直人が斎場に駆けつけ、凪紗の父の名前を告げると、職員から奇妙な目で見られた。「坂井様、ご存知ないのですか?こちらの故人のご遺骨は、すでに引き取られましたが」直人は呆然とした。「何だと?」「ええ、数日前に、奥様が自ら引き取りに来られました。てっきり、奥様から連絡があったものとばかり。引取確認書にもサインされていましたよ、ほら」直人は引取確認書に書かれた署名を見た。確かに凪紗の筆跡だった。そしてその日付は、ちょうど凪紗が村田に連れ去られた、あの夜だった。彼は茫然自失で斎場を出た。今や、凪紗に会うための唯一の手がかりも断たれてしまった。直人は、凪紗と初めて出会った場所、凪紗がかつて住んでいた家、そして彼がプロポーズした場所まで訪ね歩いた。しかし、どこにも凪紗の姿はなかった。車にもたれかかり、煙草に火をつけた。煙が立ち上る中、直人はふと、この間に起こったすべてのことを思い出した。まるで凪紗の赤く腫れた目と、その目に溜まった涙が見えるようだった。この一瞬で、直人の心の中の罪悪感と後悔が、一気に爆発した。かつて、あの記事は自分の職業倫理に基づいて書いたものだと、凪紗に断言した。しかし、直人だけが知っていた。あの記事の内容はすべて、美咲の口から語られた「事実」だけを頼りに書かれたものだということを。彼は、自ら真実を確かめようとさえしなかった。当時の直人は、自分を救うために体を捨て、何年も見返りを求めずに自分の後を追ってきた美咲に対し、ただ申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。彼女に他のものを与えることはできないから、せめてキャリアで美咲の道を切り開いてやろうと思った。他人の噂話を聞かなかったわけではない。美咲が彼の新しいお気に入りになり、そのかわいがるぶりはかつて凪紗を追い求めた時以上だとまで言われていた。しかし、直人は全く気にしなかった。美咲に抱いているのはただの負い目であり、凪紗に対してこそ、溢れんばかりの愛情を抱いていたのだから。説明する必要はないと思っていた。自分がどれほど凪紗を愛しているか、自分だけがわかっていればいいと。しかし、そんな考えが、彼が最も愛する人を傷つけてしまったようだ。ぼんやりとしていると、直人の携帯が鳴った。秘書からの電話だった。「社長、調べが
Read more