All Chapters of 鏡花水月に咲く愛: Chapter 21 - Chapter 22

22 Chapters

第21話

綾乃はライブ配信中、過去に病院で受けた治療の記録やカルテを画面に映し出した。あまりにも生々しい証拠に、拓海は一気に世間の非難の的となった。新堂夫人は顔から血の気が引き、手の震えでタブレットすら持てなくなった。膝が崩れ落ち、机にしがみつかなければ立っていられなかった。「綾乃に電話を……早く!」「すでに連絡はしましたが、相手は出ません……」側にいた秘書も青ざめた顔で答える。新堂夫人の目の前が真っ暗になり、そのまま意識を失ってしまった――配信を切った綾乃は、スマホの向こう側に立つ夏織を見つめた。「これでいいの……?」夏織は小さく頷いた。「あとの報酬は口座に振り込むわ」そう言い残して、綾乃は一切の迷いもなくその場を後にした。実は、夏織が自分を訪ねてきたとき、綾乃自身も驚きを隠せなかった。てっきり責められるのだろうと思っていたのに、まさか拓海の本性を世間に暴露するために協力を求められるとは――しかも、その見返りとして、予想もしなかった額の報酬まで渡された。綾乃はしばらく考え込んだが、これ以上拓海についていっても暴力を振るわれるだけで、結局何も手に入らないだろうと悟った。ましてや新堂グループも今や傾きかけている。だったら、ここでしっかりと大金を手にして新しい人生を始めた方が賢明だ。銀行口座の残高を見つめ、綾乃は思わず口元を緩めた。このライブ配信が、間違いなく拓海と新堂家に大きな波紋を広げていくのは明らかだった。一方、夏織は階段を下り、街角で待つ湊のもとへ向かった。「新堂家の株がもう暴落し始めている」湊はそっと夏織の手を握りしめた。すべてが自分の思い通りになったはずなのに、夏織の心には微かな迷いが生まれる。「湊……私、残酷すぎると思う?」「そんなわけないさ」「自分を守れる力があること、僕はむしろ誇りに思う」湊は微笑みながら夏織の手を引き、歩き出す。「夏織、僕は君に、僕を支える蔓でいてほしいわけじゃない」「空を自由に翔る鷲でいてほしいんだ」その夜、ライブ配信の影響は一気に広がり、新堂家に関する悪いニュースが次々とネットを賑わせた。夏織の仕掛けも重なり、株価はついにストップ安寸前まで下落。さらに、五年前、拓海が治療前に躁状態で担当カウンセラーを植物人間にして
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第22話

「新堂真理子が亡くなったよ」湊がそう告げた時、夏織の指は一瞬だけキーボードの上でぴたりと止まった。「そう……」その声は静かだったが、頭の中には初めて新堂夫人と会った時のことが自然と蘇ってくる。あれほど威圧感のある女性、話す時でさえ決して頭を下げることはなかった。家の中のことも全て完璧に取り仕切っていた。同じ女性として、夏織はそのやり手ぶりに一目置いていた。「拓海が新堂家を継いだけど、夏織、どれくらいもつと思う?」夏織は顔を上げ、椅子の背にもたれる。「私は一週間だと思う。湊は?」「五日」湊は笑いながら、剥いたライチを夏織の前に差し出した。だが、二人の予想よりも早く、三日も経たないうちに新堂家は財政危機を宣言した。行き場を失った拓海は、助けを求めて夏織のもとを訪れた。しかし、夏織には会うことすらできず、警備員に追い返された。夏織はビルの上階から、落ちぶれた拓海の姿を見下ろしながら、静かに呟いた。「復讐は、これで終わりよ」最終的に、新堂家は破産を発表した。同じ日、湊は夏織にプロポーズをした。彼が用意したクルーズ船の上で、夜空いっぱいに花火が咲き誇る中、湊は光の中で膝をつき、指輪を差し出す。その目には涙が光っていた。「夏織、僕が人生で一番後悔しているのは、あの時君を一人で帰国させてしまったことだ」「そのせいで、五年も離れ離れになってしまった。でも、こうしてまた君のそばに戻ることができた」「夏織、一生君と一緒にいたい。空を自由に飛ぶ君の姿を、ずっと見ていたい」夏織は涙を溢れさせながら微笑み、何度もうなずく。親しい人々に見守られ、二人は抱き合い、キスを交わした。まるでおとぎ話のような、最高の結末だった。新堂家破産から六日後、夏織は再び拓海の名前を耳にすることになる。拓海が路上で綾乃を刺したのだ。大量出血で、綾乃は病院へ運ばれる途中で息を引き取った。拓海は刑務所行きを免れたが、その後は精神病院で一生を過ごすことになった。そこには、彼を慰める心理士もいない。ただ淡々と薬を与える医者がいるだけだった。そしてさらに二か月後、夏織と湊は盛大な結婚式を挙げた。精神病院のテレビを通して、その様子を拓海も見ていた。ウェディングドレス姿の夏織を画面越しに見つ
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