「お父様。あなたがわたくしを断罪しようとし、わたくしの店を嫌った理由は明白ですわ。家の名誉。己の体面。そして、追放したはずのわたくしが賞賛されていること。それが、赦せなかったのでしょう?」 「……リディア……!」 大司教様は、深く長く息を吐きました。 「残念ながら、断罪するべきものが誰なのか、もはや明白ですね──」 「お待ちください、大司教様。わたくしは父を断罪したくはないのです」 「リディア!」 わたくしはレオナール様に微笑みかけました。大丈夫です、と伝えるために。 「もし、今この場で父を断罪すれば、わたくしは自ら断罪カフェを否定することになります」 「うぅむ……」 わたくしの言葉に、大司教様が立ち上がります。眼鏡を外し、しばしの沈黙の後、思慮深げに口を開きました。 「なるほど……ならば、リディア様。私にも一杯、あなたのコーヒーをいただけますか?」 目を見開いたわたくしは、思わず姿勢を正し──悪役令嬢ではなくカフェの店主として頭を下げました。 「承知しました。心を込めてお淹れいたしますわ。しばし、お待ちください」 そして、わたくしはクラリスの名を呼ぶと、ドレスの裾を持って背筋を正したまま、扉へ向かいました。 扉の前ではセドリック様が、情けない困惑顔で立ちすくんでいます。 「…
Last Updated : 2025-10-01 Read more