天符繚乱

天符繚乱

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-13
Oleh:  春埜馨Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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舞台は古代中国、三教の一つである道教の修仙界。 呪符を扱う四つの正統門派『大篆門(だいていもん)・寒仙雪門(かんせんせつもん)・緑琉門(りゅうりゅうもん)・金龍台門(きんりゅうだいもん)』たちが、日々蠢く邪祟や妖魔を退治し、世を統治していた。    しかしある日、四つの門派を統括する天台山の裏手にある華陰山で、地の主として祀られていた【三神寳(さんしんほう)】が、突厥の手によって盗まれてしまう。  これにより全ての統治が保てず、世が乱れ始めるのだが、それと同時に、十年前に大敵である青鳴天(チンミンティェン)との闘いの末、強力な霊符の反動で謎の死を遂げてしまった最強の呪符師・墨余穏(モーユーウェン)が突然甦る。    記憶は今世でも引き継がれ、前世では叶わぬ恋心を抱いていた寒仙雪門の門主・師玉寧(シーギョクニン)と再会を果たすが、墨余穏は師玉寧に新たな想い人がいることを知ってしまう…。しかし、それは━︎━︎。  それぞれの想いが過去、未来へと繋がり、繚乱していく仙侠中華BL。

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Bab 1

序話 華陰山

 幾重にもかかる真っ白な山雲が、その名の通りこの華やかな情景に映える険しい|華陰山《かいんざん》を覆う。

 人が無闇矢鱈に入山できる山ではないのだが、この日だけは山雲をいとも簡単に切り裂く異国の盗人術師たちが、ここを訪れていた。

「おい! 後ろに続け! 離れるなよ!」

『はい!』

 上に登れば登るほど酸素は薄く、気温も低温傾向にある。

 しかし、この者たちは鍛錬を積み重ねた強靭たちばかりが集められている為、何の心配もいらないようだ。

 一人の男が言う。

「|阿可《アーグァ》様! あそこに廟があります!」

「よし、見つけたな! そこへ向かうぞ!」

 |突厥《とっけつ》の|阿可《アーグァ》たちは目先にある廟へ向かって険しい岩場を進む。

 様々な木が生い茂り、視界を遮るように霧が立ち込めている。

 進むのも後戻りをするのも困難な場所だが、彼らは行く手を止めようとしない。木枝や葉を踏み鳴らす音だけが響き、皆黙々と登り続けると、突厥たちはようやく山の頂上の岩場に聳え立つ、小さな廟に到着した。

「本当にここなんですか?」

「あぁ。間違いない。早く扉を壊せ」

 |阿可《アーグァ》の命令に従い、数人の下の者たちが、硬く封じられた扉を抉じ開ける。しかし、扉自体は開くものの強力な呪符で護られているせいか、中に踏み込む事ができない。

 |阿可《アーグァ》は「チッ」と舌打ちしながら、預かっていた一枚の呪符を胸元から取り出し、扉の中に投げ入れた。

 すると、たちまち呪符の効力が消え、ただの物小屋のような空間が広がり始めた。

「さすがです! |阿可《アーグァ》様!」

 下の者たちから煽てられて気分の良い|阿可《アーグァ》は、颯爽と中に入り、この廟に祀られていた|三神寳《さんしんほう》の一つ・|神漣剣《しんれんけん》を手に取る。

「これが|呂熙《リューシー》殿が欲しいと言っていた神剣か……」

 ひとしきり眺めた後、|阿可《アーグァ》は|神漣剣《しんれんけん》の隣に置いてあった符術書・|万墨帛書《ばんぼくはくしょ》と、青銅製の鳥の形をした銅鏡・|神翼鏡《しんよくきょう》も手に取って胸元に仕舞った。|阿可《アーグァ》は踵を返そうと足元に目を遣ると、石段に何やら文字が彫られているのに気付いた。

 しかし、|阿可《アーグァ》は突厥の人間な為、この国の文字が読めない。

「おい! この文字を読める者はいないか?」

「いやぁ……、分かりません」

「ふんっ。そうか、まぁいい。早く出るぞ」

 |阿可《アーグァ》は近くにいた下の者たちを急かせ、一緒に廟の外へ出る。

 すると突然、轟々と鳴り響く猛烈な山鳴りがそこにいた者たちの耳を劈いた!

