All Chapters of 幼馴染の、七度目の婚約破棄: Chapter 1 - Chapter 8

8 Chapters

第1話

幼なじみが初恋の女のために七度目の結婚式延期を決めたそのとき、私・宮本菜々(みやもと なな)はふっと、もうこんなのくだらないと感じてしまった。病院に駆け込んで山田陽介(やまだ ようすけ)を見つけ、最後の確認をした。まだ私と結婚する気があるのかって。彼はベッドに横たわる永井美桜(ながい みお)に、気のない手つきでリンゴの皮を剥いていた。「菜々、もう子どもじゃない。わきまえろ。結婚式なんていつでもできる。けど、美桜は病気だ、ここは手を抜けない」皮むきナイフが彼の指先でカリカリと小さな音を立てる。だが私の耳には耳をつんざくほど響いていた。「じゃあ、花婿を変えるだけよ!」彼の手が一瞬止まり、すぐに笑ってみせた。「好きにしろ!」陽介の返事を聞いて、私は目を閉じて、込み上げる涙を押し込んだ。この結果は、正直あまり驚きじゃなかった。答えはだいたい予想していた。だって、美桜が彼の中で占める重さは、私の一生では埋められない。最初に結婚式が延びた理由は、美桜が足をくじいたから。二度目も、足をくじいたから。三度目、四度目、そして今日の七度目まで。同じ言い訳を七回。取り繕いすらしない。なのに陽介は全部信じた。私たちの結婚式を冗談みたいに、きっちり七回も先送りにした。乾いて痛む目を瞬かせ、込み上げる感情を飲み込みながら、悔しさのままぶつけた。「陽介、彼女がわざとだって、気づかないはずないよね。私たちが式の準備を始めるたび、彼女は足をくじく。そんな都合のいい話、どこにあるの」彼はリンゴの皮をくるくる剥き続け、気にも留めない。その細かな音が、細い針になってびっしり胸に刺さる。痛みが途切れない。「だから何だ。たとえ可能性がほとんどなくても、俺も起こさせない。美桜はダンサーだ。本当に足をやったら、一生が終わる」その言葉に、私の胸の中がひやりと苦くなった。彼はいつも美桜のことばかり気にかけ、私のことなんて少しも思いやろうとはしない。昔はそんな人じゃなかったのに。私のことを一番に考えてくれて、朝寝坊する私のために朝ごはんを買ってきてくれたり、生理の時には生姜湯と生理用ナプキンを用意してくれたり。でもそのすべては、美桜が現れた瞬間に変わってしまった。私はもう大切でもなく、唯一でもなく
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第2話

病院で無駄に揉める気はなく、私は踵を返してそのまま出ていった。道でタクシーを待っていると、まさかの陽介が追いかけてきた。彼の目はわずかに不安を帯び、柔らかい声で私をなだめる。「菜々、今日のことは偶然だよ、美桜を責めるなよ。それに結婚式なんていつでもできるだろ。ホテルが逃げるわけでもないし、気にするなよ!」やっと押し殺した怒りを、その一言が再び引きずり出した。私は冷ややかに笑い、皮肉を込めて睨む。「彼女を責めないなら、責める相手はあなたしかいないよね。結婚式を延ばしたのはあなたなんだから!」陽介は気まずそうに笑い、私を見る目は痛ましさと優しさ、そして少しの罪悪感で満ちていた。「俺が悪かった。全部俺のせいだよ。だけど美桜はこの町で一人なんだ。友達として見捨てられるわけないだろ。お前は小さい頃から優しくて、人の気持ちを考えられる子だった。だから俺の気持ち、分かってくれるはずだ」まるで正義の味方のように言い切る彼を前に、私は奥歯を噛み、唇の端を思い切り噛み破った。口の中に広がる血の匂い。陽介が美桜を庇ってきたのは、これが初めてじゃない。彼が丁寧に美桜のためだけにリンゴを剥くことも、私には一度も向けられたことがなかった。陽介がこれまで培ってきたモラハラの手口は、余すところなく私に注がれていた。徹底的に私を追い詰め、自分を疑わせ、反省ばかりさせるように。ある夜、私は高熱で苦しみ、深夜に彼へ電話をかけ「病院へ連れて行って」と頼んだ。だがあいにく陽介は美桜と一緒に語り合っていた。彼は「美桜がショックを受けていて、俺が支えてやらないといけない」と言い、私に一人で行けと突き放した。そして当然のように言い放つ。「菜々、お前はもう大人だろ。自分のことは自分でやれ、人に頼るな。もし俺が病院に付き添ったせいで、美桜が衝動的に自分を傷つけでもしたら、お前は後悔するだろ?」けれど、私たちが結婚式を準備するたびに、美桜から一本の電話がかかると、彼は誰よりも早く駆けつけた。まるで翼でもあれば飛んで行きそうな勢いで。「俺に依存するな」と口にする一方で、彼自身は美桜を自分の一部のように傍に置きたがる。「美桜が呼んでる。彼女は一人で怯えてるんだ!」そんな言い訳までして。私は思わず自嘲の笑みを浮かべた。「理解な
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第3話

