All Chapters of 離婚して、今さら愛してると言われても: Chapter 1 - Chapter 3

3 Chapters

1.甘い夢

奏多は私を後ろから抱きしめると、指を無造作に動かし私の身体を優しくなぞり、髪をかき分けてうなじにゆっくりと唇と這わせた。奏多の前髪が私の耳をくすぐる。「あ、んっ……」甘い吐息が漏れると、奏多は唇を離して顔を上げると目を細めて私に微笑んでくる。「遥……」私たちは見つめあいながら指や足を絡めていく。ちょっと汗ばんで湿った肌と少し乱れた吐息が、お互いを愛おしく求め合っているようで熱い熱に溺れていった。私は、この時間と関係がずっと続けばいいのにと瞳を閉じた。「―――――そんなことあるわけないだろ」低くて冷たい声が頭の中に響く。「っ……!なんだ、夢か……。」息を呑んで目を開けると、そこには見慣れた天井、誰もいない部屋が移りこんできた。そう、これはただの夢なのだ。住吉財閥の御曹司・住吉奏多と結婚して二年。奏多は、ほとんど家に帰ってこない。(奏多にとって、なくてはならない存在になれば私に振り向いてくれるかもしれない。)奏多に愛されたくて料理や身支度など身の回りのことは全て私が行い、誠心誠意尽くしてきたが、奏多の瞳に私が映ることは一度たりともなかった。しかし、奏多は私のことを愛していなくても帰ってくる度に抱いた。「勘違いするなよ。俺はお前に気持ちはない、好きでも何でもない。妻としての”奉仕”をさせたまでだ」抱き終わってすぐにそう口にする奏多の冷めた瞳を思い出す。その瞬間、甘い余韻は波のように静かに消え去り、奏多の心がここにはないことを痛感させるのだった。それでも、産まれてすぐに両親を亡くし施設で育ち、育ての親からも愛されずに使用人同然で扱われていた私にとって、奏多は初めてできた大切な家族で愛すべき人だった。この二年間、彼の優しい声や顔を見たくて、ただひたすら帰りを待ち続けていた。「はあ……どうすれば奏多は私に興味を持ってくれるのだろう。どうしたらこの関係が変わるんだろう」大きなため息をついて奏多のことを考えていると、ベッドサイドにある時計の針は九時を指していた。「あっ、今日は病院だった!急がないと遅れちゃう」慌てて飛び起きて服を着替え騒がしく階段を駆けおりると、執事が私の急いでいる様子に気がついて声を掛けてくれた。「奥様、お急ぎでしたら車を準備させます。」「悪いからいいわ。一人で行ってくる。」住吉家に嫁いで私も奥様と言われるようになったが
last updateLast Updated : 2025-10-24
Read more

