辰彦は息を呑んだ。離婚協議書と離婚届だと?そんなもの知らない。美緒がいつサインしたんだ?しばらくして、かろうじて口を開く。「離婚協議書と離婚届はどこにある?」悠希は目をこすり、階下へ駆け下り、車に置いてあった書類を持ってきた。そして辰彦に渡す。「これはママがくれた誕生日プレゼントなんだ。『願いが叶う』って言ってたから、さっき開けてみたら、離婚協議書と離婚届って書いてあって……」話すうちに、悠希の声はどんどん小さくなっている。辰彦の顔がますます青ざめていくのを見ている。こんなパパは今まで見たことがなく、もう話すのが怖くなる。その時、辰彦は協議書と離婚届に書かれた整然とした「杉山美緒」という文字を見て、まるで雷に打たれたかのようだ。本当に離婚書類にサインしていた。しかも、それを誕生日プレゼントとして悠希に渡した。その瞬間、彼はようやく、誕生日パーティーで美緒が言った「願いが叶う」という言葉の意味を理解した。悠希は、真理奈を母親にしたいと願った。美緒が離婚届にサインすれば、ちょうど彼女にその座を譲ることになる。辰彦の目に、珍しく茫然とした色が浮かんでいる。だが……あれは子供が何も分からずに言っただけじゃないか。どうしてそれを本気にするんだ?それに、自分はサインしていない。まだ離婚していない。そう思うと、離婚協議書を粉々に引き裂いた。美緒と離婚しない!美緒はただ嫉妬しているだけ。一時的な衝動で、理性的でない行動に出たに違いない。冷静になれば、きっと帰ってくる。辰彦はしゃがみ込み、五歳の息子を真剣に見つめる。「悠希、覚えておけ。お前のママは美緒だけだ。他の誰かになることはない。パパもママと離婚しない。離婚したら、ママはもう俺たちと一緒に暮らせなくなるんだぞ。お前はもうママに会えなくてもいいのか?」小さな悠希は、離婚したら二度とママに会えなくなるとは知らない。辰彦にそう言われて、すぐに緊張し、その幼い声には隠しきれない恐怖が混じっている。「いやだ。二度とママに会えないなんていやだ」辰彦の表情は和らぎ、彼の頭を撫でる。「心配するな。ママは一時的に怒っているだけだ。きっと帰ってくる」そう考えた辰彦は、当面、美緒の行方を探すのはやめようと決める。二人
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