家に戻った私は、携帯を取り出した瞬間に家族のチャットグループがまた大騒ぎになっているのに気づいた。原因はもちろん、陽介がまたしても結婚式を延期したことだった。親戚や友人から理由を尋ねるメッセージが次々に届き、両親からもひっきりなしに電話がかかってきた。私が今回は本気で心を決め、別の相手と結婚すると告げると、両親は一瞬言葉を失った。幼い頃からの幼馴染で、大人になってからは十年も追い続けてきた相手だからだ。「菜々、本当に決めたのか?決めたなら父さん母さんがもっといい相手を紹介してやるよ」「……うん、今回だけは任せる。できれば今回の結婚式は中止せず、そのまま進めてほしい」両親はすぐに私の意図を察し、電話を切ると同時に結婚式の準備を整え始めた。友人たちも陽介がSNSに上げた【結婚式延期】の投稿を見て、次々に私に事情を尋ねてきた。私は話を早く終わらせたくて、自分のアカウントでこう一言だけ投稿した。【結婚式は続行!】その投稿から間もなく、私の携帯は鳴りやまなかった。陽介からの電話だ。出た瞬間、耳をつんざく怒号が飛び込んできた。「菜々、お前話が分からないのか?結婚式は延期だって言っただろ!何勝手に進めてんだ!結婚式当日に花婿が現れず、一人で立たされて笑い者になりたいのか!」電話口からはすすり泣きも聞こえてきた。考えるまでもなく、その原因は美桜の涙だと分かった。「いいのよ陽介、あなたは結婚して。私一人で病院にいればいい。気にしないで、踊れなくなっても仕方ないわ」美桜の声は慰めるふりをしながら、実際には火に油を注いでいた。そのせいで陽介は完全に理性を失い、私が一言も返さないうちに電話を切った。眠りに落ちかけた頃、突然体が宙に浮き、そのまま床に叩きつけられた。背中と後頭部に激痛が走り、視界が真っ白になる。必死に目を開けると、怒りに染まった陽介の顔があった。彼は私の手首を乱暴に掴み、床の上をずるずると引きずった。私は必死に抵抗し腕を叩いたが、彼は微動だにしない。リビングまで引きずられ、ソファに足を引っかけてようやく止まる。だが立ち上がろうとした瞬間、頭皮に鋭い痛みが走った。陽介が私の髪を鷲掴みにして、力任せに持ち上げたのだ。耳元で荒い息遣いと冷たい警告が突き刺さる。「俺は言
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第4話

