拷問の末に命を落としたあと、私、橋本美知(はしもと みち)の魂は兄の家へと戻ってきた。三年が過ぎても、ここは記憶の中と何ひとつ変わらない。私は一つひとつの部屋を歩き回り、兄の痕跡を探そうとした。そのとき、兄と橋本奈々(はしもと なな)が帰ってきた。「奈々、少し休んでいて。大好物の唐揚げを作ってあげる」兄は甘やかすように奈々を寝室へ送り届けると、台所へと向かった。その光景を目にした私は、胸の奥がひりつくように痛んだ。昔は、兄も私にこんなふうに優しかった。けれど母が亡くなってから、すべてが変わってしまった。兄は「母さんを殺したのはお前だ。こんな不吉な妹はいらない」と言った。私は必死に訴えた。母は奈々のためにケーキを買いに行ったのだと。だが兄は聞き入れなかった。薬物密売人の車にはねられたとき、母の腕に抱えられていたのはマンゴーケーキ。そして奈々はマンゴーアレルギー。そのせいで、兄は私を憎み、家から追い出した。そればかりか、母の命日には毎年一週間、七日七晩土下座して罪を償えと命じた。あの密売人たちが墓地に現れたのは、ちょうど母の命日の初日だった。そして今、不意に兄のスマホが鳴った。「栄太(えいた)、至急警察署へ!」兄が警察署に着いたのは、すでに夜だった。「また事件か?」兄は横に立つ刑事課の山下(やました)警部を見やった。「自分で確かめろ」山下警部の顔は険しい。兄は解剖台の上に置かれた黒いビニール袋を開いた。血と腐敗臭が混じった匂いが一気に広がり、思わず眉をひそめる。中にあったのは、暗赤色の肉片と砕けた骨のかけら。兄の顔色が一瞬で蒼白になり、袋に触れる手が震え出した。「これは……まるで獣の仕業だ」彼の声は低く、哀しみに満ちていた。兄は手袋をはめ、袋から一つひとつの肉片と骨片を取り出した。「なんて残酷な……」兄の目は赤く充血し、怒りに震えていた。その姿に、私はふと三年前を思い出した。あの時、兄も同じように目を真っ赤にして怒っていた。家の玄関先で、私が必死に泣きながら追い出さないでと懇願したからだ。思わず口元に苦い笑みが浮かんだ。兄は肉片と骨を慎重に並べ、繋ぎ合わせていく。二十時間ものあいだ、一瞬たりとも休まずに。そしてようやく、私の
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