Todos los capítulos de トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~: Capítulo 11 - Capítulo 20

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僕に天使が舞い降りた日 PAGE7

「先輩……? もしかして、会長のことを」「…………うん、好きだよ。でも不倫なんかじゃないから。あたしの一方通行だし、奥さまもご存じだから」 先輩が、ご主人である源一会長に片想いをしていることを、だろう。でも、源一氏はご家族のことをそれはもう大事にする方だったので、残念ながら先輩の想いが彼に伝わることはなかった。「自分でも不毛な恋だって分かってる。けど別にいいでしょ、あたしが勝手に想ってる分には! 誰にも迷惑かけないし、かけたくないし」「いや、別にいけないって言ってるわけじゃ……」 半ギレで返された僕はたじろいだ。どうして僕の周りには、こういう強い女性ばかりが寄ってくるんだろうか。ちなみに絢乃さんもそうだと分かるのはだいぶ先のことだが、それはさておき。「っていうか、なんで桐島くんもあっち見つめてるわけ?」「え……?」 実は絢乃さんのことを見つめていたのだと、先輩にバレてしまった。「ははーん? さてはおぬし、絢乃さんに気があるな?」「……………………」 〝おぬし〟って、アナタは一体いつの時代の人ですか? これは明らかにからかわれているのだと分かっていたので、あえて口に出してはツッコまなかったが。「その顔は図星ね? まぁ、気持ちは分かんなくもないかな。絢乃さんって純粋だし。清らかっていうか、天使みたいな女の子だもん。あたしとか日比野さんとは大違い」「先輩……、それ俺にとっては地雷ですから」 僕は小川先輩に釘を刺した。ちなみに、僕と日比野との一件は秘書室でもかなり有名だったらしい。「分かってるってば。もう忘れなよ、あんなコのことなんか。気にするってことは、まだ引きずってるからなんじゃないの?」「そ……、そんなことないですよ」 またもや地雷を踏まれた。否定はしたが、完全な否定になっていたかどうかは怪しい。「まぁ、それはともかく。あたしも会長がいらっしゃる手前、大きな声では言えないんだけど。桐島くんと絢乃さん、けっこうお似合いなんじゃないかなーって思ってる」「そうですかね? 俺と彼女じゃ八歳くらい年の差ありますよ? っていうか彼女まだ未成年じゃないですか」 A型という血液型ゆえか、周囲から「真面目だ」と認識されている僕はついつい気にしてしまうのだった。 実際、年の差カップルとか二十代の彼氏がいる十代の女の子なんて、世の中にごまんといる
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僕に天使が舞い降りた日 PAGE8

「というか、選ぶのは俺じゃなくて絢乃さんですから」「まぁ、そうなんだけどねー。期待くらいはしてもいいんじゃないの? 可能性がゼロじゃない以上は」「…………俺、女性に期待するのはもうやめたんですよ。また裏切られるのはイヤなんで」 柄にもなく、先輩にまで食ってかかってしまったが、悲しいかなそれが本音だった。 それに、絢乃さんクラスの女性になら言い寄ってくる男も大勢いるだろう。それこそ僕みたいにごく平凡なサリーマンなんかじゃなく、青年実業家とか、どこかの御曹司とか。……とか考えていたら、その御曹司を選んで寿退社した誰かさんを思い出してムカムカした。   * * * * ――会場に異変が起きたのは、そのすぐ後のことだった。 源一会長が突然立ち上がれなくなり、絢乃さんと加奈子さんが必死に呼びかけている声が僕の耳にも届き、これは一大事だと察した。 会長がご病気かもしれないというウワサはすでに社内でも広まっていたが、それはかなり悪化していたらしい。どうしてこうなってしまう前に、誰も気づいて差し上げなかったのだろう。 本当は僕も駆け寄って絢乃さんに何かして差し上げたかったが、まだお互いに目礼を交わしただけの僕が出しゃばるのは差し出がましいと思い、遠慮した。 でも会長秘書の小川先輩なら、こういう時は真っ先に駆け寄って行くはずだ。そう思ったのだが、先輩はその場から動こうとしなかった。「……先輩、行かなくていいんですか? 会長が――」「分かってるよ。でも、……あたしが言ったところで何もできないし」 悲しそうに弁解する彼女を見て、僕も理解した。先輩もまた、あの親子に気を遣っているのだと。 加奈子夫人は彼女の気持ちをご存じかもしれないが、絢乃さんはどうか。高校生ということはまだ思春期で多感な時期だ。たとえ不倫関係ではなくても、自分の父親に叶わない恋心を抱いている女性がいるということを、彼女はどう捉えるのか。――それを先輩は気にしていたのだ。 そうこうしている間に加奈子さんが迎えの車を呼び、会長は加奈子さんと、会場に現れた運転手と思しきロマンスグレーの男性に体を支えられて会場から退出していった。 そのまま会場に残った絢乃さんは、困惑する招待客への対応に追われて大変そうだった。父親が倒れて、彼女自身も相当ショックを受けていたはずなのに、それでも気丈に対応していた
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僕に天使が舞い降りた日 PAGE9

