復讐の名のもとに、結婚した彼が最後は”行かないで”と泣いた

復讐の名のもとに、結婚した彼が最後は”行かないで”と泣いた

last updateآخر تحديث : 2025-08-24
بواسطة:  雫石しまمكتمل
لغة: Japanese
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浅葱萌香と久我翔平は幼馴染で将来を誓い合ったが、萌香の父が翔平の母と無理心中を図り、両家は崩壊。翔平は萌香を憎み、復讐として結婚を強いる。冷酷な新婚生活の中、萌香は父の事件の真相と陰謀を知る。翔平の復讐心の裏に愛が隠れ、二人は誤解を解き真実を追うが、新たな危機が迫る。愛と憎しみが交錯する恋愛ミステリー。

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الفصل الأول

プロローグ

翔平が冷ややかな目で彼女を見下ろし、唇に薄い笑みを浮かべる。部屋の空気が重く圧迫する。彼女は目を閉じ、逃げられない現実を噛み締めた。

「萌香、この結婚はおまえたちへの復讐だ」

左手の薬指で光る指輪は、彼女を縛る冷たい鎖と化した。彼女はその時初めて気が付いた。自分が地獄の入り口に立っていることを。

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復讐の為の不倫のドロドロかと思ったらサスペンスだった。
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41 فصول
第一章 夫の浮気
久我 萌香は三十五階建のマンションを振り仰いだ。風が彼女の長い髪を捲き上げる。それはまるで自分を拒絶するかのような冷たい箱、ここが萌香の自宅だ。今日も彼女は昏睡状態の母親を見舞い、エレベーターのボタンを押す。疲れ切った顔がガラス窓に映る。エレベーターの機械音、上昇する箱。それはいつもと同じはずなのにどこか違和感を感じる。(なに、この匂い・・)エレベーターの中は白檀の香水の香りが充満していた。身体にまとわりつく淫靡な匂いに、萌香は思わず息を止めた。(臭い・・・)三十五階でエレベーターの扉が開く。するとその香りは萌香の家へと誘うように続いていた。彼女は嫌な予感に、ショルダーバックの肩紐をギュッと握りしめた。不安げな萌香の靴音がエレベーターホールに響く。それが苦しみの扉を叩くとも知らずに。(やっぱりそうだ)白檀の香りはやはり家の扉の前で途切れていた。萌香は息を呑み、シリンダーキーを鍵穴に挿した。それは空回りし、施錠されていなかったことを表した。(鍵が、開いている?)マンションの駐車場には、夫、翔平の黒のBMWが止まっていた。今夜は家に帰る。とも言っていた。いつも慎重な彼が鍵をかけ忘れるなど有り得なかった。萌香はただならぬ雰囲気を感じ、そっとドアノブを下ろした。部屋の中は暗く、ベッドルームから仄かな明かりが漏れている。萌香はゴクリと唾を飲み込むと、音を立てないようにゆっくりと足を進めた。その時、ベッドが激しく軋む音が聞こえた。「あ、あ・・翔平、ああ」萌香は後頭部を殴られたような衝撃を感じた。自分が眠るベッドの上で、翔平が見知らぬ女性を抱いていた。「もっと声を出せ、もっとだ!」「ああっ!」彼は鋭い目で女性を見下ろし、額に汗を滲ませている。「聞こえない!もっと、ほら!」「ああっ!翔平!いい!いい!」「もっとでかい声で!」それは、まるで萌香に見せつけるような強い口調だった。扉の隙間からその痴態を伺い見た萌香は、目の前の光景に言葉を失う。口の中が渇き、指先が震えた。思わず後ずさった彼女は壁の額縁にぶつかった。ガタンその物音に翔平は、驚くこともなくゆっくりと振り返った。シェードランプに浮かび上がった目は厳しく萌香を突き刺し、顔は嫌らしく歪んでいた。彼は腰を激しく前後させながら「おかえり、奥さん」と乾いた声色で吐き捨てた。「・・・・!」翔平に
