離婚して、今さら愛してると言われても

離婚して、今さら愛してると言われても

last updateLast Updated : 2026-02-05
By:  中道 舞夜Updated just now
Language: Japanese
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スキャンダルがきっかけで御曹司の夫と結婚。しかし、夫は私が罠を仕掛けてスキャンダルを企てたと思いこみ『人生を狂わせた女』と憎んでいた。この誤解が解けたら愛情を見せてくれるかもしれない。 必死に尽くしてきたが、妊娠が発覚した日、家に帰るとリビングでは夫が長年想いを寄せていた麗華の肩を抱いていた。 身に覚えのない罪をきせられて反論するも聞く耳を持たない夫に嫌気がさして、離婚を決意。もうあなたとは関わらない、さようなら。 しかし、四年後。偶然再会した元夫は「愛している」と言い、復縁を懇願してきた

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Chapter 1

1.甘い夢

月明かりが静まり返った寝室を青白く照らす深夜二時、寝室のドアが開く音が聞こえた。寝たふりをしていた私の背中に、硬く熱い胸板が押し付けられる。

「……起きてるんだろ」

住吉グループの次期後継者であり、夫でもある住吉奏多は、私の耳元で小さく囁いて返事も待たず、大きな手で私の腰を引き寄せた。口元から漂うウイスキーの香りとガウン越しに伝わる体温の熱さに心臓が跳ねる。

奏多の手は迷いなくガウンの隙間に滑り込み、指先は繊細な動きで私の身体の曲線をなぞっていく。後ろから首筋に落とされる熱くて深い吸い付くようなキス。その感触に身体が震えた。

「あ、んっ……奏多……」

その声に、奏多は私の髪を乱暴にかき分け、剥き出しになった胸に何度も指ではじいて弄ぶ。熱に浮かされたような声が漏れると、奏多は私の耳たぶを甘く噛み、吐息を吹きかけた。

「もう感じたのか?いやらしい女だな」

意地悪な言葉で罵られているというのに、奏多に触れられているという事実だけで、私の内側は愛おしさで疼いてしまう。奏多の指が私の身体の奥深くに侵入し、容赦なく快楽の渦へと引きずり込んでいく。奏多は、自分のガウンを床に脱ぎ捨てると私の中へと入ってきた。

激しく求められるたび、私は奏多を拒絶することができず、むしろその腕の中にしがみついてしまう。汗ばんだ肌が密着し、吐息が重なり合う。

この瞬間だけは、彼が私を見ているのだと感じることが出来た。

(もっと、もっと私を見て――――――)

愛を乞うように奏多の首に腕を回すと、奏多は鼻で笑い、動きをはやめて私の身体を支配していった。

――――翌朝、着替えを終えて家を出ようとする奏多はリビングに立ち寄ると分厚い封筒を手渡してきた。

「……これは、何ですか?」

私が尋ねると、奏多は視線すら合わせずに冷たく言い放った。

「昨日の『奉仕』への報酬だ。お前のような女には、言葉よりも金の方が分かりやすいだろ。岡田家への仕送りもしておいた」

心臓をナイフで抉られたような衝撃が走る。彼にとって私は身体を売る女と同じ、あるいはそれ以下の存在なのだ。

「報酬だなんて……私はあなたの妻として……」

「妻? 笑わせるな」

奏多が立ち上がって私に歩み寄る。彼の鋭い瞳が私を射抜いた。

「二年前、あのホテルでお前が仕組んだスキャンダル。俺はそのせいで、麗華との未来を奪われた。お前がその薄汚い身体で俺の隣を勝ち取った代償は、一生かけて払わせてやる」

「私は、何も仕組んでなんていない! あの夜のことは、私も……」

「黙れ。お前の言葉など一切信じるものか」

奏多は、お金が入った封筒をわざと逆さにして私の足元にぶちまけた。百万円を束ねる帯が取れ、床に散らばる一万円札に屈辱で視界が滲む。膝をつき、足元に散らばった札束を震える手で一枚ずつ拾い集めるが、 惨めで、苦しくて、息ができない。

