All Chapters of 復讐の名のもとに、結婚した彼が最後は”行かないで”と泣いた: Chapter 11 - Chapter 20

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第十章 懐中時計

第十章 懐中時計「900万円!」オークション会場が一瞬にしてどよめいた。萌香の背後から、力強くもどこか優しさを湛えた声が響き渡った。彼女が驚いて振り返ると、そこには先ほどまで気軽に言葉を交わしていた、見ず知らずの男性が、堂々と手を挙げていた。その提示した金額に、翔平は一瞬たじろいだが、すぐに背筋を伸ばし、決意を込めて手を高く掲げた。会場は再びざわめきに包まれ、緊張感が空気を支配した。男性の目は真剣そのもので、しかしその奥には温かな光が宿っていた。萌香の心臓は激しく鼓動し、胸の内で期待と不安が交錯した。翔平も負けじと声を張り上げ、競り合いは一層熱を帯びた。会場の誰もが息をのんで見守る中、二人の静かな闘志が火花を散らした。観衆の視線は二人に釘付けとなり、会場全体がまるで時間が止まったかのような熱気に包まれた。この瞬間、誰もがこの競り合いの結末に心を奪われていた。「950万円!」翔平は懸命に食い下がったが、競り合いの末、男性が1,000万円で懐中時計を落札した。握り拳を固め、歯を食いしばる翔平。萌香を繋ぎ止める切り札がまた一つ消えた。あの懐中時計は、翔平にとってただの品物ではなかった。それは萌香の父親との大切な思い出の象徴だった。「翔平くん、萌香と結婚したら、この時計を一緒に守ってくれないか?」かつて縁側で、萌香の父親が穏やかな笑顔で語った言葉が脳裏に蘇る。あの春の日、照れながら頭を掻いた翔平の耳に、時計の針音が静かに響き合い、萌香との未来を夢見ていた自分を思い出し胸が高鳴った。今、会場は水をかぶったように静まり返り、落札の余韻だけが漂う。翔平の胸には、悔しさと懐かしさが複雑に交錯し、過去と現在の間で揺れ動いていた。(くそっ!)懐中時計を落札した男性は、穏やかに萌香に微笑みかけた。その温かな視線に、翔平の胸に怒りが沸き上がった。彼は腕にしがみついていた女優の手を乱暴に振り払う。キャッ!と小さな悲鳴を上げた女優は、目を吊り上げ、動画を公開するからね!と翔平を睨みつけた。翔平は冷ややかに女優を一瞥し、勝手にしろ。お前も道連れだ。と低く唸り、彼女の顎を軽く掴んで凄んだ。女優の顔色がサッと変わり、怯えたように目を泳がせると、慌てて踵を返し、オークション会場を後にした。会場は一瞬の騒ぎの後、再び静寂に包まれた。*****翔平の心は怒りと喪失感で波立ちながらも、萌
last updateLast Updated : 2025-07-25
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第十八章 対峙

第十八章 対峙 病室の扉が勢いよく開くと、深紅の薔薇の豪華な花束を抱えた女性が立っていた。清楚な顔立ちとは裏腹に、その瞳は薔薇の棘のように鋭く、萌香を射抜くように見つめていた。この女性は、翔平と不貞行為をはたらいたあの女優だった。萌香の胸には冷たい氷が突き刺さり、心臓が締め付けられるような痛みが走った。部屋の空気が一瞬で凍りつき、時が止まったかのようだった。女優の唇がわずかに動き、言葉を発する前に、萌香の頭は疑惑と怒りで渦巻いていた。なぜここに? 何を企んでいる? 薔薇の香りが漂う中、萌香は震える手で拳を握り、対峙する覚悟を決めた。 (この人が、なぜここに?) 女優は、ごきげんよう、お見舞いに来たの。と不敵な笑みを漏らした。 「あなた、どうしてここに翔平がいるって分かったの?」「あなたじゃないわ、二階堂 明日香、えーっ、まさか知らないの?」「知って、ます」 二階堂明日香は、深紅の薔薇の花束を翔平が眠るベッドの足元に無造作に置いた。鮮やかな花びらが白いシーツに口紅の染みのように散らばり、病室に不穏な彩りを添えた。萌香は怒りが込み上げるのを感じた。彼女は芸能界で飛
last updateLast Updated : 2025-08-02
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