 ――ところが、彼女もまたテーブル席へ戻る途中で軽い目眩を起こしてしまい、倒れかけた。やっぱり父親が倒れたショックは大きかったようだ。「――絢乃さん、大丈夫ですか!?」 この時、僕の体は迅速に動いた。決して計算ずくなんかじゃなく、気がついたら勝手に動いていたのだ。彼女が倒れる寸前で、どうにか駆け寄って支えることができた。 僕と目が合った絢乃さんは、その刹那に自分を助けたのが、先刻目礼を交わした相手だと気がついたようだ。 彼女はお礼の一言と、「ちょっとクラッときただけだから大丈夫」と僕を安心させるように言った。 僕は彼女に少し休んだ方がいいと提案し、元いたというテーブル席へとお連れした。何か召し上がったか訊ねると、お父さまが倒れられる前にいっぱい食べた、という答え。 もしかしたらストレスによって、一時的な低血糖を起こしているかもしれない。もし違っていたとしても、甘いものを食べれば気持ちは落ち着かれるんじゃないだろうかと僕は考えた。……というか、僕もデザートがほしくなっただけなのだが。 というわけで、僕は絢乃さんのために(ついでに自分の分も)スイーツと飲み物をもらってくることにした。「申し訳ない」と言う彼女に気を遣わせないよう、「自分も食べたかっただけだから」と付け加えることも忘れずに言い、彼女を席に残して一人ビュッフェコーナーへ向かった。「……あ、しまった。まだ絢乃さんに名乗ってなかったな」 二人分のデザートとドリンクを選ぶ間(彼女は「オレンジジュースがいい」と言っていた)、僕は独りごちた。僕の言動を、彼女に怪しまれただろうか? ……というか。「俺がスイーツ男子だってこと、絢乃さんにバレたかもしんない」 大のオトナの男が甘いもの好きなんて、ダサいと思われたかもしれない。……と僕はひとりで勝手に落ち込んでいた。 とはいえ、落ち込んでいても始まらない。もしかしたら、かえって彼女に好印象を持たれたかもしれないじゃないか! と気持ちを切り替え、二枚のデザート皿に小ぶりにカットされたケーキを四種類ずつ取り分け、彼女のオレンジジュースと僕が飲むアイスコーヒーのグラスを皿と一緒に借りたトレーに載せて、僕は彼女の待つテーブル席へと戻ったのだった。
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決意 PAGE1