 まるで、ここに重鎮している山の神が、天に向かって怒りを表しているかのようだ。

 すると、次から次へと地響きも鳴り始め激しい雨が降り出す。

「おい! 急いで退散するぞ!」

『は、はい!』

 |阿可《アーグァ》たちは、急いでこの激しい崖を次々と飛び降りていった。

 廟の中はもぬけの殻となり、激しい雨が扉を無情に叩く。

 扉から漏れる雷光が、石段の文字を何度も虚しく照らしていた━︎━︎。

 在天願爲比翼鳥

 在地願爲󠄀漣󠄀理枝

 天長地久有時盡

 此恨緜緜無盡期

 天井にあっては比翼の鳥

 地上にあっては連理の枝となって

 永遠に離れずにいましょうと

 永遠の天空、恒久な大地

 それらはいつか終わりの時がやってくる

 しかし、この悲しみだけはいつまでも連綿と続くことだろう

 (白居昜「長恨歌」より)

  

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Eve郁
読み始めた途端、「今まで探し求めていたものがここにあるー!」と、まるで宝箱を開けたような気持ちになりました。 修仙界、各門派、内丹、呪符……などなど、中華ドラマや小説・漫画で慣れしたんだ設定が盛りだくさんで、しかもそれを日本語で読めるありがたさ……私得でしかありません 戦闘あり、敵対する勢力ありで本格的な設定ですが、文がわかりやすく、会話も軽妙なので、すらすらと読めてしまいます。 何より、そこに入ってくるBL要素!墨余穏と師玉寧の過去が色々とありそうな関係。度々、師玉寧のことを思い出してしまう墨余穏が切ないですね…… (あ、字数制限が……) 改めて、素敵な読書時間をありがとうございます!
2025-09-20 18:52:15
1
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序話 華陰山
 幾重にもかかる真っ白な山雲が、その名の通りこの華やかな情景に映える険しい|華陰山《かいんざん》を覆う。 人が無闇矢鱈に入山できる山ではないのだが、この日だけは山雲をいとも簡単に切り裂く異国の盗人術師たちが、ここを訪れていた。 「おい! 後ろに続け! 離れるなよ!」 『はい!』 上に登れば登るほど酸素は薄く、気温も低温傾向にある。 しかし、この者たちは鍛錬を積み重ねた強靭たちばかりが集められている為、何の心配もいらないようだ。 一人の男が言う。「|阿可《アーグァ》様! あそこに廟があります!」「よし、見つけたな! そこへ向かうぞ!」 |突厥《とっけつ》の|阿可《アーグァ》たちは目先にある廟へ向かって険しい岩場を進む。 様々な木が生い茂り、視界を遮るように霧が立ち込めている。 進むのも後戻りをするのも困難な場所だが、彼らは行く手を止めようとしない。木枝や葉を踏み鳴らす音だけが響き、皆黙々と登り続けると、突厥たちはようやく山の頂上の岩場に聳え立つ、小さな廟に到着した。「本当にここなんですか?」「あぁ。間違いない。早く扉を壊せ」 |阿可《アーグァ》の命令に従い、数人の下の者たちが、硬く封じられた扉を抉じ開ける。しかし、扉自体は開くものの強力な呪符で護られているせいか、中に踏み込む事ができない。 |阿可《アーグァ》は「チッ」と舌打ちしながら、預かっていた一枚の呪符を胸元から取り出し、扉の中に投げ入れた。 すると、たちまち呪符の効力が消え、ただの物小屋のような空間が広がり始めた。「さすがです! |阿可《アーグァ》様!」 下の者たちから煽てられて気分の良い|阿可《アーグァ》は、颯爽と中に入り、この廟に祀られていた|三神寳《さんしんほう》の一つ・|神漣剣《しんれんけん》を手に取る。「これが|呂熙《リューシー》殿が欲しいと言っていた神剣か……」 ひとしきり眺めた後、|阿可《アーグァ》は|神漣剣《しんれんけん》の隣に置いてあった符術書・|万墨帛書《ばんぼくはくしょ》と、青銅製の鳥の形をした銅鏡・|神翼鏡《しんよくきょう》も手に取って胸元に仕舞った。|阿可《アーグァ》は踵を返そうと足元に目を遣ると、石段に何やら文字が彫られているのに気付いた。 しかし、|阿可《アーグァ》は突厥の人間な為、この国の文字が読めない。「おい! この文字を読める
