空港で平松賢(ひらまつ まさる)と宝木明茜(たからぎ あかね)が一緒に姿を現した瞬間、本当は気づくべきだった。新婚二日目に海外市場を開拓すると言って毅然と家を離れた男が、どうして突然「家庭に戻ろう」などと思うだろうか。迎えに行く前夜のことを、私・平松清芽(ひらまつ さやか)は今もはっきり覚えている。娘の唯依(ゆい)は部屋中を駆け回りながら「パパを迎えに行くときに着るワンピース」を探していた。早春の夜はまだ肌寒かった。私は笑って「見栄を張るより暖かさを選びなさい」と言った。けれど唯依は小さな顔をきゅっと引き締め、真剣にこう言った。「唯依は小さいころからパパを見たことないの。だから初めて会うときは、絶対にいい印象を残さなきゃ」その瞳には強い不安と幸福が同時に宿っていて、小さな子がこんなにも複雑な気持を抱えるのかと胸が締めつけられた。私は思わず彼女を抱きしめ、力強く言った。「唯依なら、パパはきっと好きになってくれるよ」そして当日、唯依は満面の笑みで大好きな白雪姫のドレスに身を包み、首を長くして到着口に立っていた。だが現れたのは、明茜と手をつなぎ、全身ウルトラマン格好の男の子を肩車した賢だった。その瞬間、私と唯依の笑顔は凍りついた。宝木明茜――賢の初恋。もし彼女が別れを告げなければ、私と結婚することなどなかっただろう。久しぶりに見る彼女は変わらず鮮やかに美しく、緩やかに波打つ長い髪の下で笑顔を輝かせ、私を見つけると親しげに手を振った。「清芽!」そして当然のように私の腕に絡みつき、軽口を叩いた。「なんだか老けたんじゃない?この六年間、賢がいなかったから恋煩いで病んじゃったんじゃない?」私は引きつった笑みを浮かべて応じた。「二人で一緒に帰ってきたのね?」明茜はわざとらしく驚いた顔をした。「えっ、賢から聞いてないの?私ね、高給で彼に招かれたのよ!今は国内の発展が海外よりずっと速いんだから、早く戻らなきゃって言ったら、彼すぐにチケット取って決めちゃったの!」――六年。この六年間、私も唯依も何度となく彼に帰ってきてほしいと願った。たとえ一時でもいい、会いに来てくれたらと。けれど彼の答えはいつも同じだった。忙しい、時間がない、すべては家族のため、私たちはわがままを言っているだけだ、と。
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