和哉の視線は、目の前の写真の束へ移った。そこに写っているのは――すべて、自分。だが一枚としてカメラを見ているものはなく、背中だけの写真さえある。明らかに、風鈴がこっそり撮ったもの。服装や背景から察するに、それぞれの時期は異なっていた。ある写真では、テラスの手すりに寄りかかり、シャンパンを手に、伏し目がちに何かを考えている自分の姿。――何を考えていたのか。思い返そうとしても、記憶は曖昧だ。海外にいる凜のことを思っていたのか、それとも何も考えていなかったのか。ふと、あれが結婚披露宴の日だと気づく。望んだ結婚ではなかったあの日、彼は宴の場から逃げるようにテラスへ出ていた。その間、風鈴は一人で親族や客人の相手をしていた。帰宅後、疲れ果てたのか、彼女は部屋へ戻らずリビングのソファで眠っていた。――彼女は自分の居場所を知っていた。だが、引きずり出すことはせず、代わりにシャッターを切った。和哉は言いようのない感情を胸に、静かにその写真を見つめた。次に手にしたのは、食卓でスープを口にしている自分の姿。風鈴が初めて作った料理――鶏のスープ。懇願に負けて、しぶしぶ口にしたあの日。確かにあのときは、心底いやそうな態度を見せ、彼女を傷つけた。しかし写真の中の彼は、スープを口に運んだ瞬間、微かに口元が上がり、自然と楽しげな表情を浮かべていた。「和哉、これ……風鈴さんが撮ったの?」凜の声が思考を断ち切った。彼女は首をかしげ、微笑む。「すごい……こんなにかっこよく撮れるなんて」和哉は答えず、写真を手紙とともに封筒へ押し戻した。「さっきの紙……風鈴さんの手紙?」「……ああ」「なんて書いてあったの?」その問いに、胸の奥の鬱屈が一気に炎となる。凜が袖を引き、冗談めかして尋ねる。「まさか、悪口でも?」和哉は眉をひそめた。――いっそ罵られた方がよかった。あんな穏やかな言葉で区切りをつけられることこそ、許し難い。「……俺たちの幸せを願う、だと」凜はほっとしたように笑った。「やっぱり。私が言ったこと、覚えてたんだわ。優しい人」和哉は否定した。「この世に善人ばかりじゃない」とくに――風鈴は。「私はそうは思わない。あなたも風鈴さんも、いい人」凜は腕
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