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-01
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第一話  甦生
 ゆっくりと目を開け、何度か瞬きを繰り返すと、何やら見覚えのある木目の天井が見えた。    (ここは……)    |墨余穏《モーユーウェン》は、まだ眠気の取れない瞼を何度も閉じ、思考を凝らしながら周りの空気を感じ取る。  線香の香りと、長年染みついた独特の生活臭が入り混じった懐かしい香り。  ここは間違いなく、前世で世話になった|尊仙廟《そんせんびょう》だ。    (でも、俺は……死んだんじゃないのか? どうしてここに居るんだ? 何が起きてる? )    やはり|墨余穏《モーユーウェン》は、今の状況を把握し切れないでいた。  それもそのはず。|墨余穏《モーユーウェン》は以前、邪符教の|鳥鴉盟《ウーヤーモン》・|青鳴天《チンミンティェン》との戦いで、使用した呪符の反動で命を落としていたからだ。  |墨余穏《モーユーウェン》は、自分の手で頬を軽く叩いてみる。  やはり五感は全て正常のようだ。  腕を上げ、手のひらを眺めていると、床を踏み鳴らす音とお皿を揺らす音が同時に近づいてきた。「おや、目が覚めたようだね。具合はどうだい? |墨逸《モーイー》」 |墨余穏《モーユーウェン》はムクっと起き上がり、その優しい声の主を見る。  そこには、木製のお盆を持ちながら、目尻にたっぷりの皺を寄せて微笑む長老が立っていた。  久しぶりの再会に、思わず顔が綻ぶ。「|尊丸《ズンワン》和尚! 久しぶりだな! 元気だったか?」「いや〜、また君に会えるなんて夢のようだよ」「はははっ。俺も夢のようなんだが……、何がどうなっているんだ? 説明してくれないか?」「そうだね。でもまずは食事を摂りなさい」 |尊丸《ズンワン》はそう言いながら、朝食が乗った木製のお盆を|墨余穏《モーユーウェン》の側に置く。それから熱い白茶を二つの茶呑みに注ぎ、|尊丸《ズンワン》は|墨余穏《モーユーウェン》と向かい合うように正座した。「今朝、裏の墓地を清掃していたら何か音がしたんだよ。気になってその音がした方へ向かったら、君が父上の墓の前で倒れていたんだ。君に近づくと息をしているから慌てて弟子たちを呼んで、君をここに連れてきたってわけさ……。何か心当たりはないのかい?」   「……いや、何にも。気づいたらここで寝かせてもらっていただけだ」    甦った理由がさっぱり分か
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-01
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第二話 拾得
 甦ってから三日経った昼下がり、|墨余穏《モーユーウェン》は新しい衣を買いに、|尊丸《ズンワン》と下町へ向かった。 「ここは何も変わってないんだなぁ〜」 「そうだね、ここは相変わらず活気のある人ばかりだよ」  この下町は、古くから商いで賑わう地域で|墨余穏《モーユーウェン》の顔馴染みも多い。|墨余穏《モーユーウェン》は周りからどんな顔をされるか不安だったが、そんな不安は一瞬で吹き飛んだ。 「おい! 嘘だろ! |墨逸《モーイー》じゃないか?! お前、どこに行ってたんだよ!」「はははっ。久しぶり! 魚屋の亭主!」「あら〜、|墨逸《モーイー》じゃない! 相変わらずの美男子ね」「はははっ。甘露の女将さんも、相変わらず美人さんだよ!」「やっぱ、お前が死んだなんて嘘だったんだな! おい! これ持ってくか?」