「渡辺社長、こんにちは。藤原恭介と申します。プラ化粧品会社の代表を務めております。お茶がお好きだと伺ったので、高級なお茶を持ってまいりました。ぜひ……」恭介が腕を上げたまま待っていると、背を向けて椅子を揺らしていた女性が、ゆっくりと振り返った。見覚えのある顔。エレベーターで、そして7号ホテルで美咲と一緒にいたあの人。まさか彼女が美咲の友人だとは。美咲は滅多に外に出ないのに、こんなに地位のある人とつながっていたなんて……だが逆に言えば、もしこの人が美咲の友人なら、今日の交渉は七割方成功したも同然だ。「渡辺社長、お会いできて光栄です。美咲ちゃんのご友人ですか!」恭介は満面の笑みでそう言った。美和は彼の差し出す茶箱を一瞥し、つまらなそうに返す。「そうよ。美咲ちゃんは私の友達。でもそれが、あなたに何の関係があるの?」「俺は美咲の夫で、藤原恭介と申します。プラ化粧品会社の代表を務めております。以前は貴社とも取引がありました。今日はその件で……」「おかしいわね」美和は眉をひそめ、わざとらしく首をかしげる。「あなたが美咲ちゃんの夫?それは違うんじゃない?7号ホテルで会ったとき、美咲ちゃんは知らない人だってはっきり言ってたわよ。しかもあの時、あなたは別の女を抱えて子どもの誕生日を祝ってたじゃない。私、美咲ちゃんに子どもがいるなんて一度も聞いたことないけど?」「そ、それは……」恭介の顔は青ざめたり赤くなったり、口ごもるばかりで言葉が出てこない。「そ、その、ちょっとした誤解なんです」美和は余裕の表情でじっと見つめ、さらに追い詰める。「やめておいたら?ビジネスは誠実さが基本。うちの会社は、嘘ばかりつく人とは組まないの」恭介は足元がおぼつかないほど打ちのめされ、エスティ化粧品会社を後にした。美和は窓辺に立ち、逃げるように去っていく背中を見送りながら胸のつかえを下ろす。美咲、あなたは本当に、こんな男に命を削るほどの価値を見いだすの?お願いだから、もう一度立ち上がって。こんな泥沼から抜け出して、自分のために生きてほしい。恭介がぼんやり会社へ戻ると、警備員が「先ほど里穂さんは出て行かれました」と告げた。だが今の彼には、彼女のことなど気にしている余裕はない。ソファに身を投げ出し、築き上げてきた会社を見渡すと、ただた
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