FAZER LOGIN奏多side
遥に離婚を告げてから、まっすぐ帰宅する気になれず、麗華を自宅まで送り届けた後、気分の晴れないまま友人の会員制クラブへ酒を飲みに行った。
俺にとって、遥は人生を狂わせた憎い女だった。出会ったのは、三年前、財閥の代表が集まるパーティーだった。途中からひどい眠気と酔いに襲われ意識を失った俺は、目が覚めるとホテルの部屋で、隣には見知らぬ女がいた。それが遥だった。
「いたたた、頭が重いな。ここはどこだ、それにこの女は誰だ。」
酒に酔うことなど滅多になく、あの日もそんなに酒は飲んでいない。誰かに薬を盛られたのだとしか思えなかった。見知らぬ女といるところを見られて誤解されるのは面倒だと思い、俺は静かに部屋を去った。
しかし、数日後―――――。
「住吉グループ期待の次期後継者・奏多、私生活は愛欲にまみれた自由奔放生活。深夜に一般人女性と密会」
俺と遥がホテルの部屋を出ていく瞬間を週刊誌に撮られてしまった。
このスキャンダルが原因で、住吉グループとの提携を予定していた成瀬グループが取引中止を検討すると発表し、株価は下落。父親は取引中止を阻止して、スキャンダルを抑えるため、俺に遥との結婚を命じた。そして、住吉グループはマスコミの取材に対し“写真の女性は住吉家の婚約者であり、近日中に結婚式を挙げる”と正式に発表した――。
俺に薬を飲ませ、妻の座を勝ち取ろうとした遥が憎かった。遥と顔を合わせるのが嫌で、ほとんど家に帰らず会話もしないようにしたが、それでも遥は文句一つ言わず、黙って俺の帰りを待ち、身の回りの世話をしていた。
「健気に夫の帰りを待って、良妻賢母を演じているつもりなんだろうが、腹が立つ」
ウイスキーの入ったグラスの氷をカラカラと何度も回して味を馴染ませてから、勢いよく口に含むと、トイレに立った友人がカウンターで飲んでいる俺に気がつき声を掛けてきた。
「おう、奏多じゃないか。向こうのテーブルで新入りの女子大生と飲んでいるんだけど一緒にどうだ?」
「今日はもう帰る予定だからやめておくよ。また今度頼む」
――――午前零時、家に戻ると普段なら俺の帰宅を待っている遥の姿がない。リビングの電気はついておらず真っ暗だった。
(あいつ、なんで今日はいないんだよ)
苛立ちながら階段を上り二階の寝室に入ると、荷物をまとめている遥の姿があった。
「こんな時間に何をやっているんだ。家出するふりをして気を引こうとでもしているのか。ふ、所詮お前は、嘘や演技をするしか能がない、俺がいなければ何もできない人間だもんな。」
遥は、何も言わずに睨みつけている。その遥の瞳が気にくわず遥をベッドに押し倒した。
「そんな反抗的な態度は逆効果だ。気を引きたいなら、俺を愉しませるんだな。」
服の紐をほどき思いっきり前を開いてはだけさせる。白い肌が露わになり下着に手を掛けようとした時だった。遥は胸の前で腕を組んで必死に抵抗をしてきた。
「やだ、やめて。触らないで」
「触らないで、だと?」
その言葉に、俺は組んだ腕を解き下着をずらして口を付けた。
「いやっ……」
「お前は俺の物だ。抵抗なんかしないでもっと喘げ」
「いや、やめてって言ってるでしょ」
ガンッ――――
遥はサイドテーブルに置いてある目覚まし時計で俺の頭を叩いてきた。
「何をするんだ。調子に乗りやがって」
遥の反抗に俺はますます憤り、彼女を自分のものにしたい衝動に駆られた。遥が俺に向けた責めるような視線を遮って、手を振りほどいた時だった。
「い、痛い……。痛い、たすけて」