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第二章 父の死
―二十年前萌香と翔平は幼馴染だった。同じ幼稚園に手を繋ぎ通っていた。翔平は泣き虫で、萌香がその頭を撫でて微笑んだ。僕、お父さんがいないんだ。翔平の父親は若くしてガンで亡くなっていた。「寂しくないよ、萌香が翔ちゃんのお嫁さんになってあげる」萌香は、青くさい草の匂いがする三つ葉のクローバーで指輪を作り、その指にはめた。久我の母親と翔平は、萌香の実家、浅葱家と家族ぐるみで付き合い、賑やかな日々を送った。翔平は息子のように可愛がられ、萌香は彼を兄のように慕った。やがて二人は恋人として手を繋ぎ、桜の樹の下でキスを交わした。けれど、その幸せな時間は花びらのように散ってしまった。三年前、萌香の父親が運転する車が崖下に転落した。助手席には翔平の母親が乗っていた。二人は即死だった。警察の現場検証で父親のスマートフォンが見つかった。そこには俄に信じられないメッセージが残されていた。(私たちは真剣に愛し合っている。全てを捨て)文章はそこで途切れていた。ただ、萌香の父親と翔平の母親が不倫関係にあり、駆け落ちを試みようとしていたことは明白だった。交通事故の一報を聞いた母親は脳溢血を起こし、救急搬送されたが昏睡状態に陥った。涙のような小雨が降っていた。読経が響く寺院には、大手製薬会社CEOのご母堂の葬儀ということもあり、多くの参列者が列を成した。「この度は、ご愁傷様でした」萌香は、翔平の母親の遺影を見上げ手を合わせた。白い菊の祭壇で微笑む彼女は優しく、涙が込み上げた。焼香をする指先が震え数珠が音を立てた。萌香が翔平の前に進み出て深々とお辞儀をすると、翔平は萌香の襟首を掴み上げた。「俺はおまえたちを、おまえの父親を許さない!」「ご、ごめんなさい!」翔平は、雨の回廊に萌香を叩き出した。その目は怒りとも悲しみともいえない色をしていた。萌香は雨に濡れながらも跪いて、父親が犯した罪を謝罪した。「ごめんなさい!翔平くんごめんなさい!」翔平は踵を返し、無言で振り向くことなく葬儀場へと入って行った。大丈夫ですか?萌香は葬儀係員から差し出された白い傘を受け取り立ち上がった。ありがとうございます、お騒がせしました。白い傘は足取りも重く、鉛を引き摺るように寺院を後にした。そして、葬儀から四十九日が明けた頃、曇天から一筋の光が差した。萌香は父親の位牌を手に、自宅の座敷に座り込み仏壇
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第三章 復讐の結婚式
一年後の春、桜霞に街は烟った。白い薔薇のフラワーシャワーが、深紅のバージンロードに舞い散る。「おめでとう!」「おめでとう萌香ちゃん!」「翔平、この幸せ者!」どこまでも高い青空の下、白い教会に幸せの鐘が鳴り響いた。色とりどりのステンドグラスから差し込む眩い光の中で、萌香と翔平は永遠の愛を誓い合った。ウェディングベールをあげた翔平は、萌香の唇にそっとキスをする。左手の薬指には揃いのプラチナの指輪が輝いた。萌香の目尻には、幸せの涙が滲んだ。新婚旅行は翔平の仕事がひと段落ついてからフィジーに行くことが決まっていた。結婚式を終えた二人は高級レストランでディナーを楽しんだ。磨き上げられたクラスに注がれる深紅のワイン、頬を赤らめる萌香を一瞥した翔平の口元は醜く歪んだ。「さあ、奥様。ここが俺たちの新居だ」「わぁ!素敵!翔平さん、スカイツリーが見える!」「そんなにはしゃぐことでもないだろう」ガラス張りのリビングからは東京の夜景が一望出来た。煌めく星空に浮かぶような感覚に、萌香の心は雲の上を歩いているようだった。人生最良の日。萌香は、父親が犯した罪と翔平の怒りを、忘れていた。「萌香」リビングのライトが急に消され、闇が萌香に覆い被さった。翔平の声色が萌香の背中に突き刺さった。萌香は鋭い痛みを感じた。「なに、どうしたの?」「・・・・・」翔平の心の中にはドス黒い感情が渦を巻いていた。