陽介が去った後、私は病院へ行き、診察を受けた。出血が多かったせいか、病院に着いて階段を上がる時、意識が飛びかけた。幸い、医者が間に合って支えてくれた。「大丈夫ですか?」声が耳に届き、私は一瞬、陽介かと思った。だが違うとすぐに分かる。見上げると、見覚えのない顔なのに、どこか懐かしかった。「菜々、我慢して。すぐに検査へ」その声は不思議と安心感をくれた。私は力尽き、目を閉じた。目を覚ますと、ベッドの上だった。目の前の男が水を差し出し、自己紹介をした。「まだ分からないかな。俺は木村慎吾(きむら しんご)だ。君の婚約者だよ」婚約者、という言葉でやっと思い出した。両親が見せてくれた写真の中に、この顔があった。病室で彼とたくさん話した。彼は私の怪我のことを聞き、私は陽介とのことも隠さず話した。彼の目に一瞬、同情の色が浮かんだのを私は見逃さなかった。子どもの頃、よく近所の家に預けられていた少年。私は彼の後を追いかけて遊んでいた。だがその家は引っ越してしまい、私は長い間泣いたのだった。診察で大事ないと分かり、退院することに。その間、陽介からの連絡は一度もなかった。そして退院の日。病院の出口で、思いがけず陽介と美桜に出会った。陽介は彼女を支え、私は頭に包帯を巻いた姿で一人歩いた。背後から陽介の声が響いた。「菜々、入院してたのに何で言わなかったんだ!世話したかったのに!」彼の背後にいた美桜も歩み寄り、当然のようにその腕に絡みついた。「そうよ菜々。もしあなたが入院してるってわかってたら、陽介を行かせたのに。ひとりで入院なんて寂しいでしょ?それとも陽介に隠してることがあるんじゃない?」その言葉に、私は眉をひそめる。ただの何気ない一言だとわかっていても、私がわざと隠していたことを突かれた気がした。幸い陽介も違和感を覚えたのか、不機嫌そうに眉をひそめて彼女を叱った。「美桜、適当なことを言うな。菜々が俺に隠し事なんてするわけないだろ!」美桜は舌をちょろりと出し、勝ち誇ったような顔を浮かべた。陽介はまた甘い笑みを返す。二人が人目もはばからず甘く絡み合う姿を見て、その手が一秒たりとも離れようとしないのを見て、私ははっきり悟った。私と彼の物語はもう終わった。
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第5話

彼の手に引かれるまま歩き出そうとした時、陽介の顔が一瞬で凍りついた。驚愕の眼差しで慎吾を見、それからまた私に視線を戻す。「そいつは誰だ? なんで手を繋いでる?菜々、お前一体何を考えてる!」私はよく知っている。これは陽介が動揺している証拠だ。私は深く息を吸い込み、平静に告げた。「もう言ったはずよ。私は結婚するつもり。でも花婿はあなたじゃない!陽介、私たちはもう終わったの!」その言葉に、彼の体が震えた。顔には隠しきれない動揺と狼狽が広がる。さっきまで私を喰い殺しそうなほどの怒りを見せていたのに、今は慌てふためく表情しかない。美桜の手を振り払い、一気に私の目の前に詰め寄る。無理やり柔らかな笑みを作り、情けを帯びた顔を見せる。「菜々、脅かすなよ。俺たちは十年も一緒にいたんだ。そんな簡単に、お前がほかの男のために、俺たちの愛を捨てるなんてありえないだろ」彼の目には涙がにじんでいた。だけど私の心は冷えきっていた。そう、彼も十年という時間をわかっていた。なのに七度も結婚式を延期し、結局何も結果を残さなかった十年。美桜も慌てて駆け寄り、陽介の腕を掴む。「陽介、騙されないで!菜々はあなたを試してるのよ!私が気に入らないから、わざとあなたを惑わせてるの!この嫉妬深い女、もし本当にあなたと結婚しても絶対に幸せになんてなれないわ!」彼女の顔には怒りと侮蔑、そして涙まじりの演技。陽介は立ち尽くし、私と美桜の間で揺れ動いていた。その一瞬、私は痛感した。いまこの場でさえ、美桜の言葉ひとつで迷う男なのだと。私は静かに彼の視線を受け止め、苦く首を振った。「信じるかどうかはもう関係ない。私には説明する義務なんて残ってない。陽介、これからはあなたはあなたの道を、私は私の人生を歩む。もう何の関わりもない」言い終えて、彼に背を向ける。病院を出るとき、背後には陽介の声が響き渡った。必死に私の名を呼ぶ声。だが彼の足は美桜に縛られ、動けなかった。車に乗り込むと、ハンドルを握った慎吾が横目で私を見る。「十年の想いを断ち切って、本当に後悔はないのか?」私は窓の外を見つめ、流れる景色を目に映した。後悔しないはずがない。十年もの歳月。青春の最も美しい十年を捧げたのだから。高校から
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第6話