遥が、苦しそうに歯を食いしばりお腹を両手で押さえている。最初は演技かと思ったが、顔色はどんどん青白くなり、身体は小刻みに震え、嗚咽交じりに助けを求めてきた。
「――――遥!?」
奏多side遥に離婚を告げてから、まっすぐ帰宅する気になれず、麗華を自宅まで送り届けた後、気分の晴れないまま友人の会員制クラブへ酒を飲みに行った。俺にとって、遥は人生を狂わせた憎い女だった。出会ったのは、三年前、財閥の代表が集まるパーティーだった。途中からひどい眠気と酔いに襲われ意識を失った俺は、目が覚めるとホテルの部屋で、隣には見知らぬ女がいた。それが遥だった。「いたたた、頭が重いな。ここはどこだ、それにこの女は誰だ。」酒に酔うことなど滅多になく、あの日もそんなに酒は飲んでいない。誰かに薬を盛られたのだとしか思えなかった。見知らぬ女といるところを見られて誤解されるのは面倒だと思い、俺は静かに部屋を去った。しかし、数日後―――――。「住吉グループ期待の次期後継者・奏多、私生活は愛欲にまみれた自由奔放生活。深夜に一般人女性と密会」俺と遥がホテルの部屋を出ていく瞬間を週刊誌に撮られてしまった。このスキャンダルが原因で、住吉グループとの提携を予定していた成瀬グループが取引中止を検討すると発表し、株価は下落。父親は取引中止を阻止して、スキャンダルを抑えるため、俺に遥との結婚を命じた。そして、住吉グループはマスコミの取材に対し“写真の女性は住吉家の婚約者であり、近日中に結婚式を挙げる”と正式に発表した――。俺に薬を飲ませ、妻の座を勝ち取ろうとした遥が憎かった。遥と顔を合わせるのが嫌で、ほとんど家に帰らず会話もしないようにしたが、それでも遥は文句一つ言わず、黙って俺の帰りを待ち、身の回りの世話をしていた。「健気に夫の帰りを待って、良妻賢母を演じているつもりなんだろうが、腹が立つ」ウイスキーの入ったグラスの氷をカラカラと何度も回して味を馴染ませてから、勢いよく口に含むと、トイレに立った友人がカウンターで飲んでいる俺に気がつき声を掛けてきた。「おう、奏多じゃないか。向こうのテーブルで新入りの女子大生と飲んでいるんだけど一緒にどうだ?」「今日はもう帰る予定だからやめておくよ。また今度頼む」――――午前零時、家に戻ると普段なら俺の帰宅を待っている遥の姿がない。リビングの電気はついておらず真っ暗だった。(あいつ、なんで今日はいないんだよ)苛立ちながら階段を上り二階の寝室に入ると、荷物をまとめている遥の姿があった。「こんな時間に何をやっているんだ。家出す
遥sideリビングに入ると、奏多が小さい頃から憧れていた星野麗華がソファで鼻をすすりながら泣いていて、その隣で奏多が優しく彼女の肩を抱き慰めている。パッチリした二重の大きな瞳から流れる涙が、ゆるくまかれた髪にかかり濡らしている。奏多は私の存在に気づくと、麗華に向けていた愛しさ溢れるやさしい顔とは打って変わって憎しみを持った鋭い視線を送ってくる。「麗華になんてことをしたんだ。」「……なんのこと?何をそんなに怒っているの?」「お前、麗華の子供の命を奪おうとしただろ。」(麗華の子どもの命?そもそも麗華が妊娠していることすら知らないのに、何を言っているの?)奏多は、私の態度が気にくわなかったようで更に鋭く睨みつけてくる。「一昨日、お前が出したお茶のせいで麗華は体調を崩して病院に運ばれて、危うく流産するところだったんだ。どうせお前のことだから、麗華の飲み物に薬でも入れたんだろ。俺の時も、俺と結婚するために薬を使ったよな。お前は卑劣な手段も選ばない女だもんな」「何を言っているの?薬なんか一度も使っていないし持っていないわ!