優しかった母親の心を奪った萌香の父親への恨み。未だのうのうと生きている萌香の母親への憎しみ。罪の意識が乏しい能天気な萌香の笑顔に怒りを感じていた。「翔平くん?どうしたの?」暗がりでも分かる。翔平の目の色が変わっていることが。それは彼の母親の葬儀で見た、あの目だった。萌香の背筋に冷たいものが流れた。「萌香、なにを怖がっているんだ」「だって、なんだか」翔平の手が伸び、萌香の白いワンピースのボタンを丁寧に外していった。萌香は思わず目を逸らし、煌めく夜景に恥ずかしさを誤魔化した。衣擦れの音が床に落ち、目をギュッと瞑る。キャミソールの紐がするりと腕を伝い落ち、その部分が熱を持った。心臓の鼓動が速まり、夜の静寂に響く。 「・・・・・!」首筋に点々と散る赤い花びら。萌香が快感に身を任せた瞬間、それは鋭い痛みに変わった。翔平が、獲物を仕留めた獣のように、彼女の首筋に歯形を刻んだ。その
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第四章 ロッカールーム
萌香は秘書として、久我製薬株式会社に勤務することとなった。会社で萌香と翔平が夫婦であることは公にはしていなかった。そこで、久我翔平CEOの推薦で入社した女性のことを快く思わない社員は多かった。特に秘書室はその話題で持ち切りで、萌香がCEOの愛人ではないかとも噂された。「あら、ごめんなさい」萌香が重役に提出する資料を運んでいると、茶盆を持った女性が肩をぶつけて来た。ハラハラと舞い散る紙。資料には緑茶のシミが出来、使い物にはならなかった。萌香は(・・・またか)と溜め息をつき床に屈み込んだ。コピー用紙に手を伸ばすと、それを黒いハイヒールが踏みつけた。栗毛の巻き髪、ゴージャスな美女、名前を佐々木京子といった。「せっかく作ったのにねぇ、会議に間に合うかしら?」佐々木京子は、翔平の第一秘書だ。今回の人事には不満がある。これまで尽くして来たCEOの隣に寄り添うように立つ萌香が気に入らなかった。けれど、翔平はそれが狙いだった。秘書たちを煽り、萌香が秘書室で虐められることを見越して採用した。「あんた、久我さんの親戚かなにか知らないけど生意気なのよ!」「きゃっ!」案の定、彼女たちは萌香を虐めの対象として日頃の鬱憤を晴らし始めた。その背後には必ず佐々木京子がいた。自分では手を下さずに、壁に寄りかかって腕を組み、人ごとのように傍観していた。「もう、やめて下さい!」萌香のリボンタイは解け、ブラウスはシワだらけ、タイトスカートは埃だらけになった。そこで佐々木京子は髪を掻き上げた。「もうやめてあげなさいよ」佐々木京子が声をかけると、秘書たちはその手を止めた。そして萌香から手を離し、彼女のために道をあけた。ロッカールームの端からコツコツと黒いハイヒールの音が響いて来る。萌香は身体の痛みと、緊張に震えた。佐々木京子は腕を組み、萌香を睨んだ。これまで翔平の信頼を一身に受けてきた彼女にとって、突然現れたこの新入りが我慢ならなかった。「ねぇ、久我さん」彼女は萌香の鼻先をピンクベージュのネイルで指さし、口角を片方上げた。「な・・・んでしょうか?」彼女は屈み込むと嫌らしく笑った。「わんって言ってみて?」「え?」「うちのパグちゃんでも出来るわよ?三回まわって、わん!簡単でしょ?」萌香は悔しさで下を向いた。握り拳を作り、涙が出そうになるのをグッと堪えた。「ほら、言ってご
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第五章 傷の代償