その日以来、陽介はもう二度とマンションに現れなかった。警備員に出入りを禁じられたのか、あるいは私が絶対に中に入れないと分かったのか、とにかく忽然と姿を消し、音沙汰もなくなった。そして迎えた私と慎吾の結婚式当日。式の途中、指輪を受け取ろうとしたその瞬間。ガシャーン!赤ワインのグラスが遠くから投げられ、バージンロードの壇上で粉々に砕け散った。ざわめく人波をかき分け、陽介が姿を現す。悲痛な眼差しで私を見つめ、声を震わせた。「なぜだ……菜々!十年の想いを捨ててまで、感情のない相手と結婚しようとするんだ!」私は落ち着いて慎吾の指輪を受け取り、左手の薬指にはめた。陽介は苦悶の表情でその一部始終を見つめ、恐慌と絶望が入り混じった顔で今にも崩れ落ちそうになる。「私はもう言ったでしょ、花婿を変えるって。あなたもその時は同意したじゃない。今さら私がこうしてるのは、ただ望み通りにしただけよ!」彼の体がふらつき、今にも崩れ落ちそうになった。隣にいた人が慌てて支える。陽介は歯を食いしばり、哀願するような目で私を見つめ、震える声を絞り出した。「もう嫌だ、菜々……戻ってきてくれないか?」子どもが駄々をこねるみたいなその言葉に、私は思わず笑ってしまった。指先で式場をぐるりと示す。そこには数百人の親戚や友人たちが集まっている。「今日は私の結婚式。みんな見てるのに、あなたが嫌だって言ったからって私が戻るとでも思ってる?陽介、自分で考えてみて。その言葉がどれほど滑稽か」一瞬で彼の目に涙が溢れ、真っ赤に潤んだ瞳で私を見つめてくる。顔は血の気を失い、必死にしがみつこうとする。混乱しきった末、最後には歯を食いしばり、声を張り上げた。「じゃあ……俺がお前を娶る!菜々、今日、俺たちが結婚すればいい!」その瞬間、私は耳を疑った。大げさな冗談のように響き、思わず苦笑が込み上げる。結婚。実はずっと、彼と結婚する未来を夢見ていた。初めてその話をしたときから、何度も妄想してきた。私たちの結婚式は盛大に行われるのだろうか。たくさんの親戚や友人が私達をからかうのだろうか。披露宴の迎え入れの場面で、彼は多くの試練にどう答えるのだろうか。そんな数えきれない問いかけも、いつしか胸の奥で一粒の塵となって消え落
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第7話

