Home / BL / 天符繚乱 / Chapter 11 - Chapter 14

All Chapters of 天符繚乱: Chapter 11 - Chapter 14

14 Chapters

第十話 天流会 (座学編)

 |道玄天尊《ダオシュエンてんずん》は、高級な絹の|裳《も》を引き摺って登壇する。「皆、無事に到着したようだね。疲れてはいないかい? 私は皆の顔が見れないけれど、皆の内丹の気を頼りに見ているよ。私はここの長を勤めている|道玄《ダオシュエン》だ。本日よりふた月ほど、皆の成長を見させてもらうね。まずは皆、自己紹介をしてくれるかな?」  |裳《も》と同じような滑らかな声に、柔和温順な雰囲気が重なると、赤ん坊を見ているかのように癒される。 包帯に巻かれた少し窪みのある目の枠から、慈悲深く憐憫のような眼差しを感じるのは何故だろう。 |墨余穏《モーユーウェン》は、しばらく|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》の不思議な力に見惚れてしまい、他の修士たちの自己紹介は耳に入ってこなかった。 自分の番が回ってきていることにも気づかず、そのまま道玄天尊を眺めていると、隣にいた|張秋《ジャンチウ》に肩を突かれた。「|墨逸《モーイー》、ねぇ、|墨逸《モーイー》。君の番だよ。自己紹介」 |墨余穏《モーユーウェン》はハッと我に返り、机にあった筆を床に落とすほどの慌てぶりで、自己紹介を始めた。 |墨余穏《モーユーウェン》の自己紹介が終わり、残り三人の自己紹介が終わると、さっそく座学で使用する分厚い道教経典と天台山の符門善書が配られた。 話しを聞いていると、どうやらこの経典に付随する符道の座学をこのひと月で、残りのひと月は道術、内丹の強化、実践という流れになるらしい。 それにしても、この経典の分厚さ……。 親指の半分ぐらいはあるぞ……。 |墨余穏《モーユーウェン》はパラパラと紙を捲りながら目を細める。「さて、皆の前に揃ったかな? ここには特殊な能力を持つ修士たちが軒並み揃っているからね、さっそく鍛錬の一環として、このひと月でこの符門善書を全て暗記してもらおうと思う。七日過ぎるたびに採点も行うからね。皆の力を信じているよ」 (げっ……、採点?) |墨余穏《モーユーウェン》は目を更に細め、大きく息を吐く。 本殿が溜め息に包まれる中、陽だまりの中で咲く花のように|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》は温かな笑みを湛えながら、上座の席へ腰を下ろした。  しばらくすると、背後にある出入り口の扉が音を立てて開いた。二人目の講師の登場だ。 一斉に向けられたその視線の先には、眩いほ
last updateLast Updated : 2025-09-29
Read more

第十一話 天流会 (実践編)

 翌日の追試は、|師玉寧《シーギョクニン》から受けた手解きも相まって、|墨余穏《モーユーウェン》は無事満点で合格した。 合格者はすぐに符門善書を元に、実際の呪符を使った実践項目へと進む。 呪符の扱いに関して、|墨余穏《モーユーウェン》は自信があった。幼い頃からおもちゃのように扱い、|豪剛《ハオガン》の知識を全て受け継いでいるからだ。 しかし、皆の鑑である|師玉寧《シーギョクニン》と道術を競う項目では、どれだけ強力な呪符を書いても、どれだけ武術を駆使したとしても、|師玉寧《シーギョクニン》の驚異的な能力には敵わなかった。 ある日|墨余穏《モーユーウェン》は、どうしたら|師玉寧《シーギョクニン》のように強くなれるか、本人にそれとなく聞いてみた。 すると|師玉寧《シーギョクニン》は相変わらずの仏頂面でこう答えたのだ。「己の弱さを認めれば強くなれる。誰かを真似た強さは偽りだ」と。 |墨余穏《モーユーウェン》はずっと、誰よりも強いと思っていた。 弱さを認めるなど、師範への冒涜に過ぎない。 |豪剛《ハオガン》のような強い者に倣えば、自分もそうなれると信じ、勝手に思い込んでいたのだ。しかし、誰かのようになりたいという、際限のないその貪欲こそが弱さを生む。 |師玉寧《シーギョクニン》はもう一つ大切なことを言っていた。 「強さを量る基準は悪をどれだけ倒せたかではない。守りたいものをどれだけ守れたかだ」とも。 |墨余穏《モーユーウェン》は、|師玉寧《シーギョクニン》の言葉を聞いてしばらく人と距離を置き、自分を見つめ直す時間を作った。  残り半月になったある日、最終項目である水中呪符を用いた実践を行う為、一同は天台山から少し離れた清流湖へ向かっていた。 しばらく歩くと、青く澄んだ真っさらな湖面が見え始める。 |墨余穏《モーユーウェン》は、世の中にはこんな綺麗な湖が存在するのか! と、己の見識の狭さと感動を同時に体感した。 隣にいた|張秋《ジャンチウ》と少しばかり話していると、|道玄天尊《ドウゲンてんずん》の側近であるという|深月師尊《シェンユエしずん》がやってきた。 物凄い長身であると噂では聞いてはいたが、|師玉寧《シーギョクニン》よりも精悍な男で、まるで壁が立っているかのような存在感を醸し出している。「さぁ、今日は清流湖で投水符法の実技だ。さっ
last updateLast Updated : 2025-10-06
Read more