翌日、翔平から萌香直通で内線電話が入り、来客だ紅茶を持って来てくれ。と指示があった。秘書室のスケジュールに、CEOの来客予定はなかった。(プライベートなお客様なのかな)萌香は普段より丁寧に茶葉を蒸らし、翔平が好む伊万里焼のティーカップに紅茶を注いでCEO室へと向かった。萌香は茶盆を握りながら、父親の顔を思い出した。あの事件さえなければ、こんな屈辱を味わうことはなかったのに。彼女は唇を噛み、扉をノックした。商談にしては人の気配が荒々しかった。萌香の胸はざわついた。「入れ」「お邪魔します、お待たせいたしました」萌香がお辞儀をして顔を上げると、目を覆いたくなるような光景が広がっていた。女性が翔平に絡みつき、革の椅子が軋む音が響く。彼女は視線を逸らしたかったが、身体が動かなかった。(まさか、会社で)萌香は茶盆を落としそうになった。「萌香、落とすなよ。それ、気に入っているんだからな」「は、はい」「ここに置け」翔平は、今、まさに他の女を抱いているマホガニーの机の上まで紅茶を運んで来いと言った。「ああ、ん」女性の艶かしい喘ぎ声が部屋に反響する。「ここまで来いと言っているんだ!」「は・・・はい」萌香は震える手で茶盆を握り直し、テーブルへと向かった。脚がもつれて転びそうだ。今すぐ、この場所から飛び出してしまいたい。「どうぞ」指先が小刻みに震え、紅茶にさざなみが立った。その様子を満足げに見た翔平はこう言った。「辛いか?これがおまえの父親が俺に残した傷の代償だ」「・・・・・・!」翔平の声には怒りと共にどこか苦しげな響きがあった。女性は激しく腰を振って悶え続ける。萌香はその場所に凍りついた。*****それでも萌香は父親が犯した罪を償うため、翔平の暴挙に耐え続けた。それは自分の家というテリトリーがあればこそ許せる行為だった。それが今夜、翔平は萌香のボーダーラインを超えて自宅マンションに愛人の一人を連れ込み、行為に耽った。(もう駄目、耐えられない)萌香が両耳を押さえてソファに蹲っていると、身支度を整えたその女と、バスローブを羽織った翔平がベッドルームから出て来た。ダウンライトに照らされた女はまだ若く、清純派として有名な新人女優だった。萌香は心の中でほくそ笑んだ。(清純派が呆れるわ、ここで写真を撮ったらどんな顔をするのかしら)床に投げ出した
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第六章 離婚しましょう
「萌香、今、なんて言った?」翔平は明らかに動揺していた。視線をテーブルに落としたまま身動きが取れずにいた。「私たち、離婚しましょう」グラスを持つ翔平の手が小刻みに震えている。水滴がポタリと落ちた。萌香の目には迷いがなく、スカートの上で握り拳を作り彼の顔を凝視していた。(まさか、萌香がこんなことを言い出すなんて!)萌香の弱点は、昏睡状態の彼女の母親だ。翔平は、自分と萌香を繋ぐのはその存在だけだと信じていた。萌香には到底支払えない高額な治療費。その事実がある限り、彼女は自分の側から離れることはないはずだった。だが、翔平の心には不安が芽生えていた。もし治療費が支払われたら、萌香は自由になり、自分を必要としなくなるのではないか。そんな疑念が、彼の胸を締め付けた。萌香の母親の命は、翔平にとって愛の絆か、それとも呪いか。どちらともつかないその思いは、彼を静かに追い詰めていた。「脅かしか?離婚だと?おまえにそんな勇気があるのか?母親の治療費はどうするんだ」萌香はその威圧的な言葉に耳を貸すこともなく、感情のない目で小さく呟いた。「翔平くん」「なんだ」翔平は萌香がなにを言い出すのかと身構え、彼女は身を乗り出し、強い口調で言った。「これまで誰も家に入れなかったのに、あの人のことは本気なの?」「あの人?」「さっきの女優さんよ」翔平は大きな溜め息をつくとグラスをゆっくりとテーブルに置いた。「おまえに答える価値はない」「そんな言い方」翔平の突き放した物言いに、萌香は顔色を変える。彼はいきなりソアから立ち上がるとバスローブを脱いだ。次にウォークインクローゼットのダウンライトが灯り、翔平はダンガリーのシャツを羽織った。そして踵を返すと玄関へと向かう。「翔平さん!こんな時間にどこに行くの!?」「俺の勝手だ!」萌香はソファから身を起こし振り返ったが、玄関の扉が閉まる音が響いた。廊下を歩いて行く革靴の音は苛立ちを隠せず、部屋に取り残された萌香は呆然と立ち尽くした。エアコンの風が観葉植物を揺らす。どれくらい時が過ぎただろう。彼女は感情を無くした人形のように手足を動かし、無表情なままベッドルームのドアを閉めた。(もう、もう終わりにしよう)萌香はスーツケースを取り出すと、身の回りの必要なものを詰め始める。数着の衣類と化粧品、離婚をすると覚悟を決めたはずなのに、ワ
