婚約した翌日、婚約者の鳴海景臣(なるみ かげおみ)に、指輪を受け取りに一緒に来てほしいと頼まれた。けれど、ブライダルジュエリー専門店が閉まるまで待っても、彼の姿は現れなかった。帰り道でようやく届いたのは、彼からのメッセージだった。【志乃がお腹を壊して下痢になった。先に病院へ連れて行く】慌てて電話をかけると、返ってきたのは春川志乃(はるかわしの)の声だった。「景臣さん、さっき私と運動した後疲れて寝ちゃったの。用があるなら明日にしてね」四年間の恋。大事な時ほど、彼の幼なじみにはいつも「助けが必要な事情」があって、景臣は迷うことなく彼女のもとへ走っていった。婚約指輪を受け取るような一大事でさえ、私を置き去りにして。もう疲れた私は、静かに答えた。「もういい。私、景臣とはもう別れたから」そう言って、相手の反応を待つことなく通話を切った。一日中待ち続けてようやく手に入った指輪を撫でながら、思わず苦笑が漏れた。次の瞬間、それを外して、ためらいなく路地脇の汚れた水溝へ投げ捨てた。こんな無理やり繋ぎ止めた感情なんて、要らない。家に帰ると、がらんとした部屋を見渡し、景臣がもうどれくらいここに帰ってきていないのか、思い出せなくなっていた。彼の言い訳は、呆れるほど馬鹿げていた。「志乃は臆病で、一人で住めない。だから、そばにいてやらないと」私は何度も抗った。家具をすべて叩き壊すほどに喧嘩をしたこともあった。けれど、彼はソファに腰を下ろしたまま冷静に私を見つめ、最後に冷たく言った。「彼女は俺の妹みたいな存在だ。お前が怒るのを怖がって気を遣ってるのに、どうして受け入れられないんだ?いつからそんなに、攻撃的で冷酷になったんだ?」その氷のように冷たい眼差しを見た瞬間、喉まで出かけていた言葉はすべて飲み込まれた。私の感じていた辛さなんて、彼にとってはただのワガママにしか見えなかった。最後には、麻痺した私は自分から彼の着替えを差し出し、卑屈に彼へ縋るように頼んだ。「明日は早く帰ってきて……お願い」私は認める。この恋で、私は徹底的に卑屈だった。それでも何年も愛してきた彼を、どうしても手放せなかった。私たちが出会ったのは、私の人生で一番暗い日々だった。両親は海外で仕事ばかり。見た目が整って成績も良かった私
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