幼なじみが初恋の女のために七度目の結婚式延期を決めたそのとき、私・宮本菜々(みやもと なな)はふっと、もうこんなのくだらないと感じてしまった。病院に駆け込んで山田陽介(やまだ ようすけ)を見つけ、最後の確認をした。まだ私と結婚する気があるのかって。彼はベッドに横たわる永井美桜(ながい みお)に、気のない手つきでリンゴの皮を剥いていた。「菜々、もう子どもじゃない。わきまえろ。結婚式なんていつでもできる。けど、美桜は病気だ、ここは手を抜けない」皮むきナイフが彼の指先でカリカリと小さな音を立てる。だが私の耳には耳をつんざくほど響いていた。「じゃあ、花婿を変えるだけよ!」彼の手が一瞬止まり、すぐに笑ってみせた。「好きにしろ!」陽介の返事を聞いて、私は目を閉じて、込み上げる涙を押し込んだ。この結果は、正直あまり驚きじゃなかった。答えはだいたい予想していた。だって、美桜が彼の中で占める重さは、私の一生では埋められない。最初に結婚式が延びた理由は、美桜が足をくじいたから。二度目も、足をくじいたから。三度目、四度目、そして今日の七度目まで。同じ言い訳を七回。取り繕いすらしない。なのに陽介は全部信じた。私たちの結婚式を冗談みたいに、きっちり七回も先送りにした。乾いて痛む目を瞬かせ、込み上げる感情を飲み込みながら、悔しさのままぶつけた。「陽介、彼女がわざとだって、気づかないはずないよね。私たちが式の準備を始めるたび、彼女は足をくじく。そんな都合のいい話、どこにあるの」彼はリンゴの皮をくるくる剥き続け、気にも留めない。その細かな音が、細い針になってびっしり胸に刺さる。痛みが途切れない。「だから何だ。たとえ可能性がほとんどなくても、俺も起こさせない。美桜はダンサーだ。本当に足をやったら、一生が終わる」その言葉に、私の胸の中がひやりと苦くなった。彼はいつも美桜のことばかり気にかけ、私のことなんて少しも思いやろうとはしない。昔はそんな人じゃなかったのに。私のことを一番に考えてくれて、朝寝坊する私のために朝ごはんを買ってきてくれたり、生理の時には生姜湯と生理用ナプキンを用意してくれたり。でもそのすべては、美桜が現れた瞬間に変わってしまった。私はもう大切でもなく、唯一でもなく
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