100回目となる婚約披露宴。それだというのに、神崎湊(かんざき みなと)はまたしても、迷うことなく私を置き去りにした。交際して七年。これまでの99回の婚約でも、彼は「幼馴染がまだ結婚していないから、約束を破るわけにはいかない」と言い続けてきた。私は手の中にある指輪を握りしめ、初めて彼に問いかけた。「じゃあ、白川琴音(しらかわ ことね)が一生結婚しなかったら、あなたも一生彼女に付き添うつもりなの?私はどうなるの?私のことは何だと思っているの?」湊は瞬く間に顔色を曇らせ、私の手から指輪をひったくると、窓の外へと投げ捨てた。「琴音とは子供の頃から、一緒に結婚しようって約束してたんだ。彼女を一人残していくなんてできるわけないだろ!それに、一ノ瀬雫(いちのせ しずく)。お前は紙切れ一枚にそこまでこだわるのか?俺たち、七年も一緒にいるんだ。その紙があろうがなかろうが、同じことじゃないか」……私は式場の中央に立ち尽くしていた。手はまだ、湊に指輪を嵌めようとした姿勢のまま固まっている。けれど、私の指先にあったはずの指輪は、すでに湊によって窓の外へ投げ捨てられていた。結婚というものを全く意に介さない湊の言葉が、私の心に深く突き刺さる。まるで頭から氷水を浴びせられたかのような、骨まで凍みる寒さを感じていた。もっとも、こんな光景はすでに99回も経験してきたことだ。23歳から30歳まで、私は湊と七年間恋人関係にあり、99回の婚約披露宴を行ってきた。そして今日が、記念すべき100回目だった。これまでの99回、彼はいつも「幼馴染の琴音がまだ結婚していないから」という理由で私を拒んできた。そして琴音もまた、毎回示し合わせたかのようなタイミングで電話をかけてくるのだ。「苦しい、湊くんがそばにいないとダメなの」と。案の定、湊のスマートフォンが再び鳴り響いた。画面に「琴音」の名前が表示された瞬間、湊は迷わず通話ボタンを押した。電話の向こうから聞こえる琴音のすすり泣く声が、会場中の人々の耳にはっきりと届いてしまう。「湊くん……また発作が出ちゃったの。早く来て、そばにいてよぉ。湊くんがいないと治らないの……」琴音の猫なで声を耳にした瞬間、私は吐き気をもよおした。私と湊が付き合い始めてからというもの、琴音は「分離不安症」
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