穂香、階段、道路、救急車、そして翠の子宮摘出。すべてが繋がった瞬間、湊の身体はその場に崩れ落ちた。胸を引き裂かれるような痛みが、彼を容赦なく襲う。自分だ。自分の手で、ふたりの唯一の子どもを殺してしまったのだ。「湊!どうしたの?」診察室から出てきた穂香は、床に倒れている湊を見て驚き、慌てて駆け寄った。だがその手に触れた瞬間、彼は彼女の手を乱暴に振り払った。その目は、氷のように冷たかった。「触るな」穂香は何が起こったのか理解できず、呆然と立ち尽くす。彼の目と視線が交わったとき、彼女は唇を噛みしめた。「湊、私はただ、あなたを起こそうとしただけよ。どうしたの?」だがその表情には、密かな満足感が浮かんでいた。今さらどれだけ翠を想ったところで、もう遅い。彼女は湊とは何の関係もない存在になったのだから。しかも、自分のお腹にはまだ子どもがいる。湊は目の前の穂香を見て、黙って立ち上がり、彼女の手にある診断書に目をやった。「医者はなんて?」その問いに、穂香はすぐに笑顔を作って答えた。「まだ初期だから、何も分からないけど、大丈夫だって」そう言って、彼の腕に手を添える。「湊、帰ろう?」二人で数歩進んだところで、湊はその場に立ち止まった。彼は隣を歩く穂香を見つめながら、ふいに思い出した。以前も、彼女は「お腹が痛い」と言って、自分に選択を迫った。翠と、彼女自身のどちらを選ぶのかと。翠が流産したあの日、車中でも、穂香はずっと「痛い」と訴えていた。なのに病院に着いたら、何事もなかったかのようにケロッとしていた。あの時の自分は、ただ焦りと不安に飲まれて、何一つ疑わなかった。だが、今は違う。「本当に、何もなかったのか?」湊は聞いた。湊の真剣な眼差しに、穂香は一瞬たじろぐ。だが、心配してくれていると都合よく解釈して、笑顔を見せた。「本当に何もないってば。先生の言葉、信じてないの?もう、心配しないで。さっき義母さんから連絡来たの。スープ作ってくれたって。早く帰ろ?」湊はそれ以上何も言わず、二人は車で家へと戻った。家に着き、穂香が車から降りようとしたその時、湊が突然口を開いた。「穂香さん。最初から、翠が妊娠してたって知ってた?」その一言に、穂香の動きが止まる。ドアノブを握ったまま、手がびくりと震えた。「そ、そんな
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