奏多がいなくなってから寝室で着替えをしていると、姿見に自分の身体が映り込んでいた。胸元には赤紫色の痕が点々と残っている。これは、奏多からの愛の証ではなくただの「所有物」として扱った刻印だ。

(身体を重ねている時だけじゃなくて、普段から奏多に愛されたい……)

奏多に抱かれるたびに『この人は愛はないけれど欲のために私を抱いている』と虚しさがこみ上げてきたが、いつか私を見てくれる日が来るかもしれないと淡い期待を抱きながら奏多のために、食事や身支度などをこなしているのであった。

(もし、子どもが出来たら……奏多は変わってくれるのかな?私たちをいい方向に導いてくれたりするのかしら)

もう一か月半も生理が来ていない。もしかしたらという微かな期待を胸に、私は病院へと向かった。

「おめでとうございます。妊娠していますね。」

主治医である森本医師が、私のお腹に機械を当てながらにこやかに話しかける。モニターを覗くと小さくて丸いものが僅かに動いている。

「これが赤ちゃん。まだ小さくて人のカタチはしていないけれど、これからどんどん大きくなって手や足が作られていくんですよ。ほら、今もこうして動いているでしょう。これは、赤ちゃんの心臓の動きだよ」

まだ私のお腹に命が芽生えているなんて信じられなかったけれど、画面に映る小さな丸は確かに呼吸をしている。その事実に、言葉で言い表せないほどの喜びがこみ上げる。しかし、森本医師は表情を少し険しくしてから付け加えるように言った。

「ただし、遥さんは通常より子宮の壁が非常に薄いため他の人より流産の可能性が高いです。決して無理をしないようにしてください」

(流産の可能性……?)

せっかく宿ったこの命が産まれる前になくなってしまうことに恐怖で背筋が凍る思いだった。あのエコー画面だけでも喜びに満ちているのに、この子が外の世界を知る前に命が途絶えるなんて悲しみで心がおかしくなりそうだ。

(森本医師の言うことを守るためにも、奏多に言って無理をしない生活を心掛けなくちゃ……)

妊娠したことへの喜びを噛みしめながら病院を後にした。しかし、家に入る直前まで胸にあったわずかな安堵や高揚感は、玄関に置かれたハイヒールを目にした瞬間、静かに消え失せたのだった。