「はははっ。ありがとう! 串屋のおいちゃん! この鳥もくれる?」 他にも、新しい符を書いてくれだの、婿に来て欲しいだの、皆寄ってたかって|墨余穏《モーユーウェン》を囲み出した。 こうして愛嬌のある|墨余穏《モーユーウェン》は、誰かと会う度に次々と声を掛けられ、相変わらずの存在感を醸し出していた。 しばらく歩くと|豪剛《ハオガン》も行きつけだった呉服屋に到着し、|墨余穏《モーユーウェン》と|尊丸《ズンワン》は中へ入る。 すると、|墨余穏《モーユーウェン》が戻ってきたと噂を聞きつけていた大旦那が、涙を流しながら|墨余穏《モーユーウェン》を思いっきり抱きしめた。「|豪剛《ハオガン》のように、ええ男になったの〜、|墨逸《モーイー》! あんな小さくか弱かったのになぁ。|豪剛《ハオガン》もきっと喜んどるわ〜。ワシも嬉しすぎて、もういつ死んでも構わんな!」「はははっ。だめだめ。俺の衣、大旦那に死ぬまで仕立ててもらわなきゃいけないから!」 そう言葉を交わし、|墨余穏《モーユーウェン》は|豪剛《ハオガン》がいつも着ていた黒色の衣を、数点選定してもらった。 |墨余穏《モーユーウェン》は黒が映える男だ。肌白さがより衣の黒を引き立てているようにも見える。 玉佩をつける紐だけを白にし、無駄を無くして品よくまとめる様は|豪剛《ハオガン》譲りだ。 |墨余穏《モーユーウェン》が鏡を見ていると、背後から大旦那が話し始める。 「|豪剛《ハオガン》はよく言ってい
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-01
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第三話 再逢
|墨余穏《モーユーウェン》は翌朝、|尊丸《ズンワン》が持ってきた粥のいい香りで目覚めた。 「|墨逸《モーイー》、おはよう。無事に帰ってきたようだね」 |尊丸《ズンワン》は粥が乗った盆を床に置き、窓を何箇所か開ける。 差し込む日の光の中で、光沢を帯びながら漂う埃が、外へと出ていく。 「|尊丸《ズンワン》和尚、おふぁよぉ〜」 |墨余穏《モーユーウェン》は欠伸をしながら続けた。 「もう、全然余裕だったよ。何なら昔より若干強くなったかも」 |尊丸《ズンワン》は「え?」と驚き、目を擦りながら話す|墨余穏《モーユーウェン》を見る。 |墨余穏《モーユーウェン》は元々、|豪剛《ハオガン》の教えもあってか|内丹《ないたん》の霊力が高い。強靭な体力と知性を持ち合わせていることもあって、門派の中でも指折りの実力者だ。しかし、|墨余穏《モーユーウェン》は無理をして己の限界を常に越えようとするところがあり、自分への加減が上手くできない。 前よりも更に力を身に付けたとなると、必ずどこかでまた同じ事が起こるのではないかと|尊丸《ズンワン》は心配した。 「|墨逸《モーイー》。あまり無理をしないようにね」 「はははっ。大丈夫だよ! 今度は死なないようにするから〜」 無邪気に笑う|墨余穏《モーユーウェン》に、|尊丸《ズンワン》は美味しくない物を口に入れた時のような苦笑いを浮かべた。 朝餉を終えた|墨余穏《モーユーウェン》は、|尊丸《ズンワン》に出掛けると告げて、仲の良かった後輩の|葉風安《イェフォンアン》に会いに行くことにした。 |緑琉門《りゅうりゅうもん》がある|緑稽山《りょくけいざん》には|乗蹻術《じゃきょうじゅつ》という飛行術を使って飛んでいく。この術は三十里を半刻で移動できる優れものなのだが、鍛錬を続けている修仙者でもこの術はかなり霊力を消費する為、緑琉門の裏手の山に到着した墨余穏は既に息も絶え絶えで、木陰の大木にだらしなく凭れた。 (さすがに、甦ったばかりのこの体ではキツいな……) |墨余穏《モーユーウェン》は緑琉門の中に入る時は、いつも正面の門ではなく、葉風安の住処の裏庭に繋がる裏手の山から侵入していた。|墨余穏《モーユーウェン》はようやく息を整え、|葉風安《イェフォンアン》の住処がある裏庭へと降っていく。 |葉風安《イェフォンア