第十二話 壁符

|墨余穏《モーユーウェン》は静かに目を開ける。 またよく眠っていたようだ。 すっかり熱は引いたようだが、汗ばんで衣全体が濡れている。 日はすっかり沈み、玉庵では何本もある蝋燭の光が揺れていた。 (天流会かぁ。懐かしい夢だったな……) |墨余穏《モーユーウェン》は手で首元を拭いていると、そこに蝋燭を持った|師玉寧《シーギョクニン》が現れる。 「起きたか?」 「お! |賢寧《シェンニン》兄、帰ってきてたんだね。久しぶりに懐かしい夢を見たよ。天流会で|賢寧《シェンニン》兄に出会ったこととかさ、俺を湖から救ってくれたこととか。覚えてる?」 「そんな昔の話は忘れた」 「はぁ〜? 忘れちまったのかよ。じゃ、俺が何かしたことも忘れちまったのか? あぁ〜、いい夢だったのに残念だなぁ〜。あ、そういえばあの黒い鴉、天流会に居なかったけど結局どうなったの?」 「確か、出禁になった」 |青鳴天《チンミンティェン》のいる鳥鴉盟は、今も変わらず天台山の管轄から外されているらしい。それを憎んでいるのか、今も他門派への嫌がらせを続けており、今や|突厥《とっけつ》と手を組み出して天台山の守護神を壊す始末だ。 「じゃ、早いとこ|青鳴天《チンミンティェン》を殺さないと」 「お前は大人しくしていろ」 |師玉寧《シーギョクニン》は椅子に座り、料理の入った箱を卓へ置きながら続ける。 「|墨逸《モーイー》、今は本当に何もするな。少し奴らの動向を探りたい」 「分かった、分かった。俺は何もしない。んで、これは今日の夕餉?」 「そうだ」と言いながら、|師玉寧《シーギョクニン》は根菜と肉の汁物と葉野菜を蒸したものを箱から取り出した。 明らかに色合いと匂いからして、師玉寧が作ったものではなさそうだ。 |墨余穏《モーユーウェン》は思わず顔が綻ぶ。 その表情を見た|師玉寧《シーギョクニン》は頬杖をつきながら「さっきより嬉しそうだな」と嫌味ったらしく言う。 「え〜っ? さっきとどこが違うっていうのさ〜。さぁさぁ、|賢寧《シェンニン》兄も食べよう。ほら、蓮根も入ってる!」 |墨余穏《モーユーウェン》は|師玉寧《シーギョクニン》の気分を害さないよう、全力で言ってのけた。 その日の晩は、月が綺麗だった。 |墨余穏《モーユーウェン》は冗談で
last updateLast Updated : 2025-10-06
Read more

第十三話 冠履倒易

 |乗蹻術《じゃきょうじゅつ》を使って、|墨余穏《モーユーウェン》と|師玉寧《シーギョクニン》は、山雲のかかる険しい華陰山へ到着した。 今日は日が所々に当たり、気温はそこまで低くはない。 天候が変わらないうちに、墨余穏と師玉寧は|三神寳《さんしんほう》が保管されていた廟へと歩みを進める。 廟の周りの荒れ具合を見る限り、誰も足を踏み入れていないようだ。 静けさ漂う廟の前に到着した二人は顔を見合わせ、その廃墟のような廟の中に足を踏み入れた。 すると入ってすぐ、|墨余穏《モーユーウェン》は|師玉寧《シーギョクニン》の足元に、枯葉のように色褪せた呪符が落ちていることに気づく。 それをさっと拾い、表裏を交互に見遣ると、|墨余穏《モーユーウェン》は思わず眉間を寄せた。「ねぇ|賢寧《シェンニン》兄。これ見て!」 先に歩いていた|師玉寧《シーギョクニン》は足を止めて振り返り、|墨余穏《モーユーウェン》が頭上にかざしたその呪符を流し目で眺めた。「やっぱり俺の呪符だよ。|徐《シュ》殿の家にあったのと同じやつ」「ったく、一体何が起きてんだ〜?」と、独り言を言いながら、墨余穏は何か痕跡がないかその周辺を見渡した。 |師玉寧《シーギョクニン》は壁に触れながら、眉間に皺を寄せる。「お前の呪符を持っている奴が他にもいるということだ」 |墨余穏《モーユーウェン》は床に刻まれた文字を見ながら続ける。「なるほどね。それで、俺の呪符を使ってここを壊したってことか」「恐らくな。だから言っただろう。自分の呪符は必ず回収しろと」 |墨余穏《モーユーウェン》は唇を一文字に引き結び、大きく鼻から息を吐いた。説教じみたことを言われても、意図的に放置した記憶はない。先日の黄山で妖魔を倒した時は、仕方なく置いてきてしまったけれど……。それはそれだ。 死んだ間に盗られたのだろうか?  それとも、死ぬ前にこの目の前の水仙玉君に恋煩いを起こして、好きでもない女と無理矢理寝てやり過ごしたあの時や、酒に酔って『師玉寧』と叫びながら暴れまくったあの時に、紛失してしまったのだろうか。 廟の薄暗い天井を仰ぐように苦い記憶を辿りながら、墨余穏はこの回収できない事実を泣く泣く受け止める。 「そうだよな。だから掟なんだよな。……待てよ。ってことは、そういうことか! 俺の呪符に俺の魂魄を封じ込めた奴
last updateLast Updated : 2025-10-13
Read more
PREV
12
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status