 ――絢乃さんの元へ戻る途中、小川先輩に声をかけられた。「桐島くん、あたしもう帰るね。あなたはどうするの?」「俺、加奈子さんから頼まれたんですよ。絢乃さんをお宅まで送ってきてほしいって。なんで残ります。……絢乃さんもさっき目眩起こされたみたいで、ちょっと心配なんで」「そっか。――で、そのトレーはそれと何の関係が?」 先輩から指摘された僕はハッとした。トレーに載った二人分のスイーツとドリンク、これをどう言い訳しよう?「これは……、えーっと。絢乃さんに召し上がってもらおうかと思って。俺もついでにご相伴にあずかろうかなー、なんて。アハハ……」「……………………ふーん。まぁいいんじゃない? 絢乃さんにダサいって思われなきゃいいけど」「…………はい」 先輩は白けたような視線を僕に投げてよこした後、興味を失ったようにコメントした。彼女は昔から僕がスイーツ男子だということをよく知っているので、こうして僕のことをよくいじってくるのだ。僕ももう慣れた。「とにかく、あたしは帰るわ。絢乃さんによろしく」「はい。お疲れさまでした」 ――そうしてテーブルまで戻ると、絢乃さんはスマホでメッセージアプリの画面を見ながら眉をひそめていた。お父さまの様子が心配で仕方なかったのだろう。「――お待たせしました! 絢乃さん、どうぞ」 ケーキの皿と飲み物のグラスをテーブルに置くと、僕はお礼を言って受け取った絢乃さんから名前を訊ねられた。どうやら彼女の方も、僕に名前を訊きそびれていたことを気にされていたようだ。「ああ、そうでしたね。申し遅れました。僕は篠沢商事総務課の社員で、桐島貢と申します。今日は課長の代理として出席させて頂いてます」 僕はアイスコーヒーを一口飲むと、彼女に自己紹介をした。所属部署や、課長の代理だったことまで言う必要はあっただろうか? というのは頭をもたげるポイントだが。「桐島さんっていうんだ。代理だったんだね。そんなの、イヤなら断ればよかったのに」 心優しい絢乃さんは、その「言う必要のなかった情報」から僕のことを気遣って下さった。 そんな彼女に、僕は事情を話した。他に引き受けてくれる人もいなかったので、課長の強引さに押し負けて引き受けざるを得なかった、と。「桐島さん、それってパワハラって言わない?」「そう……なりますよねぇ」
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決意 PAGE2

「……あっ、別に逆玉に乗れそうだからってあなたに近づいたわけじゃありませんからね!? 本当に打算なんて一ミリもありませんから!」 慌ててそこを強調すると、絢乃さんは「あなたがそんな人じゃないことは見ただけで分かる」と言って、声を出して笑ってくれた。「そんなに必死に否定しなくても」とも言われたが、自分ではそんなにムキになっていたつもりはなかったんだけどな……。 そして彼女は僕に、自分の名前を知っているのは加奈子さんから聞いたからかと訊ねた。僕がそのことを認め、彼女が高校二年生だということも聞いたと答えると、うんうんと頷いていた。どうやら、やっぱり彼女は僕がお母さまと話しているところを見かけていたらしい。「……美味しい。甘いもの食べるとホッとするなぁ」 疑問が解決したらしい絢乃さんは美味しそうにケーキを食べ始め、顔を綻ばせる彼女を見ていると、その可愛さに僕の心もほっこりした。 絢乃さんは感情表現が豊かな女性のようで、思っていることがすぐ表情にあらわれるところも可愛いなと思ったし、今でも思っている。「本当ですねぇ」 僕もフォークが進み、そのまままったりとした空気が流れそうだった。が、絢乃さんにとってはお父さまが倒れられたすぐ後なのだ。心の癒やしにはなったかもしれないが、いつまでも二人で和んでいる場合じゃなかった。「……そういえば、お父さまは大丈夫なんでしょうか」 この穏やかな空気をブチ壊すのは申し訳ないと思いつつも、僕は現実的な問題を口にした。何より、絢乃さんご自身が気になっていることだと思ったからだ。「うん、気になるよね。さっき、わたしからママにメッセージ送ってみたんだけど、まだ返信がないの」 彼女は心配そうに眉尻を下げ、そう答えた。ケーキの甘さにも、彼女の心配を取り除く効果まではなかったようだ。 そして、テーブルに戻った時に彼女がメッセージアプリの画面を見ながら顔を曇らせていたのはそのせいだったのかと僕は理解した。「そうですか……。実は社内でも以前からウワサされてたんです。『会長、最近かなり痩せられたなぁ』と。社員みんなが心配していたんですが、まさかここまでお悪かったとは」 僕は会場で小川先輩と話していたことを、絢乃さんにも伝えた。その時も絢乃さんはショックを受けているようだったが、僕はそんな彼女に、もっと残酷なことを告げなければならなか
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決意 PAGE3