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-07
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第四話 追懐
  翌日の昼。 緑琉門から尊仙廟に戻ってきた|墨余穏《モーユーウェン》は、|葉鈴美《イェリンメイ》から土産で貰った桃と、帰りの道中で買った万頭と酒を持って、尊仙廟の裏手にある墓へ向かった。 今日は、|豪剛《ハオガン》の命日である。 |墨余穏《モーユーウェン》は「父ちゃん、酒と桃持ってきたよ」 と言って、|豪剛《ハオガン》の墓の前でどさっと座り込んだ。  酒瓶の先についている二つの杯にそれぞれ酒を注ぎ、本人と交わすかのように、墓に杯を当てて乾杯した。 |墨余穏《モーユーウェン》は一気に飲み干し、独り呟く。 「なぁ、父ちゃん。俺、死んだはずなのに何故か甦っちまったみたいでさ……。俺、これからどうしたらいい?」  |墨余穏《モーユーウェン》は万頭を齧りながら、答えてはくれない声を待った。 今でもあの頃のように|豪剛《ハオガン》と一緒に生きていたら、こうした迷いなど生じず、くだらない事で笑い転げ、こんな暇を持て余す事もなかっただろう。 |墨余穏《モーユーウェン》は墓の横に咲いていた蒲公英を引き抜き、花弁を一枚ずつ取りながら、|豪剛《ハオガン》と出会った頃の幼少期を思い出した。 あれは五歳の夏頃だっただろうか━︎━︎。 両親が流行り病で同時に死んでしまい、住んでいた家が無くなった。一人残された|墨余穏《モーユーウェン》は、路上で生活せざる得なくなり、露店から出るゴミを漁ったり、物乞いをして何とか少量の食事にありつけるという日々を過ごした。 裕福な子供たちからは、差し入れだと言って泥水や泥団子を渡され、笑われる日々。着る服も端切れのように破れ、不衛生で汚い子供だと、通りかがる老若男女に忌避された。 やがて季節は夏から冬になり雪が舞い始める。 |墨余穏《モーユーウェン》の小さな身体は、限界を迎えようとしていた。身体全体に霜焼けが広がり、目も虚ろで、遂に話すことすら出来なくなった。 するとそこに、凍死寸前だというのに、更に追い討ちをかけるかの如く、子供の体を売り飛ばす輩が|墨余穏《モーユーウェン》の前にやって来た。「ほぉ。こんな所にいい品物が落ちてるじゃないか。売ったら金になりそうだな〜。おい、立て! クソガキ!」 歯が抜け落ち、顔も黒ずんだ汚らしい輩が、横たわる|墨余穏《モーユーウェン》の腹を蹴り、無理矢理立たせようとした。 凍傷
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-07
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第五話 信息
しばらくすると、卓の上に注文した料理が次々と運ばれてきた。 そこには|墨余穏《モーユーウェン》の好きな|羊肉串《ヤンロウチュアン》もやってくる。 「わぁ〜美味そう! |尊丸《ズンワン》和尚、食べてもいい?」 「どうぞ。たくさん食べなさい」 |尊丸《ズンワン》は穏やかな笑みを見せ、他の料理に手をつけながら、ここ十年で起きたこの町の出来事を面白おかしく話し始めた。 串屋の亭主は昔、大の犬嫌いだったのだが、好きな女子が犬好きだと知り、魔除けの呪符を身体中に貼り付けて犬嫌いを克服したとか、甘味処の女将さんと摩擦を起こしていた姑が亡くなり、女将さんの羽振りが良くなってお店は大繁盛。しかし、軒先で出している糖葫芦(タンフール)が何故か客の手に渡ると不味くなり、姑の呪いだとこの町では怪談話になっているそう。 そんなどうでもいい話を酒の肴にしていると、突然、外から酒楼の扉を勢いよく蹴り飛ばす音が店内に響き渡った。 