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第七章 翔平の告白
(この三年間はなんだったんだろう)これまで萌香は、父親が犯した罪を償い、翔平に尽くしてきた。けれどよくよく考えてみれば、翔平の母親も自ら進んで父親が運転する車の助手席に乗り込んだのだ。萌香は、父親の事故がなければ、こんな人生を歩むことはなかったと何度も思った。翔平の母親を奪ったあの日が、彼女をこの結婚という檻に閉じ込めたのだ。(お互い様だわ)萌香は結婚指輪を外すとテーブルの上に置いた。ダイヤモンドの輝きは、三年間褪せることはなかったが、萌香にとっては自由を奪う錘でしかなかった。(・・・・・)翔平が他の女を抱いたベッドなど使う気にはなれない。怖気すら感じる。萌香は奥のゲストルームで夜を過ごそうと考えた。彼女は今夜の悪夢のような出来事を洗い流してしまおうとシャワールームに向かう。衣擦れの音が耳に響く、孤独な空間。鏡に映った自分は貧相に見えた。(嫌だ、酷い顔をしてるわ)浮き出た鎖骨、棒のような腕、心なしか胸も小さくなっている。華奢といえば聞こえは良いが、惨めだった。ただ、生まれ持った気品と美しさは枯れることはなかった。けれど、その瞳の奥には、暗い深淵が横たわっていた。萌香はシャワーを終えたが気分は晴れなかった。たまにはアルコールでも飲もうかと冷蔵庫を開けたと同時に、勢いよく玄関の扉が開いた。翔平だった。「萌香!帰ったぞ!」「お帰りなさい、ってお酒飲んでるのね!?」彼は行きつけのワインバーでグラスを傾けた。けれど萌香との諍いで心ざわめき、正体をなくしたところでタクシーに押し込まれた。耳まで赤らんだ彼の足取りは覚束なかった。「なぁ、萌香」「なに?明日も早いんでしょ?もう寝たら?」萌香のつれない態度に頭を掻きむしった翔平は、ソファに座り込んだ。ふと見遣るとテーブルの上には見覚えのある指輪が光を弾いていた。彼の表情は凍りついた。「俺がどれだけおまえを愛しても、知らん顔だ」「いつ私がそんなことをしたの!?」萌香は、これまで受けて来た仕打ちに、思わず声を荒げた。「俺が死んでも、おまえはなんとも思わないんだろう!?」「死ぬなんて軽々しく言わないで!」三年前の交通事故。位牌になってしまった父や、白い菊の祭壇で微笑んでいた翔平の母親の遺影を思い出した彼女は本気で怒った。手元にあったクッションを翔平に投げつけたが、それは当たらず床に落ちた。萌香がここ
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第八章 母の病室
カーテンが揺れ、窓から差し込む日の眩しさで萌香は目覚めた。隣に手を伸ばすとそこに翔平の背中はなく、シワのよったベッドシーツが昨夜の出来事を物語っている。熱めのシャワーを浴びると思考回路がハッキリとしてきた。翔平は、離婚しましょう。と言った萌香の顔を見て明らかに狼狽えていた。(どうして?この結婚に愛なんてないのに、どうして、あんなに慌てていたの?)その後、家を飛び出した翔平は深酒で帰宅した。彼は酔いに任せて萌香に、愛している。と、その思いを吐露した。そして彼女を、ベッドの上で貪るように深く愛した。(翔平くんは、私のことを愛している?まさか、そんなはずない)萌香の身体に残る翔平の情熱、掴まれた腕には彼の指の痕が残っている。萌香はその痕を指先で撫ぜ、翔平の心のうちに思いを巡らせた。萌香は消毒液の匂いと白い蛍光灯がチラつく病院の廊下を歩いていた。通り過ぎる看護師が笑顔で、今日もお疲れ様です。と会釈する。もう何度この光景を繰り返しただろう。