江本翔太(えもと しょうた)と付き合って七年目、それでも彼はまだ私上原結衣(うえはら ゆい)を妻に迎えようとはしなかった。 ある日、私は彼に言った。 「翔太、私ね、結婚することにしたの」 彼は気だるそうに眉をひそめて、ちゃんと聞いていたのかどうかも分からなかった。 「結衣、今は会社が上場の段階に入っててな、もう手一杯なんだよ。だからそんなどうでもいい話をする気分じゃない!」 私は落ち着いたまま笑みを浮かべた。 きっと翔太の目には、私が彼に結婚を迫っているように映っただろう。 けれども、本当に私は結婚するつもりなのだ。 しかも、その相手は彼ではない。 ……「大丈夫よ、あなたは仕事を頑張って。今日はただ、知らせに来ただけだから」 私は淡々と笑みを浮かべながら、翔太の正面の椅子に腰を下ろした。 その言葉を聞いた途端、彼はようやく視線をこちらに向け、じっと長い間見つめてきた。 かつて、彼は同じように私だけを目に映していた。 ただ一つ違うのは、その瞳に宿っていた熱が、もうとうに消え失せていること。 私と翔太は大学の同級生。 今日という日は、ちょうど私たちが出会い、付き合い始めて七年目の記念日だった。 大学四年間、卒業してから三年間。 きっと彼はもう今日がどんな日なのか忘れている。 あの頃の燃えるような情熱は今ではすっかり冷め切って、薄まった水のようになってしまった。 七年も彼の彼女でいながら、結局まだ「結婚しよう」という一言さえもらえない。 私は馬鹿じゃない。何も分かっていない女でもない。 男が七年も答えを先延ばしにすること――その裏に何があるかなんて、考えなくても分かる。 翔太は一瞬だけ固まったが、やがて面倒そうに口を開いた。 「結衣、前にも言っただろ。会社が無事に上場したら、ちゃんとお前を嫁にもらうって。だからいつまでも同じ話を持ち出すなよ」 そう言って、冷ややかな視線を私に横目で投げた。 「そんなに結婚したい?もう嫁ぎ遅れるのが怖いのか?」 短い一言なのに、その刃のような言葉で全身に冷たいものが走った。 大学の四年間、今のように裕福ではなかったが、あの頃は心から満たされていた。 二人で未来を夢見て、アルバイトで小遣いを稼ぎ、ワンコイン弁当を一緒に分け合っ
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