All Chapters of 元悪役令嬢ですが、断罪カフェで人生を焙煎し直します: Chapter 11 - Chapter 20

24 Chapters

第11話 ざまぁからの復讐ルートは、阻止します

「転生前……だと?」 「ええ、そうです。転生前のわたくしは、このような世界を物語として知っていました。なので、わたくしは自分の置かれている状況を物語として見ることができるのです。信じてくださいますか?」 「物語……にわかには信じがたい話ではある……が君は嘘を吐くような人間ではない。それに君にとって大事な断罪カフェのことだ。信じよう。君の瞳にはこれまで以上に強い意志が宿っている」  王子は微笑みうなずくと、わたくしに先を促しました。 「王子、今からわたくしは物語の登場人物になりきり、ある役を演じます。わたくしの目論見が正しければ、必ず教会の説得もできるはず。……協力していただけますか?」 「無論だ。断罪カフェは、もはやただのカフェではない。私にとっても君にとっても、そしてこの国の未来にとっても必要な居場所。全力で守ることを誓おう」  わたくしは礼を述べると、王子に作戦のすべてをお話ししました。王子の目が丸くなります。 「……なんだと、この件の裏にそんな陰謀が?」 「ええ。間違いないと断言します。わたくしはこれまで断罪ルートからざまぁルート、そして──」  王子との溺愛ルートはわたくしの心の中に閉じ込めておきましょう。 「と、物語でよくあるルートを順調に通ってきています。なので、次に起こることはざまぁからの復讐ルート……ですが、王子もし万が一私の推測が間違っていたら──」  レオナール様は、当然だ、と言わんばかりにふっと笑みをこぼしました。 「もはや君なしには、国の改革もできない。喜んでともに追放の憂き目にあおう」  レオナール様のその言葉を聞いて、わたくしの勇気が奮い立ちました。 「で
last updateLast Updated : 2025-09-17
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第12話 陰謀の香りは、濃く深く

 リディア、待っていてほしい。断罪カフェを守るため、首尾よくことを進めよう。  私は、リディアと別れたあとすぐに王宮へと戻った。自室へ戻ると専属執事を部屋に呼ぶ。 「秘密裏に調べてほしいことがある。司教の面談記録だ。ここ一月の間に誰と面会したかすべて知りたい。早急に頼む」  執事が部屋を出ると、フードを脱いでソファに置いた。  リディアの推測は、司教を動かした人物が裏にいるというものだ。断罪カフェをつぶし、リディアを二度目の追放の憂き目に合わせようとしてる者が事件の背後にいる。  あろうことかリディアは、その者を自身の父親──つまりはグレイス候だと断定していた。物語の筋書をなぞればそれが一番しっくりくる、と。  だが。  私はソファに座ると、足を組んだ。落ち着かない。リディアの話を聞いて熱くなった体がまだ冷めていない。  実の父親が娘を苦しめる。果たしてそんなことをするだろうか。それも、司教と結託し神の名を持ち出してまで……。  リディアは大勢の貴族の前で辱めを受けたのだ。いわれなき罪を着せられ、断罪。セドリックとの婚約破棄だけでなく貴族社会から追放された。  断罪カフェはそんなリディアのささやかな幸せだ。グレイス候は、それすらも奪おうというのか?  突然、考えを邪魔するように扉がノックされる。 「なんだ? 今、立て込み中──」 「レオナール。断罪カフェについて、話がある」  私は驚いて立ち上がっていた。断罪カフェの名称が出たことだけではない。扉の後ろから聞こえてきた声は、我が父──つまり国王の声だったからだ。  
last updateLast Updated : 2025-09-18
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第13話 母娘の秘密の会話ですわ