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月明かりが静まり返った寝室を青白く照らす深夜二時、寝室のドアが開く音が聞こえた。寝たふりをしていた私の背中に、硬く熱い胸板が押し付けられる。「……起きてるんだろ」住吉グループの次期後継者であり、夫でもある住吉奏多は、私の耳元で小さく囁いて返事も待たず、大きな手で私の腰を引き寄せた。口元から漂うウイスキーの香りとガウン越しに伝わる体温の熱さに心臓が跳ねる。奏多の手は迷いなくガウンの隙間に滑り込み、指先は繊細な動きで私の身体の曲線をなぞっていく。後ろから首筋に落とされる熱くて深い吸い付くようなキス。その感触に身体が震えた。「あ、んっ……奏多……」その声に、奏多は私の髪を乱暴にかき分け、剥き出しになった胸に何度も指ではじいて弄ぶ。熱に浮かされたような声が漏れると、奏多は私の耳たぶを甘く噛み、吐息を吹きかけた。「もう感じたのか?いやらしい女だな」意地悪な言葉で罵られているというのに、奏多に触れられているという事実だけで、私の内側は愛おしさで疼いてしまう。奏多の指が私の身体の奥深くに侵入し、容赦なく快楽の渦へと引きずり込んでいく。奏多は、自分のガウンを床に脱ぎ捨てると私の中へと入ってきた。激しく求められるたび、私は奏多を拒絶することができず、むしろその腕の中にしがみついてしまう。汗ばんだ肌が密着し、吐息が重なり合う。この瞬間だけは、彼が私を見ているのだと感じることが出来た。(もっと、もっと私を見て――――――)愛を乞うように奏多の首に腕を回すと、奏多は鼻で笑い、動きをはやめて私の身体を支配していった。――――翌朝、着替えを終えて家を出ようとする奏多はリビングに立ち寄ると分厚い封筒を手渡してきた。「……これは、何ですか?」私が尋ねると、奏多は視線すら合わせずに冷たく言い放った。「昨日の『奉仕』への報酬だ。お前のような女には、言葉よりも金の方が分かりやすいだろ。岡田家への仕送りもしておいた」心臓をナイフで抉られたような衝撃が走る。彼にとって私は身体を売る女と同じ、あるいはそれ以下の存在なのだ。「報酬だなんて……私はあなたの妻として……」「妻? 笑わせるな」奏多が立ち上がって私に歩み寄る。彼の鋭い瞳が私を射抜いた。「二年前、あのホテルでお前が仕組んだスキャンダル。俺はそのせいで、麗華との未来を奪われた。お前がその薄汚い身体で俺の隣を勝ち取った
last updateLast Updated : 2025-10-24
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2.流産?
遥sideリビングに入ると、奏多が小さい頃から憧れていた星野麗華がソファで鼻をすすりながら泣いていて、その隣で奏多が優しく彼女の肩を抱き慰めている。パッチリした二重の大きな瞳から流れる涙が、ゆるくまかれた髪にかかり濡らしている。奏多は私の存在に気づくと、麗華に向けていた愛しさ溢れるやさしい顔とは打って変わって憎しみを持った鋭い視線を送ってくる。「お前、麗華になんてことをしたんだ」「……なんのこと?何をそんなに怒っているの?」「お前、麗華の子供の命を奪おうとしただろ。」「麗華の子ども?そもそも麗華が妊娠していることすら知らないのに、何を言っているの?」奏多は、私の態度が気にくわなかったようで更に鋭く睨みつけてくる。「一昨日、お前が出したお茶のせいで、麗華は体調を崩して病院に運ばれて危うく流産するところだったんだ。どうせお前のことだから、麗華の飲み物に薬でも入れたんだろ」流産と聞いて先程の森本医師の言葉を思い出して恐怖が再び私を襲ったが、身に覚えのない話に私は必死で反論をした。しかし、奏多は一切耳を傾ける気はないらしい。「……私がそんなことするはずないじゃない!」「それならなんで麗華は体調を崩したんだ。それに今なんですぐに否定しなかった!」「何であなたがそんなに怒っているの?もしかして流産しかけたのは、あなたたちの子どもだったの?」私が問い詰めると、麗華は大粒の涙を流しながらに奏多の腕を掴んで訴えるように言った。「もうやめて。これ以上、責めたりしないで。……私がもっと注意していればこんなことにはならなかったの。何の疑いもせずにお茶を飲んだ私が悪いの。私が、私がもっと注意していれば……。」言い終わる前に麗華は再び顔を両手で隠して声を出して号泣し始めた。あたかも私が薬をいれた前提で自分の不注意だと泣く麗華に、奏多は彼女の頭を撫でて自分の胸元へと引き寄せて慰めている。「だから私はやっていない!こっちの話を聞こうともしないで、ふざけたこと言わないでよ。あなたたちと同じ空気なんて吸いたくないわ」「うるさい!今すぐ出ていけ!!」奏多の言葉に、胸を抉られたような鋭い痛みが私を襲う。精一杯の強がりで捨て台詞を言った後、震える身体で寝室へと逃げ込んだ。――――――数か月前、奏多の憧れの女性の星野麗華が海外から戻ってきた。それからというもの、麗華はこ