客たちは皆、酔いが冷めたかのように騒然とする。 |墨余穏《モーユーウェン》も何事かと、扉の方に目を向けた。 「おい! 七人だ、中へ入れろ!」 黒と紫が混在した衣を着た輩たちが、続々と入ってくる。 |墨余穏《モーユーウェン》は、その中にいたある男を見た瞬間、眉間に皺を寄せた。あの因縁の相手、|鳥鴉盟《ウーヤーモン》の|青鳴天《チンミンティェン》だ! |青鳴天《チンミンティェン》は|墨余穏《モーユーウェン》の存在に気づくことなく、傲慢な態度で案内された椅子にだらしなく腰掛けた。 この男のだらしなさは天下一品で、食べ方一つとっても下品だ。そんな男とここで変な争いを起こしたくないと思った|墨余穏《モーユーウェン》は、一つに結っていた髪を解き、垂れ下がる髪で顔を隠した。 異様な空気が漂う酒楼では、今まで派手に酒を煽っていた中年の男たちも、双六で盛り上がっていた若者たちも皆静まり、鳥鴉盟たちがいる席と一番端の対角線上にいる|墨余穏《モーユーウェン》は、鳥鴉盟たちが話す会話に耳をそばだてた。 「|青《チン》少主、明日本当に突入するのですか?」 「あぁ。この俺が何度も文を出しているというのに、応えようとしないからな」 |青鳴天《チンミンティェン》はそう言って酒を一気に煽る。恐らく|葉鈴美《イェリンメイ》の事だろうと、|墨余
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-15
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第六話 邂逅
あれから叶わぬ慕情を抱き、あれこれと思い煩っていると、気がついたら朝陽が昇っていた。 |墨余穏《モーユーウェン》は寝台から気怠く起き上がり、椅子に掛けておいた黒い衣に着替え、書いておいた呪符を胸に忍ばせて部屋を後にする。 宿屋を出てすぐ、|一枚の神通符がこちらに向かって飛んで来るのを感じた。 |墨余穏《モーユーウェン》は右手でそれを瞬時に掴み、神通符に書かれてあった文字を読む。 『|鳥鴉盟《ウーヤーモン》襲撃。至急援助を求む』 「まだ朝だぞ……。いつから鴉は夜行性じゃなくなったんだ?」 |墨余穏《モーユーウェン》は独り言を呟きながら、神通符を手で握り潰し、|緑琉門《りゅうりゅうもん》へ向かった。 昨日行った裏庭ではなく、|墨余穏《モーユーウェン》は正面の門が見える場所へ移動し、高い木の枝に登って身を潜めながら全体を見下ろした。 すると、ちょうど|青鳴天《チンミンティェン》率いる鴉の大群と、|葉風安《イェフォンアン》たちと各門派たちの数名が対峙しているのが見える。 |寒仙雪門《かんせんせつもん》の|一恩《イーエン》と|一優《イーユイ》はいるが、|師玉寧《シーギョクニン》の姿はないようだ。 |墨余穏《モーユーウェン》はどこか安心を得るように心を撫で下ろしていると、突然緑琉門の門主・|葉誉《イェユー》の怒声が境内全体に響き渡った。 「どういうつもりだ! |青《チン》少主! 娘はやらんと何度も言っているだろう! 何故こんなことをする! |天文山《てんもんざん》の掟に反するぞ!」 「ふんっ。何が掟だ! 今や力のない天文山の掟など、くだらねぇ! 生きてるか死んでるかも分からねぇ、あの盲目のジジイの言うことなど聞く必要ねぇーだろ」 黙って聞いていた|葉風安《イェフォンアン》が、声を荒げる。 「|道玄天尊《ドウゲンテンズン》を侮辱するな! お前たちのせいで三神寳が無くなった今でも、あのお方がいらっしゃるからこうして均衡を保てているのだ! お前たちの領地にも、どれだけ尽力してくださっているのか分からないのか!」 「黙れ! 貴様、誰に向かって口をきいてぇんだ! あのジジイが尽力だと? 寝言は寝て言え! 我々、鳥鴉盟を追放したのはあのジジイだぞ!」 |青鳴天《チンミンティェン》は怨色を見せながら、唾と悪声を飛ばした。怒りが
