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朝も夜も、もうあなたはいない

朝も夜も、もうあなたはいない

By:  金稼Completed
Language: Japanese
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三年前、中村圭吾(なかむら けいご)は刃物を持った男に襲われそうになっていた森下優奈(もりした ゆうな)を助けた。 その出来事がきっかけで、二人の縁は始まった。 この三年間、彼は彼女に深い愛情を注ぎ、家族を失った悲しみの時期を支え続けた。 だが三年後、莫大な借金を抱えた圭吾を残し、優奈は彼の敵である西川律人(にしかわ りつと)と結婚の手続きをした。 半月ほど前に知ってしまったのだ。 恋人の破産は芝居であり、自分は彼にとって、大切な初恋相手の代わりにすぎないことを。 その初恋相手が再び現れて挑発してきても、彼が嘘を重ね、その女ばかりかばい続けても、優奈の心にはもう静けさしかなかった。 もうどうでもよかった。三日後には律人と結婚式を挙げる。式が終われば、圭吾と顔を合わせることは永遠にない。

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Chapter 1

第1話

新春を迎える前日、森下優奈(もりした ゆうな)は恋人の敵と共に市役所に行った。

西川律人(にしかわ りつと)は彼女をからかうように見つめながら言った。「よく考えろよ。俺と婚姻届を出したら、圭吾とはもう終わりだ」

優奈はしばらく黙り込み、やがてうなずいた。「……うん」

手続きはすぐに終わり、二人は婚姻証明書を手にして市役所を出た。その時、律人は不意に彼女の手をつかみ、強引に家宝の腕輪をはめた。

「契約結婚だろうと、形だけは必要だ。三日後に式を挙げる。これは西川家の大切なものだ。外すなよ」

律人は昔から強引な人だ。優奈に拒む余地はなく、仕方なく受け入れるしかなかった。

市役所を出たあと、彼女は借りている部屋に戻った。玄関を開けると、料理の香りが漂ってくる。

キッチンから顔を出した中村圭吾(なかむら けいご)が優しい笑顔を向けてきた。「出張から帰ったのか?すぐにご飯できるよ、手を洗っておいで」

その声を聞いた瞬間、優奈の胸には痛みと怒りが同時に込み上げた。

彼と付き合って三年。二年前、彼の会社が破産して多額の借金を抱えた時、優奈は彼のために昼夜働き詰めで、四つも五つも仕事を掛け持ちした。食費も衣服も切り詰め、百円のミルクティーさえためらう生活を送ってきた。

苦しくても、いつか報われると信じていた。

だが十日前。ジュエリーのオークションで通訳のアルバイトをしていた彼女は、そこで圭吾を見かけた。

仕事でも探しているのかと思ったが、次の瞬間、彼は人気女優の清水美鈴(しみず みすず)を抱き寄せ、会場中の宝石をまとめて買い取ったのだ。

経営者たちは彼に媚びるように笑い、つい先ほどまで優奈をこき使っていた責任者も、彼の前では恭しく頭を下げていた。

信じられない光景だった。問いただそうと近づこうとしたが、マネージャーに止められた。「やめなさい! あの方はうちの超VIPだ。機嫌を損ねたら、あなたの仕事なんてなくなるよ!」

「超VIP?」優奈は呟いた。「彼、破産して借金まみれじゃなかったの?」

「冗談でしょ!」マネージャーは鼻で笑った。「あの人は世界有数のお金持ち、中村家の跡取りよ。さっき何百億円分も一括で買ったの。破産なんて、ありえない。どこでそんな馬鹿げた噂を聞いたの?」

優奈は呆然と立ち尽くした。

お金持ちの御曹司? 彼は小さな会社の社長だと言っていたのに。

マネージャーはさらに言った。「聞いた話じゃ、清水さんとは幼なじみなんだって。三年前に別の人と結婚したけど、中村さんはずっと彼女を待っていたそうよ。先月離婚して帰国した途端、また付き合い始めたらしいわ。やっぱり初恋相手は特別なのね」

そう言って優奈を見つめ、感心したように笑った。「それにしても、あなたと清水さんってすごく似てるわね」

雷に打たれたような衝撃で、優奈は体が冷たくなった。

二人が出会ったのは空港だった。あの時、刃物を持った男が無差別に暴れていて、優奈に刃が振り下ろされようとした瞬間、彼は身を挺して庇い、そのまま意識を失った。血まみれの中で彼が最後に漏らした言葉は、「君が……無事なら、それでいい……」だった。

病院で目を覚ました時、彼は優奈の顔を見てこう言った。「やっぱり……彼女じゃなかったんだな」

その時は深く考えもしなかった言葉が、今になって一つの答えへとつながっていく。それでも、優奈は信じたくなかった。

三年前、祖母と姉が交通事故に遭い、祖母は即死、姉は植物状態になった。絶望の中で寄り添ってくれたのは圭吾だった。彼は優奈にとって、失えない唯一の支えだったのだ。

だから優奈は初めて自分の誇りを捨て、都合のいい思い込みにすがった。「さっきのは見間違いかもしれない……」

しかし、わずか三十分後。意外なことが起きた。

美鈴のアシスタントから呼び出され、初めて訪れた高級レストランに行くと、美鈴は余裕の笑みを浮かべて待っていた。

「今日は圭吾くんの代わりに謝りたくてね。彼があなたを選んだのは、私を愛していたからなの。結婚してしまった私の代わりに、あなたを代わりの人にしただけ。怒らないであげて」

対面に座る華やかな美鈴と、鏡に映る自分の姿を見比べた瞬間、二人が似ていることを認めざるを得なかった。

だが、青白い顔色、安っぽい服、休めない生活でできた隈が、その差をさらに際立たせていた。

その時、心に湧いたのは怒りではなく、抑えようのない劣等感だった。

優奈は深呼吸して気持ちを押さえ込んだ。「……たとえそうでも、今の彼女は私なの」

「彼女?」美鈴は鼻で笑った。「じゃあ聞くけど、彼が本当の身分を教えたことある?この店が一番好きだって知ってた?あなたの誕生日プレゼントを彼が身につけたことは? ……全部ないでしょう。彼は安物なんて絶対つけない。あなたみたいな恥ずかしい女を、彼の本当の世界に連れて行くわけない」

優奈の胸の奥に、苦しさが波のように広がった。本当は叫びたい。「違う、彼は私を愛している」と。

だが、彼の行動の数々が、その言葉を口にする勇気を奪っていた。

涙をこらえ、ただ黙ってその言葉を受けるしかなかった。

最後に、美鈴は勝ち誇ったように立ち上がり、優奈の肩を軽く叩いた。「あなたは何も知らない。所詮、彼の暇つぶしよ。信じられないなら、賭けをしましょうか」

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