「あの……ですね、絢乃さん。非常に申し上げにくいんですが」「はい?」 彼女は表情を固くしたまま首を傾げた。でも頭のいい人だから、僕が何を言おうとしているか察してはいたのかもしれない。「お父さまはもしかしたら、命に関わる病気をお持ちかもしれません。ですからこの際、大病院で精密検査を受けられることをお勧めしたいんですが」 この宣告を聞いた時、絢乃さんは一瞬泣きそうな顔をしたが、僕にひとかけらの悪意もなく、お父さまを気遣って言ったことなのだと分ってもらえたようだ。すぐに気を取り直し、フォークを持ったまま眉根にシワを寄せた。「そうだよね。わたしもそう思う。でもね……、パパって病院嫌いなんだぁ。だからちゃんと聞いてもらえるかどうか」 そうだろうな、そうなるよなぁと僕は思った。加奈子さんもおっしゃっていたからだ。「ウチの夫は病院に行きたがらない。だからといって、犬じゃあるまいし、リードをつけて無理矢理引っぱって行くわけにもいかない」と。 絢乃さんから病院での受診を勧められたとて、ヘソを曲げられて彼女が災難を被る可能性がゼロだとは言い切れなかった。もしかしたら、言い出しっぺの僕にも火の粉が降りかかるかもしれない。「でも、そんなこと言ってられないよね。ママにも協力してもらって、どうにかパパを説得してみる。桐島さん、アドバイスしてくれてありがとう」 彼女はそんな僕の心配も読み取ったのか、お父さまの説得を頑張ってみると言って下さった。「いえ、そんな感謝されるようなことは何も……」 僕のこの言葉は決して謙遜なんかじゃなかった。僕たち社員一人一人に家族のように温かく接して下さるボスの体調を心配するのは、ごく当たり前のことだと思っていたからだ。 それに柄にもなく、想いを寄せる絢乃さんにいいところを見せたいという僕の欲というか、浅ましさもあったように思う。
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決意 PAGE4

 ――それから三十分ほど、僕と絢乃さんは美味しいケーキを食べながら他愛ない話をしていた。「――ねぇ、桐島さん。こういう個人的なパーティーを会社の経費でやるのってムダだと思わない?」 お父さまのお誕生日祝いだというのに、絢乃さんの感想は率直で辛口だった。「どう……なんですかね? 僕はそんなこと、気にしたことありませんでしたけど」 僕も素直に答えた。社会人になってから毎年、ずっと当たり前のように行われてきたので、僕も何となく「そういうものなのか」と当然のことのように受け入れていたのだが、当たり前ではなかったのだろうか?「このお祝いの会ってね、元々は有志の人たちがお金を出し合ってやってたらしいの。それがいつの間にかこんなに大げさなことになっちゃって、しまいには貴方みたいなパワハラの被害者まで出ちゃう事態になっちゃってるんだよね」「へぇ……、そうなんですか。知りませんでした」 実は本当に初耳だった。有志のメンバーだけで始めたお祝いの会がここまで大規模なものになるくらい、源一会長は人望に厚い人だったということだろう。役員になる前も営業部のエースと言われていたらしいし(これは小川先輩からの情報だ)。「だからね、わたしが将来会長になった時は、思い切って廃止しちゃおうかなぁって思ってるの」「……そうなんですか?」「うん。わたし、大勢の人から大げさに誕生日祝ってもらうの、あんまり好きじゃないから。『おめでとう』の一言だけ言ってもらえれば十分。プレゼントは……まぁ、もらえるものなら嬉しいかな」「なるほど……」 この時の僕は、その方がいいだろうなと思う程度だった。まさか、それがあんなにすぐ現実になるとは思ってもみなかったからだ。「……桐島さん、ケーキ美味しそうに食べるねー。わたし、スイーツ好きの男の人って好きだよ」「…………えっ? そ、そうですか?」 絢乃さんから天使の微笑みでそう言われた僕は、思わずドギマギした。「うん。なんか親しみ持てる。お酒ガバガバ飲む人よりずっといいよ」「はぁ、それはどうも……」 僕はどうリアクションしていいか困った。これは褒められているのだろうし、絢乃さんが好意的に僕を見て下さっていることは分らなかったわけじゃない。 でも、日比野のことがあったせいか、つい勘ぐってしまうようになっていたのだ。女性が何気なく言った言葉の裏に、
last updateÚltima actualización : 2025-08-26
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決意 PAGE5