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-15
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第七話 寒仙雪門
寒仙雪門の冷風に乗って舞い踊る水仙の甘い香りが部屋中を漂い、|墨余穏《モーユーウェン》の鼻の奥をつんと冷やす。 ゆっくりと目を開け、豪華な白い紗が幾重にも重なった洒落た天井を見遣る。 (ここは……) 「目が覚めたか」 透き通った聞き覚えのある美声が、脳天に降りてくる。 |墨余穏《モーユーウェン》はムクっと上体を起こし、カチャカチャと音のする方に目を向けると、仏頂面な顔で|師玉寧《シーギョクニン》が茶を淹れていた。 「ここは?」 「私の私室だ」 (ここが、建て直したと言っていた玉庵か……) そう聞いた|墨余穏《モーユーウェン》は、夢でも見ているのではないかと錯覚し、自分の頬をつねる。あれだけ会うのを躊躇していた|墨余穏《モーユーウェン》だったが、いざ水仙の花を目の前にすると非常に眺めが美しく、心が躍った。 「|墨逸《モーイー》。茶だ。飲むといい」 |師玉寧《シーギョクニン》は卓の椅子に腰掛け、自らも淹れたての茶を啜る。|墨余穏《モーユーウェン》は寝台から降り、|師玉寧《シーギョクニン》と向かい合うようにして椅子に座った。 揺蕩う湯気が心地良く、|墨余穏《モーユーウェン》は「いただきます」と言って茶をそっと口に含んだ。 しかし、|墨余穏《モーユーウェン》はすっかり忘れていた。 |寒仙雪門《かんせんせつもん》で出される茶は、苦くて有名な一葉茶であることを。 目の前にいる|水仙玉君《すいせんぎょくくん》は、水を啜っているかの如く、何一つ表情を変えない。 茶器を握りしめたまま続きの一口が飲めないでいると、見兼ねた|師玉寧《シーギョクニン》が、くぐもった声で一言放った。 「最後まで飲め」 |墨余穏《モーユーウェン》は片方だけ口角を吊り上げながら、苦笑いを浮かべる。飲めないなどとは言わせない圧が、短い言葉から滲み出ていた。 |墨余穏《モーユーウェン》は一息置いて、一気に飲み干す。 (うぅ……、まっず……) すぐに俯き、しばらく顔を上げられないままでいると|師玉寧《シーギョクニン》が卓の上に一枚の呪符を置いた。 「|墨逸《モーイー》。これはお前のか?」 |墨余穏《モーユーウェン》はゆっくり顔を上げて、「うん」と答える。続けて「なんで持ってんの?」と尋ねた。 |師玉寧《シーギョクニン》は、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-22
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第八話 寤寐思服
深い眠りに落ちた|墨余穏《モーユーウェン》は、記憶を辿る夢に沈んだ。それは鮮明に、|墨余穏《モーユーウェン》の瞼の裏に立ち現れる。 かつて尊仙廟の近くにあった|豪剛《ハオガン》の家で、十五歳の|墨余穏《モーユーウェン》は、修得したばかりの呪符を書き連ねていた。 「うん! よし! これでいいだろう」 |豪剛《ハオガン》から道教の仙術を一通り習い終えた|墨余穏《モーユーウェン》は、様々な呪符を書いては時々現れる妖魔をことごとく抹消し、|豪剛《ハオガン》も感心してしまうほどの強さと実力を持ち始めていた。 |豪剛《ハオガン》に引き取られたことが功を成し、|墨余穏《モーユーウェン》の人生は大きく変化していった。 するとそこに、出掛けていた|豪剛《ハオガン》が、何やら大きな荷物を抱えて帰ってくるではないか。 「お〜い! |墨逸《モーイー》〜! 生きてるか〜? 大魚だぞ〜!」 「お、父ちゃんお帰り! わぁ、すげぇ!」 二人で食べるには大き過ぎるほどの川魚が、卓の上にどさりと置かれた。|墨余穏《モーユーウェン》は目を丸くして続ける。 「凄い大きいね。どうしたの?」 