この三年間にわたる、昏睡状態の母親の世話と翔平の横暴な仕打ちに萌香は疲れ切っていた。浅葱菜月様、プレートを確認して病室の扉を開ける。白い部屋のベッドで、人工呼吸器とピーブ音が規則正しく母親の命を繋いでいた。萌香はベッドの脇に腰掛けると、動くことのない痩せ細った母親の手を握って涙声になった。「お母さん、私、翔平くんと離婚することに決めたよ」その手は無反応で、返事はなかった。萌香は涙を溢しながら母親に優しく語りかけた。「浅葱の家、売ってもいいかな?そのお金でどこか遠くに行こう?」萌香は、今は誰も住まない浅葱の邸宅を手放すことを決意した。父は知人の借金の連帯保証人になって自己破産に追い込まれた。けれど、浅葱の邸宅だけは手放さなかった。「もう限界なの。そのお金で、二人で遠くに行こう?海が見える小さな町なの。養護施設からも綺麗な夕陽が見えるわ。お母さんもきっと気にいると思う」その時、ショルダーバッグのスマートフォンが震えた。着信は、久我家本宅に仕える執事、長谷川からだった。本宅から連絡が入ることは珍しかった。「お母さん、また来るね!」萌香は慌てて廊下に出た。「奥様、お久しぶりでございます」「長谷川さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」「奥様もお元気そうで、よろしゅう御座います」翔平は、母親の事故後、本宅から現在の
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第九章 パーティー
萌香は立ち上がることを止め、その男性へと向き直った。男性は目尻を下げ、目を細めた。それはどこか懐かしい人を見るようで優しかった。管弦楽団の四重奏が遠ざかり、周りの音が消えた。萌香も彼に、どこかで会ったような既視感を覚えた。まるで記憶の断片が静かに心の底から浮かび上がって来るような気がした。「お隣、よろしいですか?」「はい、どうぞ」萌香が頷くと彼は紳士的な振る舞いで、椅子にゆっくりと腰掛けなおした。その二人の姿を見ていた翔平の目は嫉妬に激しく揺らめいた。彼は踵を返して萌香へと向かおうとしたが、女優に腕を掴まれ身動きが取れなかった。彼女の力強い手に阻まれ、翔平の心はさらに乱れた。「なんだ、離してくれ」「駄目よ、今日は私と一緒にいる約束でしょ?守らなかった、どうなると思う?」女優は翔平とのベッドシーン動画を世間に広めると、低く呟いた。彼は動きを止め、凍りついたようにその場に立ちすくんだ。一方、萌香と見知らぬ男は穏やかに話し続け、親しげな雰囲気が漂っていた。翔平の胸に焦りが広がり、心臓が激しく鼓動した。彼は女優の言葉の重さに耐えきれず、萌香の笑顔を見ながら、嫉妬と不安に苛まれた。どうすればこの状況を打破できるのか、頭をフル回転させながらも、足は動かなかった。そこでオークションが始まった。絵画や壺、掛け軸などのアンティークが次々と競り落とされてゆく。500万円、800万円、次々と手が挙がり、彼らがいかに恵まれた階層の人間かということを表していた。会場は熱気の坩堝と化し、皆、目を輝かせた。女優は、あれが欲しい。これが欲しい、と翔平の腕にしなだれかかった。けれど翔平の目はオークションの壇上ではなく、美しい萌香の横顔に釘付けになっていた。木槌の音が鳴り響いた。オークション会場が静まりかえり、誰もが壇上を凝視した。そこには深紅のビロードの布に隠された出品物が披露された。唾を飲む音が聞こえるような緊張感が走る。「それでは皆様、今夜最後の逸品をご覧下さい」朗々と読み上げるその声は微かに震えていた。ゆっくりとめくられる布の中から、ついにそれが現れた。会場からは感嘆の声が上がり、驚きで椅子から立ち上がる者もいた。萌香もまた同じだった。彼女は目を大きく見開き、指先が震えた。そこには深い海のような色をした懐中時計が輝いていた。表面には金色のイギリス王室の紋様が精巧に彫ら
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