last updateLast Updated : 2025-10-24
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3.星野麗華
「週末、経営者の大事なパーティーがある。家族同伴が必須なんだ。準備しておけ。詳細は執事に話をしておいた。俺は忙しいからいちいち連絡なんてしてこないでくれ」朝、支度を終えて家を出る前に奏多がそっけない口調で私にそれだけ言うと、返事を聞く前に家を出て行ってしまった。(パーティーに出席しろだなんて珍しい。一人での参加は断られたのかしら……)結婚したばかりの頃に一度だけ出席をしたことがあるが、あの時は悲惨だった。「ねえ、何?あの痩せ細った人は、病気かしら……。まだ若いだろうに可哀想そうに」「やだ、パーティーだと言うのにアクセサリーも何もしてこないなんて……。誰もプレゼントしてくれないのね」参加者たちの心ない声が私のところまでしっかりと聞こえてくる。その声は奏多にまで届き、怪訝そうな顔で声の主たちを睨みつけていた。奏多の鋭い視線に、女性たちは気まずそうに早足でその場を退散していった。「お前はもうここにいなくていい。帰れ」私の事を守ってくれたと思ったが勘違いだった。奏多は、そう一言だけ放つと、私の元を離れて赤の他人のふりをしたのだ。周囲がパートナーと腕を組んだり楽しそうに談笑している中で、私の隣には誰もいない。誰からも話しかけられることなく、冷ややかな嘲笑と視線だけが突き刺さっていた。パーティーが終わった後に、次こそはちゃんとした格好で出席しようと私は僅かな貯金からパールのネックレスとピアスを買った。しかし、奏多は私が笑い者になったことで自分も恥をかいたと屈辱を味わったと思ったようで、他の経営者が夫婦同伴で参加する中でも、私の存在を隠すように一人でパーティーに参加するようになった。せっかく買ったパールのアクセサリーは出番なくベッドサイドの引き出しに眠っている。――――パーティー当日、髪を梳かしてドレッサーの前にいる私の顔は浮かなかった。きっと周囲はドレスやお着物で綺麗に整えて眩いばかりの宝石を身に着けて出席するのだろう。だけど、私にはドレスも着物もない。クローゼットを開いて数少ない服の中から黒の長袖のロングワンピースを選んで袖を通した。妊娠をしているから、もし転倒でもしてお腹の子に何かあったら一生後悔するだろう。悩んだ末に、ヒールの低い無地のパンプスを選んだ。今日の朝も、奏多は何も言わずに家を出て行ってしまった。迎えの話もなければ、私の服装を気にかけ
last updateLast Updated : 2025-10-24
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4.暴走 奏多side
奏多side――――午前零時、パーティーが終わってから麗華を家に送り届けて家に戻ると、俺の帰宅を待っている遥の姿がない。普段なら電気が点いているはずのリビングが真っ暗だった。(まったく、あいつは何も言わずにパーティーを抜け出して帰ってしまうし何を考えているんだ)そのまま寝室に行く気にならず、苛立ちながらウイスキーをグラスに入れてリビングで飲みながら、遥と出逢ったときの事を思い出していた。遥と出会ったのは、三年前の財閥の代表が集まるパーティーだった。その日、俺は途中からひどい眠気と酔いに襲われ意識を失い、目が覚めるとホテルの部屋のベッドに横になっていた。頭を押さえながら隣を見ると見知らぬ女が眠っている。それが遥だった。「痛い、頭が重いな。ここはどこだ、それにこの女は誰だ。」酒に酔うことなど滅多になく、酒もそんなに飲んでいない。誰かに薬を盛られたとしか思えなかった。見知らぬ女といるところを見られて誤解されるのは面倒だと思い、俺は静かに部屋を去った。しかし、数日後―――――。「住吉グループ期待の次期後継者・奏多、私生活は愛欲にまみれた自由奔放生活。深夜に一般人女性と密会」俺と遥がホテルの部屋を出ていく瞬間を週刊誌に撮られてしまった。