隼翔は直哉を突き飛ばし大股で外へ飛び出すと、賢吾の手から車の鍵を乱暴に奪い取った。「航空券を取れ。黎明自由国へ行く」一刻の猶予すら惜しい。たとえ黎明自由国の隅々までひっくり返すことになろうとも、必ず美玲を見つけ出してみせる――!――星野家・美玲の寝室。直哉は床から跳ね起き、瑛斗の手を掴んで叫ぶ。「瑛斗!美玲は黎明自由国のどこの都市に行ったんだ!?早く言えよ!」幼い頃から美玲は何かあるたび必ず瑛斗に打ち明けていた。しかし今回だけは瑛斗は固く口を閉ざし両手で顔を覆うだけだった。初めて美玲と出会ったその日から、瑛斗は心に誓っていた。――この小さくか弱い妹を、必ず守り抜くと。両親が商売に忙しかった幼少期、三人の弟妹の世話を引き受けてきたのは瑛斗だった。その中で、美玲だけは瑛斗の首に小さな腕を回し、飴を剥いて口に押し込み、「瑛斗、お疲れさま」と笑ってくれた。やがて美玲が成長すると、着る服の一枚一枚まで瑛斗が用意した。どこへ出かけるときも、必ず一声かけてからだった。それが今回に限って――何も言わずに姿を消したのだ。「瑛斗!答えてくれ!」颯真も思わず声を荒げる。五歳の頃、夢中で遊んでいた颯真は誤って川に落ちた。そのとき美玲は一瞬の迷いもなく飛び込んだが、小さな体では到底引き上げられるはずもなく、むしろ颯真の重さに引きずられながらも決してその手を離さなかった。救助が間に合わなければ、美玲はあの日永遠に五歳のままだっただろう。その出来事を境に、美玲の体には長く尾を引く不調が残った。颯真はその代償を背負い、必ず医術を学び美玲を守り続けると誓ったのだ。――だが、瑠花が戻ってきてからは違った。彼女も病弱で、たびたび倒れていた。颯真は思った。「少しの間だけ、瑠花を看ればいい。美玲はずっと星野家で過ごしてきたのだから、きっと分かってくれる」と。しかし美玲は、ずっと傷ついていたのだ。そして――本当にいなくなってしまった。颯真の「少しの間」は、知らぬ間に美玲への心配りをすべて奪っていた。長年その体を見守ってきたはずなのに、美玲が妊娠していたことすら気づけなかった。救い出された後の美玲の仕草や表情が、颯真の脳裏に鮮やかに甦る。甘やかされて育ったはずなのに、必死に痛みに耐える姿――あの不自然な行動は、極限の
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