私はまだ緊張はしてたけど、心配でそのまま車を降りた。そしたら、顔じゅう血だらけの陽介が地面にうつ伏せていた。彼は必死に目をこじ開け、血まみれの右手で私のズボンの裾をつかんだ。「菜々、あいつと結婚しちゃだめだ!どうして俺を置いて他の男と結婚できるんだ!お前がいなきゃ、俺は死ぬ!」陽介だとわかった瞬間、私は思わず失笑した。足でその手を蹴り払って、慎吾に救急車を呼ばせてから、冷たく言った。「陽介、手に入らないなら壊すつもり?私に本当に轢き殺されなきゃ、諦めないわけ?」私の怒りに気づいたのか、陽介は唇を固く結び、うつむいたまま何も言わない。私ももう、言い合う気力はなかった。さっきの恐怖が引いたあとでも、まだ胸のざわつきは残っていた。幸い、さっきはスピードを出していなかった。陽介はひどく傷ついていたが、命に関わるほどではなさそうだった。ほどなく救急車が来て、陽介は病院へ運ばれた。それでも彼は乗車を拒み、私の腕にすがりついて泣き喚き、「悪かった、もう一度だけチャンスを」と繰り返した。ついに出血で顔色がさらに悪くなるのを見た慎吾が、私に同乗してくれと言うので、車で病院までついていき、陽介もようやく観念した。手当てが終わるや否や、どこで嗅ぎつけたのか美桜が現れた。彼女は陽介を心配そうに見て、私には憎々しげな目を向け、皮肉を吐いた。「陽介、菜々にその気がないんだから、もう追いかけるのはやめなよ。今回は運がよかっただけ。次は命があるかどうか、わからないよ?」その言葉が終わるか終わらないかのうちに、陽介の手が不意に振り上がり、平手が彼女の頬を打った。「誰の許可で来た?菜々がお前を嫌ってるの、見たくないって言ってるの、わかってて近づくな!どんだけ図太いんだよ。言ってもやめない、叩いても引かないのか?」私は呆然とした。陽介が初恋の人にこんな仕打ちをするなんて、想像もしなかった。美桜も想定外だったらしく、私を一言なじっただけで平手を食らい、目を見開いて陽介を見つめる。それから憎悪に満ちた視線を私に向け、今にも噛みつきそうな目で睨みつけた。「陽介、私はあなたのためを思って言ったのに!なのに彼女のために私を叩くの?」いつもは甘やかす陽介が、今日は冷笑を浮かべる。目は冷え切って、昔のぬくもりなんて
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第8話

病院を後にした美桜は、最後に吐き捨てるように言葉を残して、ふらつきながら逃げるように去っていった。私ももう、陽介とこれ以上関わる気はなかった。「後のことは保険会社が連絡してくるわ。私に連絡する必要はないし、連絡されても会わないから」陽介の考えを先回りして、釘を刺すように言い残し、その場を離れた。残された陽介は傷ついた顔で、口を開いては低いうなり声を漏らし、まるで魂が抜けたように絶望していた。その後の私は、再び穏やかな日常を取り戻したかのようだった。陽介は諦めたのか、ぱったり消息を絶った。過去と決別するため、あの部屋を売り払い、慎吾の家へ移り住んだ。最初のうちはどこか落ち着かず、夜も別々の部屋で眠った。だが慎吾は無理に踏み込むこともなく、私の居場所と時間を尊重してくれた。一緒に過ごす時間は次第に心地よさを増し、ある日ふと気づいたら、肩の力がすっかり抜けていた。ソファに横たわり、キッチンで料理する慎吾の姿を眺めながら、こういう日々なら一生でも悪くないと思った。しかし、その安らぎは長くは続かなかった。ある日、警察署からの一本の電話が、平穏を破った。また陽介が何か騒ぎを起こしたのかと思ったが、受話器から告げられたのは「陽介の行方を知っているか」という問いだった。警察署に駆けつけると、すでに日は暮れていた。説明を受けて知ったのは——陽介が半月もの間、行方不明になっているという事実だった。どうりで、このところまったく消息がなかったわけだ。連絡がつかないことを不審に思った親族が、ついに捜索願を出したという。監視映像を確認して初めて知った。あの日、私が病院を後にしたすぐ後で、陽介も退院していたのだ。だが、退院を境に彼の消息はぷつりと途絶えた。最後に彼と話し、会ったのが私だったから、私はすべてを警察に伝えるしかなかった。その時、美桜が吐き捨てたあの言葉を思い出し、全身に寒気が走る。嫌な予感は当たってしまった。まもなく、美桜の自宅から陽介の居場所が判明する。彼は家に監禁され、手足を鎖で縛られ、携帯も取り上げられ、生き地獄のような状態にあった。警察が駆けつけた時には、すでに彼の顔色は土気色で、痩せ細り、目の下はくぼみ、栄養失調そのものだった。それでも彼は私を見つけ、必死に怒鳴っ
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