 使用人のみなさんの間に緊張が走るのがわかりました。わたくしは、背筋を正してみなさんの前へ歩み出ました。 「……お母様。わたくしは──」 「断罪カフェなる不徳なものを開いているそうですね。汚らわしい」  お母様はわたくしの言葉を遮ると、罵声を浴びせました。お父様とは違い、静かな声ですが心底嫌っていることがうかがえます。 「こちらへ来なさいリディア。さあ、みなさんは休まず仕事を続けてください」  足が震えます。ですが、ここで負けるわけにはいかない。今度は逃げるわけにはいかないのです。 「リディア様……」  クラリスがわたくしの腕に触れました。その手に手を重ねると、笑顔を浮かべます。 「問題ないですわ、クラリス。それより、みなさんからお話を」 「わかりました」  クラリスは頭を下げて後ろへ下がりました。まるで、昔に戻ったようです。 「リディア」 「今、参ります。お母様」  わたくしは意を決して、お母様の後をついていきました。  お母様は、やはり断罪カフェのことを知っている。お母様が知っているということは、もちろんお父様もご存知のはず。 「こちらへ」  部屋の前に立ち止まると、お母様はドアを開けてわたくしを通しました。 わたくしが入るやいなや、急いでドアを閉め、鍵もかけました。  ここは、お母様の部屋。わたくしとお母様以外は誰もいない。ここへ通したということは──。 「
last updateLast Updated : 2025-09-19
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第14話 もう一人の黒幕は、やはり

「リディア様。その、もう一人というのはいったい……」  わたくしとクラリスは、帰りの馬車に乗って急いでカフェへと戻りました。明日には、教会を相手に断罪カフェが神を騙っているわけではないこと──つまりは無罪を勝ち取らなければいけない。 「目星はついていますが、やることは同じです。リディア、使用人のみなさんはなんとおっしゃっていましたか?」 「みなさん、協力してくれると言っていました。グレイス様の話は、屋敷で筒抜けだったのでみんな心の中で怒っていたみたいです。リディア様をこれ以上苦しめるのかって」 「ありがとう、クラリス……」  本当に。胸が熱くなります。セドリック様から断罪を受けたとき、わたくしは独りぼっちでした。ですが、今はこんなにもわたくしを思ってくださる人がいる。味方がいる。  それにわたくしには今、レオナール様という強力な味方がいます。カフェにはきっとレオナール様が待ってくださっているはず……。  馬車の窓を開けると、もう住み慣れた街の香りがしてきます。レオナール様と一緒に飲んだコーヒーの味が思い出されました。 *  しかし、カフェの扉を開けると王子はいませんでした。中にいたのは──セドリック様です。  セドリック様はわたくしが来たことに気がつくと、ゆっくりと振り返ります。その顔にはニヤリと意地の悪い笑みが浮かんでいました。 「リディア」  名前を呼ばれるだけで吐き気を覚えます。何をしたのかおおよその察知はもう、ついているのです。 「王子は来ないぞ。今日だけではなく二度と来ない。俺が直々に国王に面会したからな」 
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第15話 陳腐な物語は、嫌いですわ

 わたくしは耳を疑いました。あまりにも乱暴なやり方で寄りを戻そうとしているのですから。 「セドリック様。ご自身の言ったことをわかっているのですか?」 「もちろん、わかっているさ。今ならもう一度やり直せると思うんだ。リディア。こう見ると、前よりも綺麗になった」  視線が汚らわしい。まるで野獣のようですわ。だいたい、この間は給仕のかっこうなんて、と馬鹿にしていたではありませんか。今のセドリック様に紳士さの欠片も感じられません。  わたくしは大きくため息をつきました。冷静になった頭で考えます。断罪、追放からのざまぁ、そして復讐かと思いきや復縁を迫られるルート。物語として完璧ですわ。  ですが、物語だとしても不愉快です。  わたくしが思考を巡らせている間に、セドリック様は距離を詰めてきました。もう見たくもない顔が間近に迫ります。 「さあ、リディア。俺の手をつかんで新しい人生を始めよう」  差し出された手を、わたくしは思い切りはたきました。 「お断りしますわ。わたくしの相手はもう決まっているのです。それに、大方エリス様と上手くいかなかったからわたくしに接近しようとしているのでしょう? 下品な言い方になってしまいますが、なめるのもいい加減にしていただきたい」  セドリック様は、一瞬ポカンと呆けたような顔をしました。ですが、すぐに火がついたようにその顔を真っ赤にされました。 「なんだと! 無礼な! エリスは俺が振ったんだ!」 「無礼なのはどちらでしょうか。裏でこそこそとカフェを潰す算段を立て、挙句の果てに婚約破棄した女性に再度婚姻を申し込む。失礼極まりないですわ。エリス様もそんなあなたを見限ったのに違いありません」 「うるさい! いいか、
last updateLast Updated : 2025-09-23
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第16話 王子への気持ちは、溺愛ルートです

