ふたりは手を取り合って披露宴会場に入った。ライトが二人を照らし、律人の祖母は慈しみに満ちた笑顔を浮かべ、客たちは拍手で祝福を送った。その瞬間、優奈は少しだけぼんやりした。まるで本当に結婚しているような、不思議な感覚に包まれたのだ。指輪の交換をしようとしたとき、突然「ドンッ」と大きな音を立てて扉が開いた。圭吾が飛び込んできて、司会者の手から指輪を叩き落とし、大声で叫んだ。「ダメだ!君は彼と結婚しちゃいけない!」彼は優奈の手を掴み、必死に懇願する。「俺こそが君の彼氏なんだ!俺は確かに間違えた。でも人間は誰だって過ちを犯すだろ?お願い、捨てないでくれ……もう一度だけチャンスをくれ!」律人の表情が一気に険しくなり、目を細めて圭吾を睨む。今にも拳を振り上げようとしたとき、優奈が彼の腕を止め、前へ出た。優奈は笑って言った。「中村さん、今日は私の結婚式だよ。いきなり飛び込んできて、そんなことを言うなんて、あまりにも非常識じゃない?あなたが私の彼氏だって言うなら、証拠はある?一緒に撮った写真とか。あなたの友達や家族は、私が彼女だって知ってる?」圭吾は凍りついたように言葉を失った。「口だけじゃ信じられない。もし一つでも証拠を出せるなら、私は結婚をやめて、あなたについて行く」三年間一緒にいたのに、彼には優奈との写真が一枚もなかった。最初はただ遊びのつもりで、彼女は自分と並ぶに値しないと見下していた。そのうち怖くなった。もし写真が出回ったら、友人たちに正体がばれる。嘘が全部崩れる。だからいつも言い訳して逃げた。「借金取りに見つかったら君に迷惑がかかるから」その方便で乗り切ってきた。誤魔化し続けて満足していた自分が、今や完全に追い詰められていた。「どうしたの?証拠は出せない?」優奈は微笑んでいたが、瞳には哀しみが滲んでいた。「もし本当に恋人同士なら、どうして一枚の写真すらないの?そんなの、恋人って言える?」圭吾は数歩よろめき、ついに床に崩れ落ちた。絶望だった。顔は死人のように青ざめ、声も出ない。優奈は床に落ちていた指輪を拾い、司会者に手渡した。「警備の方、この騒ぎを起こした中村さんを外にお願いします。式を続けましょう」律人は呆然と彼女を見つめたが、優奈がこちらを振り返った瞬間、そっと視線を落とした。彼女に、目の奥にある痛み
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