 そして私は、別宅がある離れた町へ住まいを移すことに決めた。父が頭が痛そうに正気かと聞いてきたので頷いた。 使用人も誰もいらない。 彼を知る人を連れて行きたくなかった。きっと思い出話をしてしまう。 自然豊かな場所にある別宅は、さほど大きくはないとはいえ一人には十二分に広い。そのまま山に繋がる広い庭は、手入れをしていなくても常に四季折々の花が咲いていた。 しばらくは不慣れな生活の基盤を整えることに必死で彼のことを考えずに済んだ。 幼い頃に知り合って、十年以上傍らで過ごした。 本を共に勧め合い、ダンスの練習だって共にした。控えめで目立つことを嫌う彼と踊ることは一、二度だったけれど。 端麗な容姿を派手に着飾ることを好まず、酒も好まず。 今後や事業や領地のことを真剣に考えてきる、生真面目で紳士的な彼が好きだった。 触れ合いなど、儀礼的なエスコートと頭を撫でるその手だけ
last updateLast Updated : 2025-07-20
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男の話
 嗅ぎ慣れない甘い匂いに意識を揺さぶられて目が覚めた。 目を開くと、今までの人生で縁のなかった華やかな照明。 感じたことがない寝心地に、すぐにベッドだと気付かなかった。藁ではない柔らかさ。清潔そうな白いシーツ。 掛けられていた布団を捲ろうとして、走った痛みに舌を噛んだ。 腹の傷は手当されていた。何か貼られていると、頬に手を当てる。治療用のガーゼだった。 自分の身を確認していると、声がかけられた。「起きたのね」 長い金髪に緑の瞳。お貴族様にしてはシンプルなドレス。天使のような見た目。「まだ傷が塞がってないから、寝てた方がいいわよ」 部屋の奥から現れたその女は、あまりに普通に俺と目を合わせた。「水は飲む?」「あ、ああ」 怯える様子もなく淡々と聞かれ、つい頷いてしまう。 女は頷くと俺に背を向けた。 腹の痛みは焼けるように痛かったが、状況が気になって身を起こす。 屋敷のリビングのようだった。 重そうなカーテンを脇に控えさせた大きな窓から、暖かな日差しが差し込んでいる。 真ん中には大きなテーブルがあって、さらに向こうにキッチンがあった。 金髪の女は俺に背を向けてキッチンに立っている。 俺が寝るベッドの近くには壁側に寄せられたソファ。 不釣り合いにベッドがリビングにあるのは、俺のためだろうか。 キッチンから振り向いた女が、コップを持って来た。「どうぞ」「すまない」 差し出されたコップに手を伸ばす。僅かに触れてしまった女の指先は冷たかった。 状況も女の目的も何も分からない。 それでも毒も警戒せず水を飲んだのは、この場の主導権が俺にないからだ。体は痛くてろくに動けない。 冷たい水に体中の細胞が生き返った。 飲み干したコップを俺から受け取ると、緑の目が俺を見た。「あの日から三日間眠っていたのよ」「あの日」 反射的な復唱。朧げな記憶を遡る。「あの日よ」 葉の茂る木々の向こう。青い空。「血まみれのあなたを助けた、あの日」 ──天使かと思った、あの金髪。「言うことを聞くから助けてくれって言ってたじゃない」 悪魔みたいなあの言葉。 思い出せばあの日の邂逅が鮮やかに蘇った。「捏造してるだろ」 俺が異議を唱えると、女は小さく笑った。「あ、バレた?」 なんだよこの女は。 瀕死だったとはいえ、男を連れ込んで危ない
last updateLast Updated : 2025-07-20
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女の話
