婚姻届を出すその日、小野寺英二(おのてら えいじ)は約束を破った。役所の前で一日中待ちぼうけを食らった長澤若菜(ながさわ わかな)に送られてきたのは、彼の秘書・皆川友香(みなかわ ともか)からの写真だった。写真の中では、若い秘書が英二の上にまたがり、首に腕を回し、夢中でキスを交わしている。【ごめんなさい、若菜さん。英二さんがどうしても、傷ついた私の心を慰めたいってね。気にしませんよね?】英二を問い詰めると、返ってきたのは苛立ちに満ちた言葉。「友香は俺のために献血してくれたんだ。一度付き添ってやったくらいで、何だって言うんだ?なんでそんなに器が小さいんだ?」もう失望した私は、向き直り、英二の兄・小野寺賢一(おのてら けんいち)に電話をかけた。「ねえ、まだ私と結婚する気はあるの?」電話の向こうで、賢一は少し黙ってから、ゆっくりと口を開く。「本気か?」「もちろん」私の声には迷いがない。「ただ、まだ私と結婚する気があるかどうか……」「今、海外にいるんだ。一ヶ月……いや、半月だけ時間をくれ。帰国したらすぐに結婚しよう」「ええ、待ってるわ」電話を切った後、スマホに送られてきた写真に目を落とし、静かに画面を消した。五年の恋も、結局は新鮮さには敵わなかった。……英二が帰宅したのは、もう真夜中。私は彼に近づかず、ただ黙々と自分の荷物をまとめている。残された時間は半月だけでも、彼とこれ以上無駄な時間を過ごしたくない。「水を持ってこい。それからパジャマもだ」英二の口調は、どこまでも偉そうで、私に一瞥もくれなかった。いつも私を使用人のように扱う。そしてパジャマを持ってこさせるのは、彼なりのご褒美だ。今夜は私と同じ部屋で寝てもいい、という意味だから。以前の私なら、期待していたかもしれない。でも今の私の心は、何の波も立たず、ただ自分の身の回りのものや服を黙々と片付けている。しばらくして、英二がバスルームのドアを開け、私が無反応なことに気づくと、眉をひそめ、少し不満げな声を出す。「まだ行ってないのか?聞こえなかったのか?」「しばらく実家に帰るわ」私は静かにスーツケースのジッパーを閉める。彼の兄と結婚することは、まだ伝えていない。手元にあるスーツケースを見て、英二は何
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