「ん? あぁ、河川で妖魔が出るっつーから、見に行ってやっつけたら、魚屋のおっちゃんらが礼にってくれたんだよ〜。これで、しばらく死なずにすむな〜、あははははっ」 時々、こうして人助けをしながら、|豪剛《ハオガン》は色んなものを持って帰ってくる。 先日は、絵を生業としている男の家で頻繁に出没する幽霊を退治しに行ったら、その礼にと瞬く間に本懐を遂げてしまうような、完成度の高い春画の巻物を貰って帰ってきた。 物だけではない。 昨日は、妖魔なのか人なのか分からない痴れ者まで連れて帰ってきてしまい、悪戦苦闘していた。 こういう人垂らしなところがある|豪剛《ハオガン》は、日頃から人に尽力している為、多少の難癖があっても角を出されることはない。 「墨逸! 火を起こすの一緒に手伝ってくれ」 「うん!」 二人は外で火を起こし、贅沢に塩を塗りこんで、魚を焼き始めた。焚き火の前で二人はたわいもない話をしながら、|豪剛《ハオガン》は思い出したかのように、天台山で開催されるある会について話し出した。 「あ、そうだ! |墨逸《モーイー》。お前のような各門派の青年たちが集う天流
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-22
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第九話 天流会  (初会編)
 |墨余穏《モーユーウェン》は胸元から通行書を取り出し、門番へ渡す。 鍾馗のような顔つきの門番はそれを受け取り、|墨余穏《モーユーウェン》を上から下までなぞるように見遣った。 通行書に書いてあった文字を読むやいなや、門番は懐かしい人を思い出したかのように、突然表情を緩ませる。「若公子は、あの|豪剛《ハオガン》道長の御子息でしたか〜! お待ちしておりました。中へどうぞ」 |墨余穏《モーユーウェン》は、白い歯を見せてニコッと笑う。 (さすが、父ちゃん。名を見せるだけで、人の形相まで変えられるんだ! ) すると、先に門を通過していた|師玉寧《シーギョクニン》も驚いたように振り返り、「父上は豪剛道長なのか」と尋ねた。「うん。まぁ、養父なんだけどね。孤児だった俺を拾ってくれたんだ。|賢寧《シェンニン》兄は、父ちゃんのこと知ってるの?」 いつもの癖で|豪剛《ハオガン》のことを『父ちゃん』と言ってしまったが、|師玉寧《シーギョクニン》は全く気にする様子もなく答えた。「質実剛健の色男で、倒した妖魔は千体以上。|豪剛《ハオガン》道長の手にかかれば、生きて帰れる者はいないと聞いている」「あははっ! その通り! ちなみに床に倒した女も千体以上だ」 |師玉寧《シーギョクニン》は何か喉に詰まらせたかのように咳払いをし、偶発を避けた。「はははっ。|賢寧《シェンニン》兄、冗談だよ。父ちゃんが女といる所を俺は一度も見たことがない。春画を読んでたり、たまに変な妖獣を連れて帰ってくることはあるけど……」 そんな会話をしていると、緑色の衣を着た貧弱な男が黒い衣を着た長身の男に胸ぐらを掴まれているところに遭遇した。 情に厚い|墨余穏《モーユーウェン》は、虐められている者を見ると黙っていられなくなり、すぐに貧弱な男の元へ駆け寄った。「おい、何してる!」「あ? 誰だてめぇは!」「俺は|墨余穏《モーユーウェン》。天流会に来た者だ。とりあえず、そいつから手を離せ」 黒い衣の男は、掴んでいた胸ぐらから手を離し、緑色の貧弱な男を解放した。しかし、すぐに黒い衣の男は矛先を|墨余穏《モーユーウェン》に向け、噛みつく。「お前、|大篆門《だいてんもん》のオッサンと一緒に住んでるって奴か? 血も繋がってねーのに、よくここの門を潜れたな。呑気に家族ごっこでもしてここに来られるなんて、名門の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-29
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