 癖のある赤毛を、呼び寄せた理容師に染めさせた。眠る男を染めることに理容師は驚いたが、傷だらけの男の様子に何かを察したのか深くは聞いてこなかった。 癖のある赤毛が、見慣れた金色に染まる。 真っ直ぐな金色になったその髪に、天使の輪のような艶ができた。 品のある高い鼻。その顔は目を閉じていても、十分好きな男の姿を想起させた。 それから数日。やっと目を開けてくれた──灰色の目を。 鏡に映る自分を確認する男に、私は声をかける。「よく似合ってるわ」 本当に、想像以上に。 彼にそっくりだ。「俺を匿うためか?」 考えもしなかったその言葉に、思わず目を見開いた。「山賊で……しかも殺されかけてた俺を隠すために髪を染めたのか?」 髪を勝手に染めたことを、なんて答えようかと考えてはいた。いい回答が見つからなくて困っていたのに、彼の方から正答を出してくれた。 頷かない。微笑みだけで応えた。 そんな私を、当たり前に彼は訝しんだ。「……お前の目的はなんだ」 そんなの決まってる。やっと聞いてくれた。「傍にいてほしいの」 好きな男と同じ姿になった、あなたに。「私の名前は、イース・グローア」 私の名乗りに、彼は溜息を吐いた。 彼《ロイ》と同じ見目で、彼《ロイ》がしない表情を見せてくれる。「俺はエルドル」 エルドル。 口の中に名前を含んで、呼び心地を確認する。 そして他の名前と比べて、二文字で呼びたいと思ってしまう。「エル、って呼んでも?」「勝手にしろ」 この感じだと、性格は彼とは正反対のようだ。とはいえ見た目はほぼ同じ。声だってよく似てる。「お前いくつだ?」 なのに口調は、全く違う。「十八よ」 さすがに口調まで直させるのは無理だろう。 彼がどこまで従ってくれるかも分からない。 それに、怪我が治った途端に何されるかも分からない。 乱暴されるかもしれない。最悪──殺されるかも。 それでも、愛した男と同じ顔をした男になら、何をされてもいいと思えた。その顔を最期の景色にできるなら。 私の言葉に、彼は──エルは、ああそうかと頷いた。「あなたは?」「二十一」 ロイより一つ上。 見た目から歳は同じぐらいだろうと思ったが、その通りだった。「やっぱり年上なのね」 確認したいこともできてしまうと、ふっと沈黙が舞い降りた。「…………
last updateLast Updated : 2025-07-20
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男の話
 女は──彼女は俺に対して献身的だった。 柔らかなパンとスープを作り、フルーツを切り、俺の包帯を変えた。 部屋の掃除も彼女自身が行う様子に、さすがに浮かんだ疑問を口にした。「なんで一人なんだ」「時々雇ってる人に掃除とか洗濯とかは来てもらってるわ。この部屋には入らないでもらってるけど……」 聞きたいのはそれだがそれじゃない。 なんで貴族らしい女が一人で住んでいるかということなのに、伝わらなかったのかそれは答える気がないのか。「あんまり人がいたら、不都合でしょ」 それはどちらの不都合のことなのかわからない。「訳ありか?」「訳がない人なんている?」 俺の言葉に気分を害した様子もなく、彼女は腰に手を当てた。「あなたも、私も」 その会話はそれきり終わった。 どう見てもまともじゃなかった俺の訳を聞かないその胸にあるのは、度胸なのか恐れなのか。 献身的な看護のおかげだろう。跡が残るものの傷は癒え、起き上がる度に顔を顰めることもなくなった。「背が高いのね。この服はどうかしら?」 包帯を変える必要がなくなった俺に、小綺麗な服が与えられた。「小さくない? どう?」「大丈夫だ」 てっきり使用人のような服を与えられるかと思っていたら、上等な服を与えられて驚いた。「丁度いい」 しかもサイズもぴったりだ。「よかった」 白いシャツを着た俺を見て、彼女は緑の目を細めて微笑んだ。「似合うわ」 慣れない服のせいだろう。首元が痒くて、その服の胸元は開けて着た。 怪我が治って寝てばかりいる必要がなくなると、同じテーブルで食事を取るようになった。「フルーツを切ってくる」 夕食後にフルーツを食べるのが好きらしい。 食器を下げるのを手伝ってから、椅子に座って彼女が戻ってくるのを待つ。 ──ふいに。 ナイフを持った金髪の後ろ姿が跳ねて、銀色が音を立てて落ちた。「いっ!」 立ち上がりキッチンに駆け寄った。「イース」 ナイフを落とした彼女の手元を見れば、白い指先から血が出ていた。「切ったのか」「あ……え、ええ。た、たいしたことないわ」 狼狽えたような顔をしているのは、自分の怪我に慣れていないからか。「お前は座ってろ」「え、ええ……?」 触れた指先は冷たかった。「俺がやる」 その日から食後のフルーツは、なんとなく俺が用意するように