 ――と、そうこうしている間に時刻は夜八時半。絢乃さんのスマホにメッセージの受信があった。テーブルの上にカバーを開いた状態で置かれていたので、僕もチラリと画面を覗き込むと、どうやら加奈子さんに送ったメッセージの返信らしいと分ったのだが……。〈絢乃、返信が遅くなっちゃってごめんなさい! パパは寝室で休ませてます。 あなたのタイミングでいいから、閉会の挨拶よろしく。招待客のみなさんにちゃんとお詫びしておいてね〉 という最初のメッセージだけは読み取れた。が、二つ目のメッセージが届いた途端、絢乃さんは「えっ!?」という声を上げて慌ててスマホを持ち上げ、僕の目に入らないようにしてしまった。画面を二度見していたが、何か僕に読まれるとマズいことでも書かれていたのだろうか?「絢乃さん、どうかされました?」「ううん、別にっ!」 僕が首を傾げて訊ねると、彼女は思いっきりブンブンと首を横に振ってごまかした。短く返信した後ですぐにスマホはクラッチバッグの中にしまわれてしまったので(これはダジャレではない)、その時は絢乃さんの慌てた理由を知ることができなかったが、彼女の首元まで真っ赤に染まっていたのは何か関係があるのだろうか。 絢乃さんは「そろそろお母さまからの任務を果たしてくる」と言って席を立った。パーティーの閉会の挨拶を頼まれていたのだ。本当は九時ごろ終了の予定だったのだが、主役である源一会長が不在になったので閉会時刻を早める決断をしたのだろう。「――桐島さん。わたしはそろそろ、ママからのミッションを果たしてくるね」「はい、行ってらっしゃい。オレンジジュースのお代わりを用意して待っています」 絢乃さんのグラスは空っぽになっていたので、挨拶を終えて喉がカラカラになって戻るであろう彼女のために僕は再びドリンクバーへ行っておくことにした。「ありがとう」 彼女はステージの壇上で篠沢家の次期当主、そしてグループの跡継ぎらしく堂々と挨拶をして、やりきったという表情でテーブルへ戻ってきた。ように僕には見えた。「絢乃さん、お疲れさまでした。喉渇いたでしょう」「うん。ありがとう」 オレンジジュースのお代わりを美味しそうに飲む彼女を見ながら、僕もそろそろ加奈子さんからのミッションを果たさねばと思った。「……ママからの返信に書いてあったんだけど、帰りは貴方が送
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決意 PAGE6

