奏多は私を後ろから抱きしめると、指を無造作に動かし私の身体を優しくなぞり、髪をかき分けてうなじにゆっくりと唇と這わせた。奏多の前髪が私の耳をくすぐる。「あ、んっ……」甘い吐息が漏れると、奏多は唇を離して顔を上げると目を細めて私に微笑んでくる。「遥……」私たちは見つめあいながら指や足を絡めていく。ちょっと汗ばんで湿った肌と少し乱れた吐息が、お互いを愛おしく求め合っているようで熱い熱に溺れていった。私は、この時間と関係がずっと続けばいいのにと瞳を閉じた。「―――――そんなことあるわけないだろ」低くて冷たい声が頭の中に響く。「っ……!なんだ、夢か……。」息を呑んで目を開けると、そこには見慣れた天井、誰もいない部屋が移りこんできた。そう、これはただの夢なのだ。住吉財閥の御曹司・住吉奏多と結婚して二年。奏多は、ほとんど家に帰ってこない。(奏多にとって、なくてはならない存在になれば私に振り向いてくれるかもしれない。)奏多に愛されたくて料理や身支度など身の回りのことは全て私が行い、誠心誠意尽くしてきたが、奏多の瞳に私が映ることは一度たりともなかった。しかし、奏多は私のことを愛していなくても帰ってくる度に抱いた。「勘違いするなよ。俺はお前に気持ちはない、好きでも何でもない。妻としての”奉仕”をさせたまでだ」抱き終わってすぐにそう口にする奏多の冷めた瞳を思い出す。その瞬間、甘い余韻は波のように静かに消え去り、奏多の心がここにはないことを痛感させるのだった。それでも、産まれてすぐに両親を亡くし施設で育ち、育ての親からも愛されずに使用人同然で扱われていた私にとって、奏多は初めてできた大切な家族で愛すべき人だった。この二年間、彼の優しい声や顔を見たくて、ただひたすら帰りを待ち続けていた。「はあ……どうすれば奏多は私に興味を持ってくれるのだろう。どうしたらこの関係が変わるんだろう」大きなため息をついて奏多のことを考えていると、ベッドサイドにある時計の針は九時を指していた。「あっ、今日は病院だった!急がないと遅れちゃう」慌てて飛び起きて服を着替え騒がしく階段を駆けおりると、執事が私の急いでいる様子に気がついて声を掛けてくれた。「奥様、お急ぎでしたら車を準備させます。」「悪いからいいわ。一人で行ってくる。」住吉家に嫁いで私も奥様と言われるようになったが
Last Updated : 2025-10-24 Read more