last updateLast Updated : 2025-07-20
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女の話
「イース」 名前を呼ばれて心臓が止まった。「切ったのか」 名前を呼んだその声が、あまりにもロイそっくりで、動揺してしまった。「あ……え、ええ」 エルの声だ。落ち着け。「た、たいしたことないわ」 向けられる眼差しも、同じ灰色。 私が染めた、美しい金髪。 彼みたいだ。 その声に再び名前を呼ばれるなんて、夢みたいだ。「お前は座ってろ」 けど、口調は彼とはまったく違う。「え、ええ……?」「俺がやる」 そう言うと、彼はナイフを拾い、滑らかな手つきでフルーツの皮を剥いた。「上手いのね」「そりゃ、自分の食いもんくらい用意しないといけなかったからな」 まあ今までは皮ごと食ってたけど。 そう言うと、あっという間にフルーツの皮を剥いてしまった。 ──ロイだったら、きっとこうは出来ないだろう。貴族の男子である彼に、料理の技術など必要ない。「ほらよ」「んっ!?」  その慣れた手つきに感心していたら、彼は──エルは、買ったフルーツを私の口に突っ込んできた。 それから自分も一切れ口に入れて、目を細める。「美味いな」 ロイに似ているから傍に置いた。本当なら口調だって似せてほしい。そう思うのに、私の心臓を高鳴らせたその笑顔はまったくロイには似ていない。「あ?」 と、感じ悪く聞き返すのは癖らしい。慣れればそれに威圧感は感じなかった。 エルは無骨だったが私が嫌がることもせず、言ったことはなんでもしてくれた。 家具の移動、高いところの掃除……。 起きている時間は、ほぼ一人で過ごすことがなくなった。「本でも読んでていいのよ?」「興味ねぇ」 彼《ロイ》はよく本を読んでいて、本を見るときの伏せられた目が好きだったから残念だった。 エルは、誘わなくても買い物にまで着いてきた。「いいのよ? 一人で家でゆっくりしてても」「自分で酒を選びたいからついてくだけだ」 そう言うくせに、一度もお酒は買わなかった。「新しいドレスを買いに行くだけよ?」「あ? お前、何拾ってくるかわからねぇだろ」 ロイと同じ顔でまったく違う口調で言われた言葉に、思わず笑ってしまった。「馬鹿ね」 あなたを拾ったのは、好きな男と同じ顔だったからよ。 好きな男が手に入らないなら、せめて同じ顔の男だけでも。自分の慰めのためにあなたを拾ったのよ。 ──他に何も、拾う
last updateLast Updated : 2025-07-20
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男の話
 両手にはパンやら野菜やらが入った紙袋を抱えてる。 俺たちは路地裏を見つめたまま、さっきっから一歩も動いてない。動けない。「……拾ってもいいかしら?」「お前、もう俺に馬鹿って言うんじゃねーぞ」 同じ考えじゃねぇか。 持っていた紙袋の軽い方をイースに渡す。「重くないか?」「大丈夫」 俺は空いた片手を、路地裏に伸ばす。「こっち来い…………そこの毛玉」 俺たちの視線の先には、物陰からこちらの様子を伺う子猫がいる。 暗がりにも小ささが分かる猫だ。俺たちは買い物の帰りに、路地に逃げ込むその姿を見付けたのだ。「ほら来い毛玉」 子猫は俺の伸ばした手を威嚇するように毛を逆立てる。「馬鹿。そんなふうに言ったら逃げちゃうでしょ!」「あ?」 眉間に皺を寄せた俺に、イースが先ほど渡した紙袋を突き渡してきた。 それからドレスの裾が汚れることも厭わずしゃがみ込むと、子猫に向かって両手を伸ばす。 あまりに警戒がなさすぎる。「怪我したらどうする」「別にいいわよ」「あ?」 よくねぇよ。 俺の視線に怯えることなく、イースは子猫に声をかけた。「ほら、おいでおいで」 イースの長い髪はいつも花の匂いがする。 子猫は鼻をひくつかせて、恐る恐るこちらの様子を伺っている。「大丈夫よ」 怖くないわ、と彼女が甘い声を出す。外でそんな声を出すな。「拾ったら言うことを聞けって言われるぞ」「ちょっと!」「ほんとだろ」 眉を上げるイースに、俺が喉を鳴らして笑っていると、ふと子猫が前足を上げた。