ただのゴシップ記事で、数日もすれば世間は忘れるだろう――そう高を括って、俺は特に気にも留めていなかったが、連日に渡りマスコミが家や会社の前に待ち構えて追われる立場になってしまった。会社に問い合わせや批判の声も殺到し、ついにはこのスキャンダルが原因で住吉グループとの提携を予定していた成瀬グループが取引中止を検討すると発表した。株価は大幅に下落し、父は成瀬グループとの取引中止の阻止とスキャンダルを抑えるため、俺に遥との結婚を命じた。そして、住吉グループはマスコミの取材に対し“写真の女性は住吉家の婚約者であり、近日中に結婚式を挙げる”と正式に発表したのだった――。妻の座を勝ち取るために、俺に薬を飲ませ利用した遥がただただ憎かった。遥の顔を見ると、スキャンダルの記事と怒り狂った父の顔を思い出し、顔を合わせたくなくて、ほとんど家に帰らず、会話もしなかった。それでも、遥は文句一つ言わず黙って俺の帰りを待っている。周りに見せつけるようにいい妻を演じる遥の態度に嫌気がさしていた。「……周りは欺けても俺だけは騙されないからな。どうせあ
last updateLast Updated : 2025-12-25
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5.決意
遥side―――――目が覚めて気がついた時には、真っ白な天井が映し出され、腕には点滴がされていた。(ここは……森本医師の病院だわ。お腹の子は、大丈夫なの?)しばらくするとドタバタと大きな足音が聞こえて、森本医師が慌てた様子で部屋に駆け込んできた。「遥さん?大丈夫ですか?気分は悪くない?」「先生、赤ちゃんは?私の……赤ちゃんは無事ですか?」その言葉に、先生は安心したように息を吐き穏やかな声で言った。「良かった……。赤ちゃんは無事ですよ。だけど、運ばれてきた時はかなり危険な状態で流産するところだった。もうこれ以上の無理は避けてください。ストレスだって注意が必要なんですよ。身体と心が健康でないと身体はおかしくなってしまいます」子どもが無事だったことへの安堵と、もしかしたら大切な命を失っていたかもしれない恐怖で涙がとめどなく溢れた。「……すみません、助けてくれてありがとうございます。病院は、誰が連れてきてくれたんですか?奏多は、今どこに?」「いえ、あなたたちを連れてきたのは住吉家の執事ですよ。」「私たち?……先生、奏多はどうしたんですか?」「病院に着いた時、奏多さんは転倒したとのことで頭から血を流していました。今も処置をしているのでここには来ていません」「それなら、奏多は私の妊娠のことを知らないのですね」「ええ、奏多さんは病院に来てから検査と処置をしていて遥さんのことについては何も知りません」「先生、お願いです。妊娠のことは奏多には、絶対に言わないでください。奏多にだけは知られたくないんです」「……何か言いたくない事情でもありそうだね。わかりました。約束します」(奏多は嫌がる私を気にすることなく自分の思いのままに私を抱こうとした。私が妊娠していることだって知っているのに……。所詮、奏多にとって私は性欲を満たすための都合のいい女でしかないんだ)森本医師が部屋を出ていったあと、ベッドで横になって休んでいると病室の扉が再び開いた。看護師の巡回かと思い目を瞑って身体を休めていたが、目の前に現れたのは、星野麗華だった。「やだ、奏多が心配でお見舞いに来たけれどあなたもいたのね。ちょうど良かった。あなたに言っておきたいことがあるの。」「言っておきたいこと?何よ」「私のお腹の子の父親のことよ。この子の父親は、奏多よ。あなたとは違って、奏多と私はお互
last updateLast Updated : 2025-12-27
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6.新生活
遥side玄関を開けると眩しい朝の光が差し込んできた。その光を感じながら、私は最後にもう一度だけ家の中を見渡す。私も住んでいたはずの場所なのに、自分には関係ないどこか遠い世界のもののように感じられ不思議な気分だった。キャリーケースの車輪の転がる音が、私と過去を切り離す合図のように響いている。バッグの奥から、ずっと大事にしていた銀色のペンダントを取り出すと、陽光を受けて細い鎖が小さく輝いた。首にかけた瞬間、スマートフォンが岡田からの着信を告げ、激しく震えた。「住吉家から今月のお金がまだ振り込まれてないぞ!何をしてるんだ!」耳が痛くなるほどの怒鳴り声に、私は深く息を吸い込んで答えた。「……もうお金は渡せません。