「神父が何用だ!? 今、俺はここでリディアと話をしてるんだ!」 「教会の領域は私の領域ですが。同時に神の領域でもあります。ここで、騒ぎを起こすおつもりですか?」  あくまでも冷静に神父様は返しました。 「いいのか、司教はお前のことも目につけている」 「構いません。私が仕えるのは神のみ」 「ぐっ……」  神父様の言葉にセドリック様は何も言い返せなくなり、唇をかみました。そして──。 「まあ、いい。どうせ明日にはこんなカフェは潰れてしまうんだ! 今日一日、今までの罪と向き合ってるんだな!」  見事な捨て台詞を吐いて、乱暴に扉を開けて外へと出ていきました。  はぁ、と思わず息がもれます。 「神父様。危ないところをありがとうございました」 「いや、困っている者を救うのは私の務め。……して、断罪カフェを救う手立ては見つかったのかな、リディア嬢」 「それが、ダメなんです」  クラリスが弱気の返事をします。 「王子が国王様に脅されているみたいで。王子の証言が肝心だったのに……。ああ、もうこのカフェがなくなったら、どうしよう! お嬢様と二人、どこかでメイドの仕事でも──」 「問題ないですわ」 「えぇっ!? でも、そんなこと言ったってリディア様!」 「あの方は、わたくしを裏切るようなことはしません」 「なんでですか? なんでわかるんですか!?」
last updateLast Updated : 2025-09-24
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第17話 断罪か、赦しか──悪役令嬢の舌戦ですわ

「はい。このわたくしが、グレイス伯爵家の嫡子、リディア・フォン・グレイスですわ」  ドレスの裾をつかみ、ゆるやかな礼を──久しく遠ざかっていた貴族としての立ち居振る舞いをあえて見せつけました。 「あの、グレイス伯爵家の……? しかし、この記録には身分の記載が──」 「大司教ともあるお方が失礼ですわね。わたくし、ありもしない罪で断罪されてから、正式な身分が抹消されたのです。ですが、この血筋は正真正銘、グレイス伯爵の娘。父をお呼びすれば、すぐに証明ができますわ」  大司教の背後のベスティアン司教様がわずかに肩を震わせるのを、わたくしは見逃しませんでした。さあ、第一手──わたくしの真の立場の提示、完了です。  静まり返った場に、もう一度大司教様の声が落ちます。 「これは、失礼しました。……では、改めてリディア様。あなたの店、断罪カフェに関する疑義。それを我々は調査の上、閉鎖を勧告する判断を下しました。しかし、弁明の機会は設けましょう。どうぞ、お話しください」 「ご寛大な御心。痛み入りますわ。──ですがこれは弁明ではありません。教会とわたくし、どちらが真実を語っているのか。それを証明するために、わたくしはここに立ちました──言うならばそう、舌戦《ぜっせん》ですわ」  一度わたくしが口を閉じると、わたくしの様子をうかがっている神父様と断罪カフェのお客様だけでなく、司教様の間にもざわめきが広がります。  ベスティアン司教様は、ハンカチを取り出し、額の汗を拭っていました。  ですが、司教様。怯えるのはまだ早いですわ。これからが本番です。  わたくしはわざと、司教様を見据えると口端に笑みを浮かべました。  大司教様の咳払いによ
last updateLast Updated : 2025-09-25
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第18話 見苦しい言い訳は、聞くに堪えません