「はい。お母さまから直々に頼まれました。まさかこういう事態になるとは思っていらっしゃらなかったでしょうけど」「そうだよね……」 源一会長が倒れられたのは、加奈子さんにとっても想定外の事態だったはずだ。彼女はただ、可愛い一人娘である絢乃さんと僕の間に接点を持たせたかっただけなのだから。「そういえば桐島さん、お酒飲んでなかったもんね。それもこのため?」 絢乃さんは、僕がパーティーの間にアルコール類を口にしていなかったことをそう解釈した。実際はそれほどアルコールに強くないのだが、マイカー通勤をしていることも事実なのでこう答えた。「ええまぁ、そんなところです。僕、アルコールに弱くて。少しくらいなら飲めるんですけど」「そっか。わざわざ気を遣ってくれてありがとう。じゃあご厚意に甘えさせてもらおうかな」 彼女は僕に家まで送ってもらえることが嬉しそうだった。だがひとつ、僕には心配なことがあった。彼女に乗ってもらうクルマがそこそこボロい中古の軽だったということだ。 父は国産メーカーながらセダンに乗っているので、そっちを借りてきた方が格好もついたかなぁ。そろそろ車検にも引っかかりそうだし、僕もセダンに買い換えようかな。……そう思ったのもその頃だったと記憶している。「はい。……僕のクルマ、軽自動車なんですけどよろしいですか?」「うん、大丈夫。よろしくお願いします」 彼女の返事を聞いて、僕はホッとした。軽に乗っている男を見下す女性も多い中、絢乃さんは違うのだと分って嬉しかったのだ。 でも、今度買うクルマは絶対にセダンの新車にしようという決意は揺るがなかった。 僕はそこで、パーティーのために戻ってきた時、自分のビジネスバッグをロッカーに置いてきたことを思い出した。ロッカーは鍵がかけられるし、どうせ財布に大した金額は入っていなかったので盗られる心配もなかったのだ。「では、少しこちらで待っていて頂けますか? ロッカールームからカバンを取ってきますので」「分かった」 テーブル席で美味しそうにジュースを飲み干す絢乃さんをその場に残し、僕はエレベーターで総務課のロッカールームがある三十階へと上がっていった。
last updateÚltima actualización : 2025-08-26
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決意 PAGE7

「――絢乃さん、これが僕のクルマです。さ、どうぞお乗り下さい」 僕はリモコンキーでドアロックを解除すると、彼女のために後部座席のドアを開けた。「ありがとう、桐島さん。でも……助手席でもいいかなぁ?」 彼女はそう言いながら、助手席のドアに手をかけた。「えっ、助手席……ですか?」「うん。ダメ、かな? お願い」 その懇願するような眼差しがこれまた可愛くて、僕のハートはまた射抜かれてしまった。「いえ、あの……。いいですよ、絢乃さんがどうしてもとおっしゃるなら」「やったぁ♪ ありがとう!」 子供みたいに諸手をあげて無邪気に喜ぶ絢乃さん。こんな何でもない仕草まで破壊級に可愛すぎるなんて反則だ。これにやられない男はいないだろう。彼女はある意味、小悪魔ちゃんかもしれない。「では、助手席へどうぞ。ちょっと狭いかもしれませんけど」 「うん。じゃあ失礼しまーす」 彼女はクラッチバッグを傍らに置き、お行儀よくシートに収まるとキチンとシートベルトを締めた。 初めて出会った日に、狭い車内で至近距離に想いを寄せる女性がいるというこのシチュエーションは、男にとってちょっとした拷問だ。オプションとしていい香りがしていればなおさら。「――絢乃さん、何だかいい香りがしますね。何の香りですか?」「ん、これ? わたしのお気に入りのコロンなの。柑橘系の爽やかな香りでしょ? 今のご時世、香りがキツいとスメハラだ何だってうるさいからね」「そうですね」 スメハラ=スメルハラスメントの略。つまり、香りによる嫌がらせということだが、今の時代は柔軟剤の香りが強いだけで嫌がらせと言われてしまうのだ。イヤな時代になったものである。 僕も職場でハラスメント被害に遭っているだけに、この言葉にはちょっとばかり敏感なのだ。「セクシー系の香りって、あまり強いと相手に悪い印象を与えちゃうでしょ? だからわたしも香りには気を遣ってるの。元々シトラス系の香りは好きだったし」「なるほど。確かに、こういう爽やかな香りなら品があっていいですよね。僕も好きです」 逆に、どキツいセクシー系の香水は清楚な絢乃さんに似合わない気がする。お嬢さまだから、というわけでもないだろうが。「――ところで、このクルマってお家の人から借りてるの? それともレンタカー?」 無邪気に問うてきた
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