「あ、来そう! おいでおいで〜……」 再び眦《まなじり》を下げたイースに、子猫はおずおずと近付いて来る。路地裏から出て来た子猫の瞳は緑色だった。「いい子ね」 すかさず彼女は柔らかく抱き上げて、その子猫を腕に閉じ込めた。「寂しかったでしょう? 一人で怖かったでしょう?」 一体どういう気持ちでそれを聞くのか。 緑の瞳は見つめ合って、子猫はみゃあ、と小さく鳴いた。「……拾ったじゃないか」「あなたも一緒だったじゃない」 腕の中ですっかり大人しくなった子猫の体を撫で、イースが目を細めた。「痩せてるわね。うちでミルクを飲みましょう」 献身的なのはこの女の性か。 わかってはいたが一晩だけでなく、家に迎える気満々らしい。「名前を決めなきゃね」 イースが俺を見
last updateLast Updated : 2025-07-20
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女の話
 テーブルの上にカットされたフルーツが乗った皿が置かれた。「ありがとう」「おう」 エルは返事をすると私の向かいに座った。 音を立てて椅子に座る姿に品があるとは言えない。それでも黙っていれば、品のある彼の姿を重ねることができた。 金髪。灰色の瞳。品のある高い鼻。 どうしても、よぎってしまう。 ロイとなら、どんな生活をしていただろうかと。 想像していると、足元に暖かいものが触れた。「よしよし、お腹いっぱいになった?」 今日拾った子猫。足元のその存在を抱き上げて膝に乗せる。 私と同じ緑色の瞳。「グリン」 口をついて出たその単語に、すぐにエルが頷いた。「緑ってことだろ、いいんじゃねぇか」 エルは口に入れたフルーツを飲み込むと、私の膝の上にいる子猫に向かって呼びかけた。「グリン」 呼ばれていると分かったわけでもないだろうに、にゃあ、と子猫は返事をした。 その声を聞いて、一瞬エルの口の端が緩んだのを私は見逃さなかった。「こいつ天才だな」「もう、馬鹿ね」 そんな浮かれた顔をして。「そうね」 私もそうかもしれない。 そして一人だった生活は二人になり、二人と一匹になった。「おい、グリンがなんか咥《くわ》えて走ってったぞ」「止めてよ! あれは私のネグリジェよ!」「あ?」 高いところに逃げたグリンを容易く捕まえると、ネグリジェを奪い取り私に向かって勢いよく放り投げた。「わ」 頭に覆い被さったネグリジェから顔を出すと、エルはグリンに笑いかけていた。「次はもっと上手くやれよ」 シーツについた猫の毛をバルコニーで払っていると、エルが横から現れてシーツを奪った。「貸せ」 言い返す間もなく取られて、力強くシーツを叩く。「ありがと」 それからシーツを被せられて、視界が白くなる。「ほらよ」「もう」 シーツから顔を出して、バルコニーで陽を浴びる彼を見つめた。彼の髪の毛が鈍く光った。 灰色の目。品のいい高い鼻……髪の色は、金色が落ちてきていた。「……エル」「あ? なんだ?」 彼の足元に絡みついてきた子猫の姿は、迎えた時より丸みを帯びた。 それだけの時間が経った。 だからこそ、提案するのを少し躊躇《ためら》った。それでも言った。「そろそろ、また髪の毛を染めに行かない?」 私の提案に、エルは二つ返事だった。髪を染め
last updateLast Updated : 2025-07-20
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男の話
「水、用意する」 そう言ってキッチンに向かい、コップに水を入れた。それから女に渡す姿など昔の俺を知る人間が見たら惨めだと笑うだろうか。「ありがと」「おう」 水を受け取った彼女の乱れたままの胸元に先ほどの余韻があった。俺が注いだ水を口に含んで、その胸元が上下する。俺は全然惨めじゃない。「あの……エル」「あ?」 珍しくしおらしい声を出すから、謝る気かと思った。「あなたは」 彼女が口を離したコップを受け取って、残っていた水を飲んだ。「私がここに一人で住んでる理由を、聞かないのね」「今更だな」 それに今かよ。「前戯に過去の話なんて選ばねぇよ」 記憶の蓋と体を開かせ方を同じにするほど、俺は幼くはない。「まあ"言うことは聞く"が?」 