 静かに椅子を引く音が響きました。立ち上がったのは──わたくしが最も信頼する常連にして、教会の内部を知る唯一の味方。神父様でした。 「異議あり、というわけではないが──」  神父様が、わたくしの横に並びました。 「私はこのカフェに何度も足を運びました。その度、自分の罪と向き合い、心を落ち着ける時間を得られたのです。決して赦しを与えられたのではない。罪と向き合い自分自身で赦しに気づいたのです」  再びのざわめき。司教様たちの中にも動揺の色が広がり、ベスティアン司教が眉をひそめます。 「神父、あなたも教会の一員だろう! 神に代わる赦しなどあってはならない」 「代わって──とは言っていない。私もこの教会でたくさんの人の懺悔を聞いてきました。だが、神は黙して語ることはない。私は思いました。静かに罪と向き合える、心と向き合える場所が必要だと」  司教様の手が、椅子の肘掛けを握りしめました。 「まさか、それがコーヒーなどと言うつもりでは?」 「はい。たかが一杯、されど一杯。リディア嬢の淹れるコーヒーの香り、熱、そして苦味が過去の記憶や想いを引き出し、心を開かせてくれることもある。……私も含め、何人もの人間がそこに救いを見たのです」  神父様が司教様たちに意見を言うのは並大抵のことではありません。その言葉に応えるように、他の常連客の皆様もぽつぽつと立ち上がり始めたのです。 「俺は──娘ともう一度話せるようになった」 「告白できずにいた罪を……やっと夫に打ち明けることができました」 「私も! 好きな人に自分の気持ちを……」 
last updateLast Updated : 2025-09-26
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第19話 悪役令嬢のように、気高く

「その通りですわね」  いら立つ司教様とは反対に、わたくしはゆっくりと口元に微笑みを浮かべました。物語の悪役令嬢が、そうするように。 「ですが、断罪カフェの話を持ち込んだのは司教様ではありませんね?」 「な、なにを言う!」 「ふふっ。焦りがわかりやすく顔色に出ていますわよ。──断罪カフェが神を騙る。それが事実なら大問題でしょう。しかし、それが事実ではないとしたら? 誰かが仕組んだ罠だとしたら?」 「誰かが仕組んだ? 罠? そんな絵空事、どこに証拠が──」 「まだ気づかれないのですか? 今、ここに集まったのはグレイス家の使用人の方達ですわ」 「「なっ……!?」」  司教様とセドリック様は仲良く一緒に驚きの声を上げました。 「……グレイス家、つまりはグレイス伯爵の使用人ということですな?」  大司教様が立ち上がり、みなさまに視線を向けます。 「大司教! 信じてはなりません! 私が──」 「ベスティアン司教。これだけ多くの民が押し寄せているのです。話をうかがわなければ、それこそ神に背くことになる──私はそう思いますが」  落ち着いた大司教様の言葉にベスティアン司教様は何も言い返すことができずに、その場に座りました。一方、セドリック様はお顔を真っ青にされています。 「あ、ああそうだ。申し訳ない、危急の用事を思い出しました。私はこれで失礼します」  震えた声でぼそぼそととってつけた嘘を述べると、セドリック様は慌てて教会の外へ出ていこうとしました。 「おや、
last updateLast Updated : 2025-09-29
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第20話 今、断罪のとき

 ざわつく教会。ことの重大さに気づいたお父様が一歩前に出て、無理に笑みを張りつけて言いました。 「……ま、待ってくれ。これは誤解だ」 「グレイス様。誤解ではありません。……大司教様。使用人を代表して私が証言をしても?」  眼鏡を上げると、大司教様は微笑みを浮かべてうなずきました。しかし、阻止するようにお父様は声を荒げました。 「やめろ! めったなことを言うな! お前たち、いつクビにしてもいいんだぞ!!」  脅し。とても卑怯な、貴族とは思えないやり方。お父様はそうやっていつも支配してきました。わたくしも含めてみんなを。  しかし、今度ばかりはそうはいきませんでした。わたくしたちがいるのは、教会。つまびらかに罪を明らかにする場所。  つまり、お父様の権威はここではなくなるのです。 「……クビにしていただいて構いません。私たちはグレイス様と司教様が、リディアお嬢様の断罪カフェを潰そうと密かにやり取りしているのを聞いていました。私一人ではなく、私たちリディア様の使用人全員が、その証人です」 「ち、違う! お前たちは誤解をしているのだ!」  情けない父の姿に、わたくしは哀しくなりました。あんなに大きかったはずなのに、今はとても小さく見えます。  なおも無理な弁解を続けようとするお父様の姿を見て、レオナール様は呆れたようにため息を吐きました。 「私の従者に調べてもらった。この一月の間に、グレイス侯とベスティアン司教は何度も不自然な面会を重ねている。それに、あなたはここへ来る際に嬉々としていた。娘の──リディアが再び断罪の憂き目にあうやもしれないというのに……」
last updateLast Updated : 2025-09-30
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