2.星野麗華

リビングに入ると、奏多が小さい頃から憧れていた星野麗華がソファで鼻をすすりながら泣いていて、その隣で奏多が優しく彼女の肩を抱き慰めている。パッチリした二重の大きな瞳から流れる涙が、ゆるくまかれた髪にかかり濡らしている。奏多は私の存在に気づくと、麗華に向けていた愛しさ溢れるやさしい顔とは打って変わって憎しみを持った鋭い視線を送ってくる。「麗華になんてことをしたんだ。」「……なんのこと?何をそんなに怒っているの?」「お前、麗華の子供の命を奪おうとしただろ。」(麗華の子どもの命?そもそも麗華が妊娠していることすら知らないのに、何を言っているの?)奏多は、私の態度が気にくわなかったようで更に鋭く睨みつけてくる。「一昨日、お前が出したお茶のせいで麗華は体調を崩して病院に運ばれて、危うく流産するところだったんだ。どうせお前のことだから、麗華の飲み物に薬でも入れたんだろ。俺の時も、俺と結婚するために薬を使ったよな。お前は卑劣な手段も選ばない女だもんな」「何を言っているの?薬なんか一度も使っていないし持っていないわ!私がそんなことするはずないじゃない!」流産と聞いて森本医師の姿とその言葉を聞いた時の恐怖の気持ちが再び私を襲ったが、身に覚えのない話に私は必死で反論をした。しかし、奏多は一切耳を傾ける気はないらしい。「それなら、なんで麗華は体調を崩したんだ。」「知らないわよ。私はやっていないわ」「嘘をつくな!お前の言葉なんて信じられるか。今すぐ麗華に謝れ。」「やっていないのに謝るわけじゃない!それに何であなたがそんなに怒っているの?もしかして流産しかけたのは、あなたたちの子どもだったの?」私が問い詰めると、麗華は大粒の涙を流しながらに奏多の腕を掴んで、訴えるように言った。「もうやめて。これ以上、責めたりしないで。」「でも、コイツのせいで麗華もお腹の子も危険な目に遭ったんだぞ?」「そうだけど……私がもっと注意していれば、こんなことにはならなかったのよ。何の疑いもせずにお茶を飲んだ私が悪いの。私が、私がもっと注意していれば……。」言い終わると麗華は再び顔を両手で隠して号泣し始めた。あたかも私が薬をいれた前提で自分の不注意だと泣く麗華に、奏多は彼女の頭を撫でて自分の胸元へと引き寄せて慰めている。「だから私はやっていない!麗華の妊娠だって知らなかったし、命
last updateLast Updated : 2025-10-24
Read more

3.暴走

奏多side遥に離婚を告げてから、まっすぐ家に帰る気になれなかった。麗華を自宅まで送り届けてから、そのまま、友人の会員制クラブに酒を飲みに行った。――――――俺にとって、遥は人生を狂わせた憎い女でしかなかった。出会ったのは三年前の財閥の代表が集まるパーティーで、途中からひどい眠気と酔いに襲われ意識を失った俺は、目が覚めるとホテルの部屋のベッドで眠っており、隣には見知らぬ女がいた。それが遥だった。「痛い、頭が重いな。ここはどこだ、それにこの女は誰だ。」酒に酔うことなど滅多になく、あの日もそんなに酒は飲んでいない。誰かに薬を盛られたとしか思えなかった。見知らぬ女といるところを見られて誤解されるのは面倒だと思い、俺は静かに部屋を去った。しかし、数日後―――――。「住吉グループ期待の次期後継者・奏多、私生活は愛欲にまみれた自由奔放生活。深夜に一般人女性と密会」俺と遥がホテルの部屋を出ていく瞬間を週刊誌に撮られてしまった。ただのゴシップ記事で、数日もすれば世間は忘れるだろう――そう高を括って、俺は特に気にも留めていなかった。しかし、このスキャンダルが原因で住吉グループとの提携を予定していた成瀬グループが取引中止を検討すると発表し、株価は大幅に下落した。父は取引中止の阻止とスキャンダルを抑えるため、俺に遥との結婚を命じた。そして、住吉グループはマスコミの取材に対し“写真の女性は住吉家の婚約者であり、近日中に結婚式を挙げる”と正式に発表した――。妻の座を勝ち取るために、俺に薬を飲ませ利用した遥が憎かった。遥の顔を見ると、スキャンダルの記事と怒り狂った父の顔を思い出し、顔を合わせたくなくて、ほとんど家に帰らず、会話もしなかった。それでも、遥は文句一つ言わず黙って俺の帰りを待っている。周りに見せつけるようにいい妻を演じる遥の態度に嫌気がさしていた。「周りは欺けても俺だけは騙されないからな。どうせあいつは金目当てで俺に近づいたんだろ」ウイスキーの入ったグラスの氷をカラカラと何度も回して味を馴染ませてから、勢いよく口に含むと、トイレに立った友人がカウンターで飲んでいる俺に気がつき声を掛けてきた。「おう、奏多じゃないか。向こうのテーブルで新入りの女子大生と飲んでいるんだけど一緒にどうだ?」「……今日はもう帰る予定だからやめておくよ。また今度頼む」――――午前
last updateLast Updated : 2025-10-24
Read more
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status