私がそんなことするはずないじゃない!」流産と聞いて森本医師の姿とその言葉を聞いた時の恐怖の気持ちが再び私を襲ったが、身に覚えのない話に私は必死で反論をした。しかし、奏多は一切耳を傾ける気はないらしい。「それなら、なんで麗華は体調を崩したんだ。」「知らないわよ。私はやっていないわ」「嘘をつくな!お前の言葉なんて信じられるか。今すぐ麗華に謝れ。」「やっていないのに謝るわけじゃない!それに何であなたがそんなに怒っているの?もしかして流産しかけたのは、あなたたちの子どもだったの?」私が問い詰めると、麗華は大粒の涙を流しながらに奏多の腕を掴んで、訴えるように言った。「もうやめて。これ以上、責めたりしないで。」「でも、コイツのせいで麗華もお腹の子も危険な目に遭ったんだぞ?」「そうだけど……私がもっと注意していれば、こんなことにはならなかったのよ。何の疑いもせずにお茶を飲んだ私が悪いの。私が、私がもっと注意していれば……。」言い終わると麗華は再び顔を両手で隠して号泣し始めた。あたかも私が薬をいれた前提で自分の不注意だと泣く麗華に、奏多は彼女の頭を撫でて自分の胸元へと引き寄せて慰めている。「だから私はやっていない!麗華の妊娠だって知ら
奏多は私を後ろから抱きしめると、指を無造作に動かし私の身体を優しくなぞり、髪をかき分けてうなじにゆっくりと唇と這わせた。奏多の前髪が私の耳をくすぐる。「あ、んっ……」甘い吐息が漏れると、奏多は唇を離して顔を上げると目を細めて私に微笑んでくる。「遥……」私たちは見つめあいながら指や足を絡めていく。ちょっと汗ばんで湿った肌と少し乱れた吐息が、お互いを愛おしく求め合っているようで熱い熱に溺れていった。私は、この時間と関係がずっと続けばいいのにと瞳を閉じた。「―――――そんなことあるわけないだろ」低くて冷たい声が頭の中に響く。「っ……!なんだ、夢か……。」息を呑んで目を開けると、そこには見慣れた天井、誰もいない部屋が移りこんできた。そう、これはただの夢なのだ。住吉財閥の御曹司・住吉奏多と結婚して二年。奏多は、ほとんど家に帰ってこない。(奏多にとって、なくてはならない存在になれば私に振り向いてくれるかもしれない。)奏多に愛されたくて料理や身支度など身の回りのことは全て私が行い、誠心誠意尽くしてきたが、奏多の瞳に私が映ることは一度たりともなかった。しかし、奏多は私のことを愛していなくても帰ってくる度に抱いた。「勘違いするなよ。俺はお前に気持ちはない、好きでも何でもない。妻としての”奉仕”をさせたまでだ」抱き終わってすぐにそう口にする奏多の冷めた瞳を思い出す。その瞬間、甘い余韻は波のように静かに消え去り、奏多の心がここにはないことを痛感させるのだった。それでも、産まれてすぐに両親を亡くし施設で育ち、育ての親からも愛されずに使用人同然で扱われていた私にとって、奏多は初めてできた大切な家族で愛すべき人だった。この二年間、彼の優しい声や顔を見たくて、ただひたすら帰りを待ち続けていた。「はあ……どうすれば奏多は私に興味を持ってくれるのだろう。どうしたらこの関係が変わるんだろう」大きなため息をついて奏多のことを考えていると、ベッドサイドにある時計の針は九時を指していた。「あっ、今日は病院だった!急がないと遅れちゃう」慌てて飛び起きて服を着替え騒がしく階段を駆けおりると、執事が私の急いでいる様子に気がついて声を掛けてくれた。「奥様、お急ぎでしたら車を準備させます。」「悪いからいいわ。一人で行ってくる。」住吉家に嫁いで私も奥様と言われるようになった