俺の言葉に、一拍キョトンとして、それから意味がわかったようで小さく笑った。揺れる肩から金色の髪が落ちる。「そうね」「そうだ」 彼女は俺を助けた。そして別人のような穏やかな人生を与えた。 俺の話はそこから始まって、それがすべてだ。山賊エルドルはただのエルになった。「まだ、喉が乾いてるの。もうちょっとちょうだい」「あ?」 手の中のコップは空だ。キッチンに水を入れに行こうと背を向けようとしたら、彼女に手を掴まれた。「………………馬鹿」 なんだよ。「今、よ」「だから今、」 緑色の瞳が俺を見た。その目は足りないと言っていた水分に濡れて光っていた。 湿ったような唇の色と、乱れたままの胸元。「……馬鹿はお前だ」 言外の意味が分かって、そのまま押し倒してやることもできた。 その手と欲望を振り払って背を向ける。「水入れてくる。飲んだら部屋に戻って寝ろ。……次喉が渇いたっつったら、水なんて入れてやらねぇからな」 いつもより早い時間に目が覚めた。朝日の色は彼女と同じ髪の色だから、もう眠れそうにはなかった。 グリンが起きている気配もない。 何をしようか、なんて考えるような余裕ができた自分に驚く。 常に命の瀬戸際だった今までの生活に、そんな余暇はなかった。 本でも読むといいと言っていた彼女の言葉を思い出して、部屋の隅にある本棚に手を伸ばした。 どのタイトルも晦渋でよく分からなかったが、それでも一番短いタイトルの本を手に取った。詩集だった。 小難しいことばかり書いてある。分かりきったことを嘆くよ
last updateLast Updated : 2025-07-20
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女の話
「イース」 私の名前を呼ぶ声は、愛した男の声。 月明かりのせいでその顔がよく見える。──愛した男の顔だ。 顎を掴まれているせいで、その顔から目が背けられない。 名前を呼ばれてるのに、呼び返せない。「グリン」 足元に現れた存在のおかげで手が離されて、起きちゃったの、と声をかけた。 腕を伸ばすとグリンはすぐに飛び込んできた。 境界線を飛び越える気持ちで彼の元に来たのに、その顔を見たら何もかも分からなくなってしまった。 話そうと思ったのに。「起きちゃったの?」 猫に話すしかできなくなってしまった。「部屋に戻るか?」「え?」 彼の言葉の意味を考えて、それが思いやりだと気がついた。「もうちょっと」 私はあなたと。「ここにいる」「そうかよ」 日付と体の輪郭の境界線を越えたかった。けれど本を捲り始めた彼に、もうその気はなさそうだった。 もう一度彼の傷に触れたかった。 触れた指先を今度こそ離さず、ここまでの経緯すべてを話したかった。 私とあなたが出会う前の。 そしてあなたに手を伸ばした理由と、今もあなたを手放せないその理由を。 聞いてくれたらいいのに。 出会ったばかりの頃、訳ありかと聞かれて頷いただけだった。それが退路を塞いだ気がする。 話したい。話せない。 離したくない。「眠いか?」「そうね、ちょっと」 嘘をついて目を閉じた。「俺もだ」 彼の言葉が、嘘か本当かわからない。 彼は本を置くと、私を背中から抱きしめた。 それにグリンが驚いて、私の膝から飛び降りた。「よく眠れそうだ」「そうなのね」 背中から心臓の鼓動が伝わる。耳元にかかった息のせいで私の心臓が跳ねた。「私もよ」 嘘ばっかりだった。 出会った時から、隠匿と欺瞞しかない。 このまま夜よ明けないで。 姿を見なければ、彼を彼だと思わずに済む。 朝よ来ないでと思うのに、明日も明後日もあることが希望だった。 だからゆっくり伝えていけばいいと決めて、腕の中で眠った。 窓から差し込む太陽の光で明るい部屋の中で、彼の顔が間近にあった。「起きてたの」「起きてたよ」 ソファの上で横たわる私の身体は、彼の腕の中に閉じ込められていた。「起こしてよ」「言わなかっただろ」 鼻先が触れそうな位置で言われる。もう、と息を吐くと、耳元に手が伸びた。 私
last updateLast Updated : 2025-07-20
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