恋人のウィリアム・ジョンズに結婚を願い出てから99日目、彼はようやく首を縦に振ってくれた。 しかし結婚式当日――彼はいつまで経っても姿を現さなかった。 やがて招待客の一人が、SNSに彼が一か月前に投稿した婚姻届の写真を見つけた。 そこで初めて知った。彼はすでに一か月以上も前に、幼なじみのキャロリン・アシュトンと結婚していたのだ。 私ダイアナ・ハーバーはその場に立ち尽くし、目の前の景色がすべて遠く霞んでいった。 周りでは次々とひそひそ話が聞こえてくる。 「ウィリアムってもう一か月も前に結婚してたの?じゃあダイアナって不倫女じゃない?」 「最近の不倫女って、こんな堂々と結婚式まで開けるの?」 「きっと相手に無理矢理責任を取らせたいんだろ。だからウィリアムも来なかったんだ。捨てられて当然だよ」 頭の中が真っ白のまま、群衆の中から突然悲鳴が響いた。 「誰か倒れたぞ!救急車を呼べ!」 声のした方向へ顔を向けると、血の気が一気に引いた。 そこに倒れていたのは……母だった。心臓病が再発し、そのまま意識を失ってしまったのだ。 母はもともと病状が重く、医者にはもう時間が残されていないと告げられていた。 私がウィリアムの子を身ごもったと知ったとき、母は「この子が生まれるまで持たないかもしれない」と呟いていた。 だからこそ、最後の願いは――私とウィリアムの結婚式を見届けることだった。 私は何度も何度も彼に結婚を迫った。 初日、キャロリンの猫が行方不明になったから探しに行かなきゃと彼は逃げた。 二日目、キャロリンの家の電気が壊れたから直しに行かなきゃと逃げた。 三日目、キャロリンが体調を崩したから看病しなきゃと言って逃げた。 ……そうして99日目、ようやく結婚を承諾したのに。 結局、彼は式場に現れなかった。 もしあの婚姻届の写真を誰かが発見しなければ、私はいまだに騙されたままだっただろう。 ウィリアム――あいつは筋金入りの大嘘つきだ。 私は手術室の前で延々と立ち尽くした。 ドアが開き、医者が現れ、無念そうに首を振り、尽力はしたと告げた。 頬を流れる涙は止められず、声を出そうとしても何も言えなかった。 私は永遠に母を失ったのだ。
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