奏多さんとは離婚して、もう住吉家とは何の関わりもなくなりました。」「はあ?何だって。お前、捨てられたのか?なんてことしてくれるんだ」岡田の声が一段と甲高くなる。「離婚だろうが何だろうが関係ねえ!金は毎月きっちり振り込んでもらうからな!」全身に染みついた長年の恐怖が一瞬で蘇る。私は胸元のペンダントを強く握りしめた。(――もうこの人に縛られる人生は嫌だ。)「もう十分払いました。もし今後も連絡をしてくるようなら、西村家に今までのことを全て話します。」「この恩知らずが! 誰が育ててやったと思ってる!」「……ええ、育ててもらいました。その代わり、私の給料も全部あなたの懐に入れていましたよね?結婚してからも二年間で三千万円振り込んでいる。十分に恩は返しているはずです」岡田が叫ぶ声が聞こえてきたが、通話を切り番号を即座にブロックした。震える指先とは裏腹に、心の中は不思議なほど静かで穏やかだった。見知らぬ街の通りを歩きながら空を見上げると、新しい生活を祝福するかのようにまぶしい太陽の光が顔に降り注いでいる。結婚後に岡田に渡していたお金とは別に、自分の口座に貯めていたお金でマンションを買い、住吉家とは全く縁のない街で新しい生活をスタートすることにした。まだ荷物のないこの部屋は、殺風景で真っ白だ。この余白をこれから自分で作り上げていくかと思うと少しだけ胸が弾む。奏多と住んでいた家のような広さや豪華さはないが、誰の顔色を伺うこともしなくていい生活に私の心は満たされていた。日用品を買いに行こうと外に出ると、真昼の日差しが容赦なく私に突き刺さってくる。く
last updateLast Updated : 2025-12-29
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7.兄?
遥side「兄……って、どういうこと?」幼い頃、岡田から罰を受けるたびに、『本当の家族に会いたい、いつか本当の家族が私の現状を知って助けに来てくれる』そんなことを夢見て願っていた。そして今、実の兄だという男性が目の前にいる。しかし大人になった今は、喜びや感動よりも先に不信感や信じられないという気持ちが強く、震える声で今まで聞かされていた説明を口にした。「私、孤児院で育ったの。冬の朝に捨てられてて、残されたのはこのペンダントだけって院長が言ってた」私より数個年上に見える彼の顔を見つめながら、胸元の銀のペンダントをぎゅっと握りしめる。男性は瞳には深い痛みが滲ませながら、眉間に皺を寄せて苦しそうな表情で話しかけた。「そうか、でも僕はずっと君を探していたんだ」「探してたって……どういう意味?」「君は、僕の実の妹で本当の名字は東宮なんだ。そして、その証拠がこのペンダントだよ。これは、東宮家の紋が刻まれた特別なもので東宮の血筋にしかあり得ない。」──指先で私の首にかかったペンダントを指さすと、切ない声で真剣な表情をして訴えかけるように俊は語り始めた。「君は、産まれてすぐに何者かに誘拐されたんだ。自宅の庭先で僕が遊んで君にはベビーカーに乗せられて日光浴をしていた。僕がトイレに行きたいと言って家政婦と一緒に屋敷に入ったほんの一瞬の間、君は一人になったんだ。すぐに戻ったけれどベビーカーに君の姿はなく、どこを探しても見つからなかった」喉が詰まり、彼の声が震える。「それから毎日、自分のせいで妹が何者かに誘拐されたと責め続けたんだ。」記憶がない私にとって、その話が自分の身に起きたこととは思えずに半信半疑で聞いていた。俊も私の気持ちを感じ取ったのか、彼は胸元から自分と同じ形のペンダントを取り出して私の持っているものと重ね合わせると、二つはピッタリと重なりハートの形になっている。「これは、父と母が君が産まれた時に僕たち兄弟がずっと手を取り合って仲良く生きていくことを願って特注で作ったものだ。このペンダントがぴったり重なるのは、世界に一個だけしかない。」綺麗に重なりハート型になったペンダントを見て、俊は確信に満ちた瞳で私を見ている。「それに、さっきの事故だけど――助けたのは偶然じゃない。偵察の者から、君が今朝、キャリーバッグを持って家を出ていったと報告を受けたんだ
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8.真の家族
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9.後悔 奏多side
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